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「クリスさんは真面目だなぁ」


  明くる日の朝のこと。風呂でのぼせた俺は、その後結局朝まで寝てしまっていた。色々あったし、まだ疲れは抜けきっていなかったということなんだろう。お陰で起きた時はスッキリだった。

  身支度を整えて、宿の外へと出る。この身体になってから結構な時間が経っているせいか、スカートを履くのにもだんだん抵抗がなくなってきた。今日用意されていたのは真っ白なワンピースだった。俺の着替えはクリスさんとフユが相談して決めているので、俺に決定権はない。俺の着替えなのに、おかしい。

  宿の玄関の前でぐーっと背伸びをする。朝日はまだそんなに高くなく、まだ早い時間なのだろうなということが伺える。


「ちょっと散歩でもしようかな。部屋に誰も居なかったけど、どこにいるんだろ」


  俺は宿の側の森の中をテクテクと歩き始める。少し危険かなとも思ったが、宿や他の家々も近くにあるし、最悪鐘の守護者のカードを使えば多少のピンチを切り抜けることが出来るだろうなんて、楽観視していたのだ。

  小鳥の囀りや木々の葉がさわさわと風に揺れる音が聞こえる。朝のそう暑くない風が頬を撫でて気持ちがいい。まぁ、股をスースーと抜けて行く感覚だけはさすがに慣れないけれど。

  カサカサと草むらが揺れ動くと、ひょこりと小さい動物の頭が飛び出した。長い耳に赤い目。そして額には……角?  後から聞いたところ、角兎という小型の魔物であるらしかった。

  この時の俺は魔物だとは知らず、かわいいウサギがいると思いちょっと捕まえてみようと後を追いかけてみたのだった。

  ふと、カキンと金属がぶつかるような音がした。その音のせいでウサギは何処かへ逃げていってしまい、完全に見失ってしまった。

  仕方なしにその音のする方向へ向かって見ると、開けた場所の真ん中で、クリスさんがエルフの魔術師に魔法を撃たれているところだった。


「危ない!」

「えっ!?」

「っ!」


  俺が声をかけてしまうと、それに気を取られてしまったのか、エルフの魔術師の魔法が俺の方へと飛んできてしまう。俺は思わずその場にしゃがみ込み頭を押さえて丸くなる。そんなことをしても、魔術を防げるわけなんてないのにも関わらずだ。

  しかし、予想と違い魔術は俺の方には飛んでこなかった。

  恐る恐る上を向いてみれば、クリスさんが盾を構え魔術を防ぎきっていた。

  エルフの魔術師さんはこちらへ駆け寄ると凄い勢いで謝って、俺が大丈夫だからいいと許すと、落ち込んだようにトボトボとその場を去っていった。


「ふぅ、びっくりしました。急にこんなところに顔を出しては危ないですよ?」

「ご、ごめんなさい。というか、クリスさんはこんなところでどうしたの?」

「ちょっと訓練といいますか……アキナちゃんにはなるべく見られたくなかったと言いますか……」


  途中から小声だったのでよく聞こえなかったけれど、クリスさんはどうやら盾術の訓練を行っていたらしい。

  盾術やステータスの急激な上昇に、クリスさん自身の身体や感覚などが全然追いついていないらしい。俺の目にはそんなようには見えないけれど、クリスさん自身からすればまだ全然だということだ。

  普段は1人で訓練したり、フユやルーカス、今のメンバーになってからはポプリにも頼んでいたのだが、生憎と今はみんな怪我をしていたりでまだ訓練をする程には回復してはいない。そのため、この宿に在中していたエルフの魔術師さんにご協力をお願いしたのだとか。魔術師さんも自身のスキルアップを望んでいたので渡りに船だったとか。


「ステータスや身を守る盾のおかげというのもありますが……私は今回の戦いにおいてあまり役に立てたとは言えません。せっかくアキナちゃんの守護者に、盾の守護者になったというのに、このままではアキナちゃんにも、初代である曽祖父様にも、この盾にも顔向けができません。だからこそ、訓練を重ねているのですよ」


  なんとクリスさんはそんなことを考えていたのか。俺は自分が帰ることしか考えてなかったというのに。

  責任感が強いというかなんというか。


「クリスさんは真面目だなぁ」

「それだけが取り柄ですので」


  クリスさんはそう言った後に、もう終わりなので戻りますと盾を片付けはじめた。俺も一緒に戻るので、その片付けを待つことにする。手伝おうかとも思ったけれど、俺の力じゃ盾を持ったりなんてできないのでただ見ているだけに止まった。

  その様子を見ていると、またカサカサと草むらから先ほどのウサギがひょっこり顔を出す。

  今度こそ捕まえてやろうとそーっとそのウサギに近づいて行くと、不意に俺の横をサッとクリスさんが通り、腰に帯刀していた剣でウサギの首を刎ねた。

  首からピューっと血が吹き出し、辺りを赤く染め上げる。

  俺は突然のことに口をパクパクとさせて動けなかった。


「あれは角兎といって、力はないですが一応魔物ですよ。……そう言えばアキナちゃん、どうしてこんなところまで来ているんですか?  フユちゃんやモモちゃんも連れてこないで、こんな森の奥まで1人で来たんですか?」

「え?  いや、その、あの」


  剣を構えたまま怒っているクリスさんは、その身体に血が付いていることもありなんだかめちゃくちゃ怖い。


「いいですか。これは角兎と言って小さいけれど魔物なんです。アキナちゃんは自分の実力というか自分のことをもっとよく知っておくべきです。如何に角兎がそんなに驚異のない魔物とは言え、アキナちゃんからしてみれば十二分に驚異のある魔物と言ってもおかしくないんですよ!  それだというのに周りに誰もついてこないまま森の中をふらふらと歩くなんて、何かあったらどうするつもりだったんですか!  こういうとアキナちゃんは守護者のカードを使うからっていうと思うんですけれど、それだってたった10分しか使えないのに、こんなことに使って本当にいざという時に使えなかったら本末転倒じゃないですか!」


  きっと心配してくれているのはわかるんだけど、延々と説教を受けるのはやっぱり辛いものがある。

  日本人らしく正座でお説教を受けていたら、足が痺れて歩けなくなってしまった。そのため、クリスさんに背負われて宿へと戻って行く。

  俺には姉はいなかったけれど、姉がいたらこんな風に心配して怒ってくれるのかな。なんてそんなことを考えていた。

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