「いや。アキナとお風呂」
「いいお湯でしゅねぇ」
「ええ、エルフの森の中にこんな素敵なところがあるなんて知りませんでした」
「気持ちよくて寝ちゃいそうだゾ……」
「お湯、ぽかぽか。気持ちいい」
四者四様に温泉の感想を零している。温泉なのでもちろんその身体には服はもちろん、水着やタオル、あるいは湯浴み着ですら、そういった無粋なものを身につけている人間は1人もいない。というか、人間じゃないのもいるけれど、そういった人たちはもちろん何も着ていない。みなすっぽんぽんだ。
それはもちろん俺も例外じゃないわけであって、着いて早々温泉に入ろうと皆が言ったあたりで「じゃあ俺は泊まる部屋で待ってるよ」と言ったはずなのに。モモに抱きつかれたままで、モモの腕が俺から振りほどかれることはなく。そしてそれを誰も咎めることはなく。そしてなすがなされるがままに、俺は今彼女らとともに温泉に入っていた。
隣の男湯にはルーカスとフーコーがゆっくりと浸かっている頃だろう。どちらかと言うのであれば、俺もそっちに混ざりたい。男色趣味とかそういうわけではないのだけど、この女湯で女の子たちと一緒に温泉に入っているという状況は、やっぱりなんというか居づらくて堪らないし、見てられなくて恥ずかしいのだ。
「アキナしゃんもこっちに来たらいいじゃないでしゅか。冷たいジュースがあるんでしゅよ」
「行けないからこうしてるんだよ!」
今俺は誰も居ない露天の温泉の景色の方を向いて肩までしっかりとお湯に浸かってる。幸いにもお湯の色は乳白色で、お湯にさえ浸かっていれば身体がしっかりと見えることはない。
けれど、後ろにいる彼女たちはちょっと違った。後ろを見ていないけれど、ちゃぽんというお湯から出る音が聞こえたあたり、のぼせた身体を涼めるために温泉の縁に腰掛けているのだろう。全裸で。いや温泉なんだから当然全裸なんだけど。
この中で一体何人がお湯から出ているのかわからないけれど、ともかくこんな覗きみたいな真似は良くないと思うのだ。
「アキナしゃんは強情でしゅねぇ……」
「強情ってなんだよ……」
フユのその物言いに俺は納得はいかないもののどうすることもできず、文句をポツリと言うことしかできなかった。
そんな俺の元に、ちゃぷちゃぷと誰かが近づいてくる音が聞こえる。
「アキナ、一緒に入る」
声から察するにモモだろう。多分モモのことだから俺に抱きつくつもりなのだろうけれど、今ばかりはそんなことをさせるわけにはいかないのだ。
どうにか退路を探すものの、俺のいる位置は出口から1番遠い位置。しかも出口は1つしかなく、その出口の近くには誰かしらいることだろう。あれ、俺詰んでるんじゃ。
「も、モモ? ほら、俺男だって言ったじゃん? だからさ、本当はここにいるのもダメなのに、みんなの裸なんて見ちゃダメだって……ってうわぁっ!?」
「アキナ、みんなと一緒に入る」
俺は結局逃げ場がないことをいいことに、モモに捕まってしまった。
モモの身体は、一般的な女性ぐらいの大きさしかないけれど、それでも今の俺の身体よりは当然大きい。それに、ステータスも長年培って来たのか聖女ミレミアのおかげなのか、普通の魔物や人間に比べるとかなり高いものになっている。そんなモモに捕まって、俺が逃げられるわけもなく。
「モモっ! はーなーせー!」
「いや。アキナとお風呂」
ちゃぱちゃぱと水をかき分けてみんなの元へと進むモモ。俺はその胸の中に抱かれながら、みんなの裸を見てしまわないように、両手で顔を覆うので精一杯だった。
ちらりと目を開けようものなら、きっと肌色が目に飛び込んでくるに違いない。
「アキナは何恥ずかしがってるんだゾ?」
「その……色々と事情があるんですよ……あはは」
ポプリが疑問に思っているのを、クリスさんが誤魔化している。
実はポプリには俺が男だということは伝えてはいない。ポプリに話すと、何か面倒ごとを起こしそうだったからだ。勝手に色んなところで話されてややこしくしそうだったからでもある。
そんなわけでポプリは俺が女湯にいることは特に疑問に思ってはいない。モモはあの調子だし、クリスさんも別に忌避していない。
クリスさんはことあるごとに一緒に風呂に入って身体を綺麗にしようとしてくるので今更だ。始めは男だからと湯浴み着とかを着て照れていたはずなのに、いつの間にか気にしなくなっていた。体の汚れについては、自分では綺麗にしているつもりでも、クリスさん曰くまだ足りないとのことだ。
そして、フユも今となっては気にしていないようだった。それどころか、最近では早くこういうことに慣れろなんて言ってくる始末だ。初めの頃は一緒に入るときは子犬形態になっていたのはずなのにどうしてこうなった。
「アキナしゃんは懲りないでしゅねぇ、みんな揃ってて逃げられるわけないじゃないでしゅか」
「だから、なんでお前は平気そうなんだよ……!」
なんか一方的に俺だけが恥ずかしがっていて、逆にムカムカしてきたぞ。
俺がそういうと、フユは呆れたように言葉を返す。
「なんというか、照れてるアキナしゃんを見てると、こっちが照れるのがアホらしくなってくるんでしゅよ。それに今は身体は女の子でしゅし、欲情される心配も襲われる心配もないと判断したんでしゅ」
「私はその、アキナちゃんのことは妹のように思っているので、アキナちゃんのことを洗ったりしているうちに肌を晒すのも抵抗無くなってきたのです」
「なぁ、今は女の子ってどういうことだゾ?」
全然理解指定なさそうなポプリのことは無視して。
フユだけではなくクリスさんまでもが裸を見られることに抵抗がなくなっていたという事実が、なんというか男としての尊厳に傷がついてしまった感じだ。
「しょもしょも、しょんな身体で男の尊厳とかあったんでしゅか」
フユの言うことはもうこの際無視しよう。
見られて平気だと言うのなら、いっそこの目で確かめてやる。
見るぞ……見るぞ……あれ、なんだかクラっとして……
「アキナ、大丈夫?」
「あ、アキナしゃん、悶々としままじゅっと浸かっていたからのぼしぇているんじゃ……」
「えぇっ!? アキナちゃん!? 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「なーなー、今は女の子ってどういうことだゾ!?」
みんながわいわいと騒ぐ中で、俺は意識を手放したのだった。




