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「そういう反応をするってことは、そういうことでいいエルフか?」


「モモがドライアドでしかもその核に聖女ミレミア様の骨を使っていて、しかも聖女様の記憶まで持っている。そして【アスクゥリオン】はカードに封印されたような状態になっていて、それを解放するにはアキナじゃないとできない。しかも【アスクゥリオン】だけじゃなくて、他の守護者様の使っていた武器も似たような状態かもしれない……頭が混乱しそうエルフね……」


  口癖が抜けてしまうぐらい真面目に話すティーミリアさんを、俺たちは黙って見ているしかなかった。

  あの後、街へ戻りとりあえずティーミリアさんに事情を話そうと考えクリスさんとモモを連れたままティーミリアさんの屋敷へとやってきた。街は結構壊滅していたけれど、この屋敷はどうにか無事でティーミリアさんは中で仕事に追われていた。

  中に案内され起きたことを話すと、冒頭のようにブツブツと考え事を始めてしまったのだった。なんだかしばらくかかりそうだったので、俺たちはティーミリアさんのとこの使用人が淹れてくれた紅茶を飲みながら待つことにする。

  しかし……


「モモ、1人で飲めるから、いい加減降ろしてくれ」

「やだ。もうアキナと、離れない」

「それにしたって限度ってものがあるでしょ……」


  俺はここで話している間、モモの膝の上に乗せられたままだった。そのままモモが紅茶を運んでくれたり、御茶請けを口元に運ばれてあーんされたりとモモのやりたい放題となっている。モモは無表情ではあるが、なんとなく嬉しそうではあるので、あんまり強く断れない。

  後、クリスさんはそう羨ましそうな顔をしないで欲しい。


「いつまでそうしていちゃいちゃしてるつもりエルフか?  ……私だってミレミア様に色々してもらいたいエルフ……」


  いつの間にか思考の渦から戻ってきたティーミリアさんが半眼になってこっちを見ていた。なんか後半に願望があふれていた気がするけど、気にしないでおこう。

  ティーミリアさんも紅茶に口をつけ一息つくと、じっとこちらを見た。


「アキナさんは、今代の勇者エルフか?」

「ぶふぉっ!」


  ティーミリアさんの質問に、俺は飲んでいた紅茶を思わず吹き出してしまう。幸いにも誰にもかかりはしなかったが、口の周りをハンカチで拭かれたりお世話されっぱなしな状態はどうにかしたい。


「そういう反応をするってことは、そういうことでいいエルフか?」

「いや、そうだけどそうじゃないというか……」


  俺はこれ以上隠すのは無理だと思い、ティーミリアさんに俺自身のことを話し始めた。勇者として選ばれたが断ったこと。その腹いせにこんな姿にされてこの世界にやってきたことなんかを話した。

  1番聞きたそうにしていたのは聖女の装備のことだったが、あれは俺も詳しくは知らない。……というよりもわからないのが正解か。モモを助けたいと思ったら、コンパクトとカードの使い方がなんとなくわかったという他にない。

  けれど、少なくともこれで今までのようにお荷物になっているだけではなくなったのは俺にとっては僥倖だった。しかし、


「効果が10分しか持たないのは、なんとも使いどころが難しいエルフね」

「そこなんだよなぁ……」


  前にも説明しているが、スキル【勇者転身(ブレイブインストール)】は守護者の力を俺自身が行使できるようになるというものだ。その内容は主に、守護者の現在ステータスを自身に加算、守護者の現在スキルの使用、そして、過去の守護者の武器の使用。この3つが主なスキルのないようになっている。

  しかし、その効果は僅か10分間しか利用できない。コンパクトに表示されていた10:00という表示は単にタイムリミットだ。なんともわかりやすい設計なのだろうか。


「まぁ、そのスキルのことはもういいエルフ。結局使ってる本人にもわかっていないのなら、そのカードを返してもらったところで【アスクゥリオン】を解放することはできないエルフ。それに、その力を奪ってアキナさんをまた完全に無力な少女にするなんてこと、私はできないエルフよ」

「アキナがなんの力がなくて、無職童貞のニートでも平気。私が守る」

「ねぇなんでそんなひどいこと言ったの」


  ふんすと胸元でぐーを作ってるモモは、なんというか頑張って欲しいとは思うけれど、そこまで酷いことを言われる理由にはならないと思う。後無職やニートじゃなくて学生です。童貞は……うん、まぁ今は置いといて。


「まぁとにかく、エルフの街フォーレスはアキナたちを支援するエルフ。差し当たってはフユさんとルーカス、それにポプリとフーコーも?  怪我が治るまではゆっくりするといいエルフ」

「支援?」

「当然じゃないエルフか?  街を救ってくれた英雄を、支持支援しなかったら私の方が街のみんなに恨まれるエルフ」

「まぁそういうことならありがたく」


  とりあえず色々と助けてくれるというのであればありがたく受け取っておこう。

  この街での色々は終わったということでいいのかな。

  いや、まだか。


「ところで、あの変態SM嬢……ファーミリだっけ。あれは一体何をしに現れたんだ?  ただ街を破壊しにきたってだけじゃあ、理由が足りていないというか」


  そう、あの襲撃者、ファーミリ・サーカスの目的だけがわからない。徹頭徹尾意味不明なんだ。

  昔に王都を襲った理由も、今回フォーレスを襲った理由も、処刑されたのに生きている理由も、何1つわかっていないのだ。


「それはこっちでも調べておくエルフ。功労者さんにはとにかくゆっくりして欲しいってのが街の皆の望みエルフ」


  なんか邪魔だからゆっくりしてろって言われているような気分だ。

  でもまぁ、調べたりなんだりなんてのは、俺たちは得意じゃないだろう。俺とフユはそもそもがこの世界の人間じゃないし、モモはなんというか論外だ。これはポプリも同じだろう。フーコーはよくわからんけれど、こういうのが得意なのはルーカスとかクリスさんあたりだろうか。

  と言ってもルーカスだってまだ不調だし、ティーミリアさんの言う通りしばらくは大人しくしているしかないのだろう。一刻も早く元の世界に戻りたい俺としては誠に遺憾ではあるけれど、こればっかりはしょうがない。


「まぁ、みんなの調子が良くなるまではゆっくりするしかないか」

「そうするといいエルフ。そうそう、西側の無事な方に温泉宿があるからそこでゆっくりするといいエルフ。宿は私の名前で抑えているから気にせずゆっくりするといいエルフ」


  その用意周到さに、やっぱり厄介払いをされているようにしか感じられずにはいられなかった。

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