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「モモも、一緒にいっていいの?  モモのこと、許してくれるの?  モモは、みんなを」


  モモのハイライトのない深緑の瞳がすうっと開いていく。

  そこにいるのは間違いなく、俺たちと一緒にいたモモの姿だ。ミレミアさんの神々しさや気品の良さは全く感じられない。いや、少しはそういう風に見えてくれた方がいいんだけど。それも含めて、こっちで面倒を見なきゃいけないってことなのかな。

  モモは俺たちに気がつくと、ビクッと肩を震わせてその場にしゃがみ込んでしまった。


「も、モモ?」

「ごめん、なさい。ごめん、なさい」


  ……モモはきっと、自分のやったことをしっかりと覚えているんだ。

  操られていたとはいえ、自分の能力で操っていた魔物が俺たちを襲ったりしていたんだ。それを、誰にも言えず自分の中に溜め込んで、それをどうにもできなくて……。

  抱え込んで抱え込んで、吐き出すこともできずそれでもなお抱え込んで。そしてついに抱えきれなくなってしまったんだ。

  モモは頭を抱えてふさぎ込んで謝り続けている。顔は見えないけれど、きっとひどい顔をしてしまっているんだろう。


「ごめん、なさい……」

「モモちゃん……」


  クリスさんも流石にどうしていいのか、どう声をかけたらいいのかわからずに尻込みしてしまっている。

  けれど、俺だって何を言っていいかわからないんだ。

  ふと、ミレミアさんの顔が思い浮かぶ。最後にモモをよろしくお願いしますと言ったミレミアさんの顔だ。

  頼まれたんだったら、どうにかしなくてはいけない。


「モモ」


  俺はモモの名前を呼ぶ。

  モモはまたビクッと肩を震わせる。

  きっと、恐れているんだ。俺たちに嫌われてしまうことが怖いんだ。拒絶されるのが怖いんだ。……1人になるのが怖いんだ。

  そしてそれを怖くさせてしまったのは俺たちなんだろう。

  ずっと1人でこの木に住んでいたモモにとって、俺たちと過ごした何日間はとても新鮮で楽しいものだったんだと想う。それは、何年も1人で過ごした記憶を取り戻して余計に感じてしまっていることだろう。


「モモ、俺たちと一緒に来よう」


  だから、俺はそうモモに言う。


「俺たちと一緒に旅をしよう。俺たちと一緒に、いろんなところに行って、いろんなところを見て、いろんなものを食べて、いろんなことをしよう。それで、ずっと俺たちと一緒に行こう。そうしたら、1人じゃないから」


  モモから返事はない。けれど、これだけでモモの心が開けるなんて思っちゃいない。

  だから、もっと伝えないと。


「モモちゃん!  私とも旅をしましょう!  もう1人になんてさせません!  アキナちゃんとフユちゃんと、それだけじゃなくて、もっといっぱいの出会いがあると思うんです!  だから、私たちと一緒に!」


  クリスさんが力一杯に叫ぶ。

  モモは、泣きそうな顔を上げて俺たちの方を見た。


「モモも、一緒にいっていいの?  モモのこと、許してくれるの?  モモは、みんなを」

「許す!  っていうか、モモのせいじゃないだろ。悪いのはあの変態だ。モモは悪くないし、何があっても俺たちはモモのことを許すし、ずっと一緒にいるよ」

「でも、フユも、ポプリも、みんなひどい怪我、だって」

「それももう大丈夫だ!  俺の……いや、お前の、モモの力でみんな無事なんだ!」


  これは本当のことだ。

  コンパクトにカードをセットして変身をする能力……俺の新しいスキルとなった【勇者転身(ブレイブインストール)】の力は、守護者の能力と直結している。

  これは過去の守護者ではなく、俺が決めた新しい守護者の能力だ。例えば先ほどの戦いの時に使った鐘の守護者のカードで変身した場合、俺の能力値ーーと言っても1しかないからあってないようなものだけどーーにモモの能力値を足したものを俺が行使できる。能力値だけじゃなく、スキルもだ。

  俺がファーミリと互角に渡り合ったり、フユやポプリに【ポイズンヒール】のような聖魔法や木魔法を使えたのも元はモモのスキルがあってこそだ。【ディスペル】もモモが使えないことはないけれど、モモの場合魔力が足りなくて自力では使えないだけだ。


「だからモモ、俺にはお前の力が必要なんだよ。俺と一緒に来て欲しい」

「も、モモは、モモはっ、うわぁぁぁぁん!」


  モモはついに我慢しきれずに泣き出してしまう。俺はそれを抱きしめ、モモの頭を抱え込む。頭をポンポンと叩いて、少しでも落ち着かせようとする。

  少し落ち着いて、モモがポツリと話し始める。


「モモは、魔物、だから」

「それもミレミアさんから、モモのお母さんから聞いている。そしてモモのことも頼まれている。けど、そんなことは関係ない。俺は、俺たちはモモがモモだからいいんだ。モモが魔物だとか、聖女の子だとか、そんなことは関係ない。モモがモモだから、俺の守護者になって欲しい」

「モモ、は」

「周りなんて関係ない。俺たちと一緒に行こう。それとも、モモは俺たちとは一緒に行きたくない?」


  モモは首をブンブンと振る。それは、俺たちと一緒に行きたいと思っているということ。

  言うべきことは言ったと思う。だから、あとはモモが自分の意思で俺たちの方に来てくれることを願うだけだ。


「モモは、アキナと、一緒に行っていいの?  もう、1人じゃなくても、いいの?」

「ああ、1人じゃなくてもいいんだ。これからは、俺たちとずっと一緒に行こう」

「ええ、私たちと、ずっと一緒ですよ」


  わんわんと泣くモモを、俺とクリスさんでなだめる。

  しばらくして泣き止むと、一息ついてからモモは言った。


「あらためて、鐘の守護者、モモ。お母さんに恥じない守護者になります。……行ってきます、お母さん」


  こうしてこの日、モモは本当の意味で俺たちの仲間に、鐘の守護者になったんだ。


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