「ああそうですよね、いきなりそんなこと言われても困ってしまいますよね。
「ああそうですよね、いきなりそんなこと言われても困ってしまいますよね。けれど、それはどうしようもなく本当のことなので、それ以上も以下もないのですけれど。
まぁとにかく聖女の遺骨が年月を経て、その残存した魔力を持って巨大な魔石となり、それをその近くに植えられた世界樹が取り込んでしまい私は誕生しました。ただし、その時に生まれたのは『私』ではなく、あなたたちがモモと名付けたこの子になるのですが。
では私は何者なのかと言うと、聖女ミレミアの遺骨、魔力、それらに浅ましくも残ってしまった記憶の残照……と言うのが近いのでしょうね。この子の身体の中でほんの少しだけ残ってしまった聖女の亡霊とでも呼んでもらえれば結構でしょうか。
ええ、その顔はわかっています。なぜ『私』という意識がありながらモモの意識もあるのかと聞きたいのでしょう。
それは、私の意識は記憶を元に再現されいているだけのものであり、魔力を増大させないと表には出せないものなのです。今回はあなたの守護者となったことで運良く出てこれた……違いますね。きっとこれはそう、守護者になったことで説明をするために私の意識が出てこれたのでしょう。
それで何の説明なのかという話なのですが、それはこの子の道筋を辿っていくことでお話させていただきましょう。
この子と今の私の生まれについてはまずお話しさせていただきましたが、問題はその後です。
本来魔物というのは意識を持たず、本能のままに人や動物を襲い魔力を求める性質を持つのですが、幸か不幸か、この子には私の記憶からなる意思が存在しました。もっとも、本当に産まれたての赤ん坊のような意思のため、自分が何者か、何をするべきなのかということも分からなかったのでしょう。さらに言えばこの子の魔力はこの世界樹から供給されます。世界樹は大地や空気から微量の魔力吸う性質がありますので、この子の魔力はそこから供給されています。まぁ、この子に、というよりも世界樹こそが私たちの本体ですので当たり前と言えば当たり前ですが。
ええとそれで、その赤ん坊の意思しか持たないモモ……当時は名前なんて無かったんですけど。私も魔物だからということで特に名付けずにいましたし。モモは下手に人族のように意思を持ってしまった魔族に産まれてしまったのです。その責任の一端は私にあります。私が弟子であるハイエルフの子、ティーミリアに、私の墓は世界樹の側に建て、そこに遺骨も埋めるように頼んだのですから。ティーミリアはそれを忠実に守り、結果モモが産まれたということになります。
私は記憶だけの存在ではありますが、モモの思考領域をちょっとだけ借り受けこの子の正体を推察、魔力増大の際に表に出られた時には色々と確認をし、そして核心に至りました。この子に流れる魔力は、少しばかり魔物のように濁っていますが、8割型私のものと同一です。魔物なのに聖属性の魔術が使えるのはそのためですね。
そうして産まれたこの子を私は守ってきました。偶然とは言え私の遺骨から産まれた存在、言うなれば私の子のような存在ですからね。魔物だからと名前をつけなかったのがいまになってくやまれますが。
幸いにもこの子は私には持っていなかったスキル、【下位統率】がありました。今は失われているようですけど。その能力と私から受け継いだ魔力によって、この辺りのトレントやドリアードを統率下に置いてこの子を守ってきたのです。もっとも、私の墓が観光地のようになっていたこともあり、周りには近づかないようにしていたのでこの子は状況をわかっていなかったようですが。もちろん、近くに人がいる時はこの子のことは隠していましたよ。この子の住処は専ら世界樹の上の方です。
そして長い年月の流れが過ぎていき、平和だった状態は一変しました。
その一端として、私の墓に添えられていた【鐘錫杖・アスクゥリオン】が突如として消えてしまいました。それ自体は特に何か問題があるわけではないのですが、突然のことだったのでこの子も様子を見に木を降りてしまったのです。しばらく【アスクゥリオン】を探して見つからないことを確認して戻ろうとした時に、あの女、ファーミリ・サーカスは現れました。
突然現れた彼女はこの子の姿を見るなり隷属の術式を展開し、この子は呆気なく隷属されてしまいました。もちろん私も抵抗しようとは試みましたが、隷属と同時に私の記憶、ひいてはこの子が産まれてからの記憶ごと封印されてしまいどうすることもできなかったのです。
封印されているだけでモモの感覚を通じて周囲の様子は確認できていましたから、あなたがたと出会ってからのことは存じてますよ。
ファーミリは最初からこの街を滅ぼそうとしていました。何のためかまでは話さなかったのでわかりませんが、そのための準備をしている時にこの子を見つけて隷属して見たら【下位統率】でこの辺り一帯の魔物を率いることができたのは彼女にとって渡りに船だったのでしょうね。
後のこの子とあなた方が出会ってからのことはあなた方も知っている通りですよ。
とりあえず私からの話はこんなところでしょうか。どうもご静聴ありがとうございました」




