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「アキナしゃん!  心配したんでしゅからね!」


  空飛ぶ魔物の背に乗りながら、その光を見たファーミリは絶句した。

  白く柔らかい光が全体を包み込んだかと思えば、もう魔法陣から出る寸前だったヒュドラが、その魔法陣ごと綺麗さっぱりと消えてしまっていたからだ。

  正確には消えただけではないことは、【召喚魔術】の術者たるファーミリにはわかっていた。


「まさか……わたくしの魔術を、それも発動中の魔術をそのまま無効化された……?  けれども、あれはそうとしか説明しようがありませんわ。魔術の無効化なんて、それこそまるでおとぎ話の聖女ミレミアじゃないですの……!」


  ファーミリはこと魔術、特に【召喚魔術】にかけては一流の術者であることを自負している。もっとも、【召喚魔術】自体が今現在においてファーミリしか使えるものがいないので比較もしようがないのだが、キマイラ、マンティコア、ヒュドラと災害を起こせるレベルの魔物を従えているという事実はそのままファーミリの自信にもなっている。その災害を起こせるような魔物を単独で倒してしまうようなポプリやフユの方が、ファーミリからしてみれば化け物だ。

  しかし、召喚した魔物を倒すならいざ知らず、召喚自体をキャンセルさせられるというのはファーミリをもってしても初めてのことだった。


「わたくしの鞭を捌きながら、まるで聖女のような大魔術まで使う……あのちんちくりん何者ですの?」


  ファーミリはアキナの正体に思考を傾けるが、皆目見当もつかなかった。もっとも、この時点でアキナの正体が異世界からやってきた元男だとは知るヨシもないのだが。

  まさかあんな少女に自分の魔術が止められたなどとあっては、さすがのファーミリも歯噛みする。

  しかし、今のファーミリにはアキナよりも優先すべきことがあった。

 

「まぁ、障害になりそうなら早めに潰しておくべきですわね。連絡が来ましたし、今回は引かせていただきますが……」


  翼をはためかせ、空を魔物が進む。アキナの【ディスペル】の光が目くらましになっていたおかげで逃げやすくなっていたなどと、ファーミリは思いもしなかったのだった。


ーーーーーーー


  ……白い天井だ。ここはどこだと寝ぼけながらに考えていると、誰かの顔で視界が埋められてしまう。近すぎるせいで誰だか全くわからない。


「アキナしゃん!  心配したんでしゅからね!」

「フユちゃん!  あなたも安静でしょう!  ああ、でも本当に良かった……」

「心配かけて、案外タフなやつだゾ」


  三者三様に言葉をかけられるが、それどころじゃない。


「く、苦しいから一回どけろー!」


  俺がようやく叫ぶと、フユ、クリスさん、ポプリの3人がようやく退ける。

  見ればフユもポプリもいつもの服じゃなく、ついでに言えば俺もだけど、簡素な病衣を着せられていた。普通の服を着ているのはクリスさんだけだ。


「……とりあえずクリスさん、説明よろしく」

「ええ、あの後ですけど……」


  クリスさんはモモとルーカスをどうにか背負ってーどうにかというが、クリスさんの力のステータスなら余裕であるー街へとたどり着いた。街にはティーミリアさんを始めエルフの精鋭たちが集まり、俺の援護に向かうために準備をしているところだったそうだ。

  たどり着いてみると、街の外れの方にまるで多数の蛇のようなものが魔法陣から現れようとしていた。それはこの世のものとは思えないほど醜悪で、エルフたちの中にはあまりの魔力の気持ち悪さにそれを見ただけで吐き出したりするものまでいたそうだ。

  しかし、それが出てきてすぐ白く柔らかな光りが街全体に行き渡るとその魔法陣は消え、中から出ていた蛇のようなものも消え去っていたという。

  クリスさんはその場に俺やフユ、ポプリがいるであろうことを察知しその場に向かった。モモとルーカスはそれぞれ気を失っていたのでティーミリアさんに預け単身でだ。まぁ、クリスさんの防御力だったら単身でも心配ないんだろうけれど。

  そしてクリスさんがたどり着いた時には、気絶している俺と、それを受け止めるフユとポプリの2人がいたという。フユもポプリもよく動けたな。【ポイズンヒール】で毒は治っていたと思うけど、怪我も酷かったしいきなり動くのはきつかったはずだ。現に、今はこうして病院にいるし。


「うちの体力をなめちゃダメだゾー?  と言っても、しばらくは安静にしてろって言われたんだゾ」

「私もでしゅよ。まぁ、私はそこの体力おばけと違ってひ弱なのでしばらくお休みには賛成ですけど」

「なにがひ弱ですか、1人でマンティコアを倒したそうじゃないですか……」


  この後調べてわかったことだけど、マンティコアはAランクの魔物だけど、その毒の強さと蠍の尾を使った攻撃などからSランクにあげるかどうかを検討している魔物らしい。そんなのを倒しちゃうなんて腐っても元女神だな。すげー。


「なんかアキナしゃんが失礼なことを考えている気がしましゅ」

「なんのことだか」


  相変わらず鳴らない口笛でごまかしてみる。もっとも、フユもそこまで気にしているわけではなかったのでそんなに追求もされなかったが。

  そういえば俺が倒れたのはどうやら魔力切れらしい。【ディスペル】は【アスクゥリオン】に込めた魔力の全てを使い切るがどうやらそれだけでは足りないようで、不足分を俺の魔力から補っているそうな。


「けど、アキナちゃんは【戦闘不能】のスキルのせいで魔力も1しかないですよね。一体どこからそんな大魔術を行使できる分を補填できる魔力が……」

「まぁその話はおいおいね……。ところで、モモはどうしたの?」


  そういえばモモの姿が見当たらない。ルーカスとフーコーは性別が違うから別の病室だ。俺的には同性なんだけど。ティーミリアさんは街の代表だし復興作業で忙しいんだろう。後で顔ぐらいは出しておかないと。

  それで、モモもクリスさんがこっちまで運んできていたはずだけどどこにもいない。モモは一応魔物だし、そんなにひどい怪我じゃなかったはずだから外にいてもおかしくはないんだけど、あの子の性格なら俺にべったりでもおかしくはないはずだ。

  それなのに、姿が一向に見えない。

  不思議に思っていると、クリスさんがその疑問に答えてくれた。ただ、その答えは少々、いやかなり意外なものだったけど。


「それなのですが、アキナちゃんに話があると。あの世界樹のふもとで待つと言伝を預かっています」

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