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「しつこくて悪かったな。けど、お前はここで捕まえさせてもらって、フユやポプリにしたことのお礼をさせてもらわないと」


  猛スピードで伸びていく枝を操り、SM嬢もどきへと近づいていく。その勢いを維持したまま、途中で飛び降り枝だけをSM嬢もどきにぶつける。最大スピードでこの硬い枝をぶつければひとたまりもないだろう。

  しかし、やはりというかそう簡単には終わらない。


「甘い……ですわ!」


  SM嬢もどきはフユを捨て去り、空いた手に鞭を持ち変えると自身の身体に鞭打ちをし【ツリーバインド】で操っていた蔦を刻む。緩んだ蔦から脱出をし、構え直す。

  スピードを上げた枝の攻撃は不発に終わったが、その枝をコントロールし直しフユとポプリの守りに当てる。


「まーたちんちくりんが増えましたわね……なんですのその格好?  聖女の真似事?  聖教国相手に喧嘩でもする気ですの?」

「うるせぇ、好きでやってるんじゃねーんだよ」

「ポプリよりも口の悪いちんちくりんですわ……ねっ!」


  いうや否や鞭が唸る。何かいう暇すらない。

  けれど、俺もただ黙ってやられるわけにはいかない。手に持つ鐘錫杖、【アスクゥリオン】を逆さに構える。


「せいっ!」


  鞭の軌道を読み切り、鐘錫杖の石突きを当てる。鐘錫杖を回し、さらに石突きを当てて鞭を捌く。それを連続で繰り返し、繰り返し。繰り返すことによって、錫杖に巻かれた布の色が茶色から鮮やかな緑へと変わっていく。


  魔術や魔法を使うには、魔力が必要だ。それは強力で強大なものほど多大な魔力を要求される。

  この錫杖に付けられた鐘の魔道具【聖鐘・ベイリュング】もそうだ。この魔道具は自分が使うことのできる魔法や魔術を、鐘の音に乗せて相手に届けることができる。


  俺は石突きで鞭を弾き、アスクゥリオンの鐘を空に向けて掲げる。そしてその鐘を鳴らし魔法を唱える。


「【ポイズンヒール】!」

「はっ!  この距離で回復の魔術が届くわけが!  ありませんわ!」


  SM嬢もどきは攻撃を警戒し距離を置いたが、回復の魔術だとわかると威勢良く叫んだ。

  普通だったらそうなんだろう。けれど、先も言った通り【聖鐘・ベイリュング】を通して放った魔法は鐘の音に乗せて相手に飛ぶ。つまりそれは音速で相手に届く。

  発動するとほぼ同時、フユとポプリの顔の色が土気色から生気のある肌色へと変わっていく。

  2人が毒に侵されていたのは【鑑定】でわかっていた。けれど、あのSM嬢もどきに捕まっているせいもありいきなり回復というわけにはいかなかった。


「んあ……ファーミリは……どうしたんだゾ……」


  ああいう回復力高くてすぐに戦い始めようとするバカとかもいるしね。


「ファーミリって言うのかあのSM嬢もどき。後は俺がやるから、大人しく寝てろ」

「んあ……お前……アキナ、だゾ?」

「アキナしゃん……なに、やって……」


  毒のせいか戦いで体力が失われてしまっているせいか。フユもポプリも意識が朦朧としているみたいだ。ヒールでもかけてやりたいところだけれど、意外と余裕がない。

  ちゃんと説明したいところだけど、それをグッと堪えSM嬢ことファーミリへと対峙する。


「あなたのそれ……まさか聖女の魔道具……はっ、そんなバカなことがあるわけがありませんわ」

「バカなことかどうかは、これを見てから決めて見たら?」


  俺は【アスクゥリオン】を空へと掲げ、【ベイリュング】を全力で鳴らす。

【ベイリュング】から放たれた魔力の波動は、近くにある木々を刺激し急激に成長させる。


「【ツリーコントロール】!  大いなる木々たちよ!  あの敵を捕まえろ!」


  成長した木々を操り、ファーミリへと向かわせる。木々は根や蔦を伸ばし、ファーミリの操る鞭のように、右へ左へ、上へ下へと縦横無尽に攻撃をする。

  しかし、ファーミリはまるで気にしていないと言うように1歩もその場から動かず、ただ上方向に鞭を動かした。すると鞭は螺旋状にファーミリの周りを舞い、近づく木々を粉微塵に粉砕していく。


「ふん、こんなものでわたくしをどうこうできるなどと、わたくしも甘く見られたものですわね」


  まるで新体操のリボンのような動きを鞭で見せたファーミリはそんなことを言う。

  けれど、これは少し困った。あの動きを連発されたら俺の攻撃は通らないし、時間切れでゲームオーバーだ。

  どうしたものかと考えていると、ファーミリの様子が少しおかしい。


「……ちっ、今日のところは引き上げですわね。けれど……」

「まて!」


  ファーミリは空に待機させていた魔物に飛び乗り上空へと移動する。何をする気なのかはわからないけれど、このまま逃すものか。

  俺は再び枝を操り、上空にいるファーミリを追いかける。

  空の上にはファーミリが待ち構え、空中で鞭を不可思議に動かしなにやら紋様を作っていた。


「しつこいちんちくりんですわねぇ。こんなところまで追いかけて来るだなんて」

「しつこくて悪かったな。けど、お前はここで捕まえさせてもらって、フユやポプリにしたことのお礼をさせてもらわないと」

「はっ、聖女みたいな服を着てるくせに口の悪いちんちくりんですわね!  お生憎様ですが、わたくしはここで帰らせていただきます。けれど、この島はここで滅んでもらうわ。このわたくし、ファーミリ・サーカスの【召喚魔術】でね!」


  ファーミリが鞭で作り出した紋様が怪しく光る。それは鞭の軌道で上空に描かれた魔法陣のようだった。その魔法陣から、なにやら蠢く化け物が現れようとしている。


「おーっほっほっほ!  あれはわたくしの従える魔獣の中でも強力な1匹!  近くだけで生き物どころか植物や大地も死ぬ、死の毒を撒き散らす多頭龍、ヒュドラですわ!  あれが出て来たが最後、この島は生き物の住むことができない死の島と成り果てることでしょう!  如何にあなたが回復術に優れているといっても、あれには太刀打ちできませんわ!  おーっほっほっほっほ!」


  魔法陣からはヒュドラの頭が1、2、3……段々とその姿を現し始めている。出て来ているのはその禍々しい頭だけなのだが、その姿を完全に現すまでそう時間は必要なさそうだ。

  魔法陣が光っていると言うことは、あれはまだ発動中の魔術ということだ。発動が終われば、ヒュドラがこのエルフの街を破壊し尽くしてしまうだろう。その前に!


「ごめん、ちょっと魔力をもらうな」


  手に持つ【アスクゥリオン】の石突きを、枝に突き刺す。【アスクゥリオン】に巻かれたボロボロの布が、緑色に変わっていき光り輝いていく。


  これは【アスクゥリオン】の2つ目と3つ目の力。

  2つ目は鐘と錫杖の間に巻かれた聖骸布、【スクリアの聖骸布】。魔力を溜めることに特化したこの魔道具は、それ単体では何の意味もなさないが強力な魔法魔術を発動させるための補助バッテリーとしての役割を果たす。色が茶色なら魔力が溜まっていない。それが徐々に緑色になるにつれてチャージ完了の証になるのだ。

  3つ目の力は【アスクゥリオン】の杖の部分、正確には石突きの部分とでも言うべきか。本来は杖ではなく槍、【吸魔の槍】と呼ばれるものだ。この槍はその切っ先を人や生き物、果ては植物や大地などありとあらゆるものからその魔力を吸い尽くす。錫杖にされてからは石突きに加工され、槍としては殺傷力は下がっているものの、その魔道具としての魔力吸収能力は健在だ。


  先の【聖鐘・ベイリュング】、【スクリアの聖骸布】、そして【吸魔の槍】。この3つを掛け合わせて作られたのが【鐘錫杖・アスクゥリオン】なのである。


  俺は聖骸布にチャージした魔力を解放させて、ある魔法を唱える。モモについていた隷属させる魔術をも打ち消したその魔法を。

  それは聖女ミレミアの究極の奥義。魔術、魔法、およそ魔力でなされた現象であればその全てを打ち消す究極の奥義。今の俺の魔力では、【スクリアの聖骸布】の魔力を全て食い尽くす最後の切り札。

  その魔法の名は。


「【ディスペル】!」

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