「フユから手を離せ! この痴女が!」
世界樹の根元、ミレミアの墓から木魔法で枝を伸ばし全力で街へと移動する。枝はぐんぐんと伸びて行き、途切れる様子は微塵も感じられない。
そのスピードは下手な絶叫マシーンなんかよりも全然早く、シートベルトも安全装置もないそれに捕まって移動するのは、それはもう、怖かった。
「い、急いでるけども! こわいこわいこわいぃぃぃ!」
枝はグイグイと伸びていく。右へ、左へと曲がりくねって伸びていく。時には他の木にぶつかりそうになってしまう。その度に、俺の絶叫が空に木霊する。行けることならもっとゆっくりと行きたかったけれど、そう時間も残っていない。
胸元のコンパクトを開くと、残り時間は5分に差しかかろうとしていた。
この姿に変身した時に、どういう仕組みなのかは頭の中に入ってきた。この姿でいられるのは10分間だけ。けれど、今まで戦う手段がなかった俺にとってこの10分間は貴重なものだ。
そろそろ街の上へと差し掛かる。街の様子を探るべく、俺は少し枝のスピードを抑える。街は魔物にやられてしまったのか建物は崩れ所々に火の手が上がっている。数人のエルフが魔術を使い消火に当てっている。
思ったよりもエルフの数が少ない。怪我人も見当たらないし……。
俺は街の中心あたりに枝を下ろす。余裕はないけれど、まずは聞き込みして状況を確認しなければ。しかし、どうやらエルフたちに警戒されている様子で杖を向けられてしまっている。
どうしたものかと考えていると、後方から羽根つきのハイエルフ、ティーミリアさんが現れた。何か焦っているのか、随分と息が荒く感じられる。
「聖女の法衣……それに鐘錫杖……アキナさん、それをどこで……」
「説明は後でさせてください。まずは、フユとポプリがこちらに来てませんか?」
ティーミリアさんは俺の着ているこれのことを気にしているようだったが、今は時間が惜しい。
彼女は他のエルフから情報を聞き出すと俺に伝えてくれる。
「どうやら少し前に彼女たちが来て街の魔物を一掃したようエルフ。フーコーさんが抑えててくれたのが大きいのエルフが。彼はもう限界で今は避難してもらっているエルフ。そして、彼女たちは強力な魔物が現れたようで、南側の端で戦っているようエルフね」
「わかりました。状況を見て加勢しようと思います。……【ツリーコントロール】!」
俺が魔法名を唱え錫杖をチリンと鳴らすと、1番近くに生えていた無事な木がニョキニョキと枝を伸ばす。世界樹ほどではないものも、頑丈そうで短い距離なら問題なさそうだ。
魔法を使ったことでエルフたちはもちろん、ティーミリアさんも驚いているが今は気にしている余裕はない。
ミレミアの墓から街までの距離はないので、あっという間にフユとポプリが戦っている場所へとついた。
しかし、たどり着いてみると俺にとっては予想外の光景が目に入る。
ポプリが地面へと倒れ込んでおり、フユはなんだか怪しい格好の痴女に抱えられてしまっている。ていうかなんだよあの痴女は。ハイレグのボンテージにやたらと高いピンヒール。顔には仮面をつけ、手には鞭を高く掲げている。SM嬢みたいで明らかにこの場に不釣り合いだ。
そのSM嬢もどきが高笑いをしながら鞭をポプリに向けて振り下ろそうとする。
「【ツリーバインド】!」
咄嗟に魔法を唱える。SM嬢もどきの近くにあった木から蔦が伸び、鞭を持つ手を縛り上げる。ポプリに向けての攻撃は止まったのでまず一安心だ。
けれども、フユが敵に抱えられたままだ。
俺は枝のスピードを一気に上げ、大声で叫ぶ。
「フユから手を離せ! この痴女が!」




