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「くぅっ、こいつ、しつこいでしゅね……!」


  フユは倒れたポプリの姿を見て舌打ちする。もちろんこの結果はポプリの油断から生まれたものだとフユは思っているが、それでも倒れる姿を見るのは歯がゆいものがあった。

  しかしかといって、フユにポプリを助けることはできなかった。


「くぅっ、こいつ、しつこいでしゅね……!」


  マンティコアはサソリの尻尾から毒針を発射し、フユを延々と狙い続けている。高速で発射されるそれは一発一発の威力こそ低いが、そこには猛毒が仕掛けられており一発でも当たれば毒に侵され死に至ることだろう。

  フユは木から木へと次々に移り、時には氷の魔法で足場を作り絶え間なく移動を続けている。そうしないと、毒針を当てられてしまう可能性が高くなるからだ。

  ポプリのガントレットのような硬い素材でできた防具をフユは持っていない。フユの能力はアキナと話し合った末に、素早さ重視で防御よりも攻撃に趣を置いたものになっている。少しでも足を止めて撃ち合おうものなら、マンティコアの攻撃でフユは一撃でやられてしまうことだろう。

  とはいえいつまでも移動し攻撃を躱し続けるだけではなく、こちらからも攻撃をしないと戦闘は終わることはない。そして、急いで終わらせなくてはいけない事情もできてしまった。


「……全く、なんで最後の最後で油断してくれてるんでしゅかね!」


  倒れているポプリの方を一瞥し、そんなことをひとりごちる。

  幸いにもマンティコアとポプリの位置は離れており、マンティコアがフユよりも先にポプリを襲う心配はないだろう。……今はフユの方に意識が向いているというだけであって、何かの拍子にそちらへと向かってしまうかもしれないし、上から観戦しているファーミリ・サーカスが他の魔物を送ってこないとも限らないからだ。

  最も、当のファーミリはと言えば空を飛ぶ魔獣の上でポプリのやられ様に高笑いをしているところだった。


「あの小娘!  まんまと毒にやられましたわ!  おーっほっほっほっほ!  こんな愉快なことは久し振り過ぎですわ!  ……まぁ、キマイラをやられたのは痛手ですけど。馬鹿力娘相手にキマイラ1匹でしたらお釣りが来るぐらいですわね。なんて気分がいいことでしょう!  あーっはっははははは!」


  随分と上機嫌で、こちらにちょっかいをかけるようなことはしないだろうとフユは判断する。フユの耳は人間のものよりは優れているので、ファーミリの位置がそこまで上空というわけではないことも相まってしっかりと高笑いを捉えていた。

  フユはファーミリを無視し、移動を続けながらマンティコアを視界に捉える。人間の顔の割に嗅覚やら聴覚やらが優れているのか、こちらの位置をすぐに察知し毒針を放って来る。

  このままではラチがあかないと、フユは段々と苛立ちを覚え始めていた。しかし、苛立つだけでは物事は解決しない。


「あんまり使いたくない手段でしゅが、仕方ないでしゅね……」


  フユは手に魔力を込める。使い慣れた氷の弓がその手の中に形成される。移動しながら矢をセットし、マンティコアの足元めがけて射る。

  マンティコアは矢を察知し、小さい動きで矢を躱し切る。それぞれの足を目掛けて射ったのに、その全てを躱した。不気味な顔ででかい図体の割に、妙に機敏に動けるものだとフユは感心する。

  しかし、その矢を直接当てることがフユの狙いではなかった。


「【氷縛鎖】!」


  射った矢が次々と鎖に姿を変えていき、マンティコアの足を絡めていく。マンティコアは抜け出そうともがき動くが、鎖はどんどんとその身体に食い込んでいく。

  一方で、フユも鎖に魔力を注ぎ込むのに集中する。実際鎖はマンティコアが動くたびに壊れているが、瞬間的に再生する。それは、フユが魔力を注ぎ瞬時に再生させているからに他ならない。鎖は次々に壊れていくが、フユの魔力コントロールにより、どうにかマンティコアを抑えることに成功している。


「くっ……結構応えましゅねこれは……」


  マンティコアの正面へと場所を移し、鎖を維持しつつ別のものを形成していく。

  出来上がっていくのは氷の弓。だが、今までのような手に持つ小さなものではなく、フユの何倍もある大きな大きな弓だ。X状に弓を2本交差させたような見た目のそれは、弓というよりも別の兵器のような形状だ。

  マンティコアもそれに気がつき、鎖に阻まれていない尻尾から毒針を飛ばして弓を壊そうとするが、威力が足りず破壊するには至らない。

  フユは鎖と巨大弓、両方にどんどん魔力を注ぎ、ついに弓は発射体制を完成させた。


「いくでしゅよ!  【氷巨弓・交差螺旋矢】!  いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


  交差した巨大弓から矢が放たれる。矢はネジのように螺旋状になっていて、それが巨大な弓の力で高速弾として放たれる。放った瞬間にフユの魔力も限界で、鎖の方が消えてしまう。

  解放されたマンティコアは矢を回避しようと動くが、矢の到達スピードの方が早かった。

  矢はマンティコアの身体を抉り進み、身体の中にある魔石を破壊する。破壊されたことでマンティコアは生き絶え、その巨体を横に倒した。


「……嘘でしょう?  信じられませんわ」


  この結果にはファーミリもさすがに驚いていた。


「けれど、ちょっと詰めが甘かったようですわね」


  巨大弓も消え、魔力の尽きたフユはその場に倒れこむ。フユの腕には一筋だけ、何かが掠った傷があった。マンティコアが巨大弓に放った毒針が、フユの腕を掠めていたのだ。その毒は少量だが、それでもフユを倒れさせるには十分だった。

  ファーミリは地上へと降り立つと、ポプリとフユ、それぞれを見比べる。


「ちんちくりんどもが、わたくしの魔物をよくも。……と言いたいところですが、こっちの青髪の子は面白いですわね。魔物っぽさもありますし、持って帰って実験でもしてみたいですわね」


  ファーミリはフユを見て舌舐めずりをする。【召喚魔術】のスキルを持ち、魔物の生態にも詳しいファーミリからしてみれば、フユは格好の実験動物だ。しかも、毒も回って捕まえるのも容易となっている。

  ファーミリはフユを小脇に抱え、反対の手に持った鞭を振り上げる。


「こっちのちんちくりんは入りませんわ。今この場で、殺して差し上げます!」


  そして鞭を振り下ろそうとしたその時だった。

  ファーミリの手を、木の蔦が縛り鞭を動きを止める。

  さらに、空から声が聞こえてくる。


「フユから手を離せ!  この痴女が!」

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