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「さすがにキマイラ、厄介だゾ」


  ファーミリが鞭を振るう。すると上空から一匹の魔物が現れ、ファーミリはその魔物へと乗り移る。上空の安全圏から戦いを見ているつもりのようだ。


「逃がしゃないでしゅよ!」


  フユが弓を空に向けて構える。

  しかし、それは別の方向からの攻撃に阻害される。先ほどまでファーミリが上に乗っていた魔物の尾がまるでしなる鞭のようにフユに襲いかかり、地面を抉るように穴を開けた。

  フユは咄嗟にジャンプをして回避する。後方に飛びながら攻撃の跡を見ると、ただ地面に穴が空いただけではなく、紫色の、何か液体のようなものが散見される。


「あれは、毒でしゅか」

「さすがにキマイラ、厄介だゾ」


  今まで全貌を見せていなかった魔物が、その姿を現す。ヤギとライオンを合わせたような身体にそれぞれの頭を持ち、尻尾には毒蛇が意思を持って攻撃して来る。キマイラという凶悪な魔物だ。ゴブリンやオークなどとは比較にすらならず、その危険度はAランクになるほどだ。

  その存在に、フユは思わず舌打ちする。その存在は少しばかり今の実力的に手に余るものだからだ。

  フユだけでなく、ポプリも似たようなことを考える。表情こそニヤリと笑ってはいるが、額から流れる汗がそれを物語っている。

  キマイラがその前足を持ち上げて、ポプリに叩き込む。ポプリはその腕力を持ってしてそれを受け止めるが、あの巨体は応えるのか少しだけ地面に跡をつける。


「く、うぅっ!」

「ポプリ!  っ!」


  ポプリの援護に入ろうとしたフユも、危険を察知し身を翻してその場から避ける。フユのいた場所には、禍々しい虫のような数珠繋ぎの形をし先端に針のついた尾、サソリの尾が深々と突き刺さる。


「……マンティコア」


  忌々しそうにポプリがひとりごちる。

  獅子の身体に年老いた老人男性の顔、コウモリのような翼とサソリの尾を併せ持つ魔物、マンティコアがフユを攻撃していた。

  ポプリがキマイラの足を弾き飛ばし距離を取る。フユもマンティコアの尾を掻い潜り移動して、そこで2人は背中合わせになった。


「しゃて、どうしましゅかね」

「1匹ならどうにかなるんだゾ。お守りしながら2匹はきっついゾ」

「奇遇でしゅね。私もしょう思ってたところでしゅよ」


  背中合わせになのでお互いに顔を見合わせてはいないのだが、きっと2人とも同じような表情をして見せていたに違いない。

  まるで、これから獲物を狩るのが楽しみで仕方がなく、笑っているような。


「へぇ……随分自信があるみたいだゾ。それじゃあ競争して見るゾ?」

「いいでしゅね……負けた方がこの後ご飯奢りでいいでしゅか?」

「……上等だ、ゾ!」


  言うやいなやポプリがキマイラに突っ込んでいく。様子を見るとかそういったそぶりはなく、全力で全開で、まるで弾丸のような速度で突っ込んでいき、そのままキマイラに体当たりをした。

  避ける間も無く突撃を受けたキマイラはそのまま転倒してしまう。ポプリの小さい身体が顔面にぶつかってきたので、見た目以上にダメージは大きそうだ。


「GYAOOOOOOOOOO!」


  なんとか体制を立て直したキマイラが咆哮する。大地をも揺るがしそうなその声は、普通の冒険者であれば恐怖で足がすくんだりしてしまうのだろうが、彼女は違った。

  その咆哮が鳴り止む前に、ポプリはまたキマイラへと突っ込む。キマイラも2度は喰わないと回避しようとするが、小柄なポプリの方が小回りが効くのだ。キマイラが大きく避けようとしても、ポプリが再びキマイラを捉える方が早い。

  ついにポプリがキマイラの懐へと潜り込む。そして、アッパーのように拳を振り上げキマイラのボディを殴りつける。

  ドスン!と手応えのある音がする。

  しかし、キマイラはその勢いでジャンプをしてポプリと距離をとった。グルルと唸ってはいるが大したダメージを受けているようには見えない。そして距離をとったことによって、キマイラは自分の有利を確信したのかニタリと笑っているようにも見えた。


「たかが魔物が、それはちょっとウザいゾ」


  確かに、ポプリは接近戦しかすることができない。魔法魔術といった遠距離からの攻撃手段を持っておらず、手にした武器も大きめのガントレットのみと近づいて殴ることしかできないし、そういう性分でもある。

  だからポプリは再び突っ込むべく足に力を入れ、思い切り大地を蹴る。

  しかし、その突撃はキマイラの攻撃に止められる。キマイラは近づかれることを危険と察知したのか、距離を取るように尻尾の毒蛇を自在に操りポプリは牽制されていた。鞭のように自在に動き回るそれは、尻尾の蛇にも意識があるのかポプリの直前で動きを急に変えたり、毒をあびせようと噛み付こうとしてきたりと厄介この上ない。

  毒蛇の牙から、ポタリと一粒毒液が落ちる。地面についたそれは、ジュウッと音を立てそこに生えていた草を腐らせた。


「わかってたけど、あの毒はやっぱり厄介だゾ」


  長期戦になると、体格で優れたキマイラの方がスタミナも多く有利になる。

  一度思い切り息を吸い、手のひら同士を合わせる。ガントレットの金属が擦れ合う音が響く。


「厄介な時は、一撃で決めるに限るゾ」


  ポプリの右手のガントレットの手の甲から、魔法陣が浮かび上がる。ガントレットの外側には刻まれていなかったし、ポプリは魔法はおろか魔術も使えないはずなのに、それでも魔法陣は浮かび上がる。

  ガントレット越しに魔術が展開される。ただし、何かが飛び出るわけでも、何か変化があるようには見えない。

  だからキマイラは油断する。先ほどと同じように尻尾で牽制して、動きが鈍ってきたところで毒を浴びせさせればそれだけでキマイラは勝てるのだから。だからこそ、キマイラは不用意にも尻尾を伸ばす。

  その伸びたキマイラの尻尾を、ポプリは片手で捕まえる。そしてそのまま捕まえたそれを握りつぶした。ぼとりと、毒蛇の頭が落ちる。

  しかしポプリはキマイラの尾を掴んだまま離さない。


「せー、のっ!  だゾ!」


  そしてポプリは掴んだキマイラの尾を思いっきり引っ張る。引っ張られたキマイラはポプリの力に抗うことができず、その身体を宙に舞わせる。

  本来、ポプリの超人的なステータスですらキマイラの力には敵わない。尻尾だけを掴み持ち上げることなんて不可能だ。それは、【怪力】のスキルを使った状態でも同じだ。そこで、ガントレットに仕込まれた魔法陣の魔術が活きてくる。仕込まれた魔術は【剛力】。肉体を強化するための魔術で、スキルである【怪力】と名称こそ違うが効果は同じものだ。

  ポプリのガントレットは使用者の肉体強化をする魔術が仕込まれた接近戦専用の魔道具ということになるが、それを初めから【怪力】のスキルを持つポプリが扱うとどうなるのか。


「そのまま!  砕け散れ!  だゾ!」


  上空へ打ち上げられたキマイラの腹を、ポプリの怪腕が穴を開ける。空いた穴からキマイラの核になる魔石が飛び、ポプリの殴る衝撃でそのまま砕け散った。

  【怪力】に【剛力】という2重強化を掛けたポプリは、如何に強力で頑丈な魔物だろうと容易に倒すことができる。ただ拳1つでドラゴンをも倒す彼女のことを、人は【怪腕ポプリ】と呼ぶ。

  魔道具の【剛力】を解除すると、ポプリは肩で息をする。想像以上に、魔道具を起動した時のポプリの疲労は激しいようだ。


「まず一匹、倒した、ゾ。……クソっ」


  着地した足元で、キマイラの尻尾の毒蛇がポプリの足首に噛みついていた。蛇は、切り離された後もほんの少しだけ動け、最後の力でポプリに噛みついたのだった。

  ポプリは疲労と毒とでそのまま意識を手放してしまった。

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