(もうちょっとマシな移動方法はなかったのですかねぇ……。)
時間は少し遡る。
モモが本格的に敵に操られ、ポプリとフユだけが先にエルフの街『フォーレス』へと戻っている頃だ。
元地球の女神にして、今はぬいぐるみをベースによくわからない魔獣という扱いのフユは空中を飛びながら考える。
(もうちょっとマシな移動方法はなかったのですかねぇ……。まぁ、あの脳筋女に期待する方が間違いというものですか)
ものの数分のはずなのだが体感では結構な時間を上空に向かって進み、上昇速度が落ちてきたところでフォーレスの全景が見えてきた。
街は、ひどい有様だった。
どこから現れたのかゴブリンにオーク、ダークウルフという狼型の魔物など、大量の魔物が街を襲っている。街の住人たちは海岸の方へと避難し、戦えるものが街に残り魔物を屠っているがとてもじゃないが対処が間に合っていない。
そんな中に、魔術師が中心のエルフの中に1人だけ前線で大剣を振るう戦士がいた。アキナやフユと一緒に来ていたフーコー・メイビーだ。彼はBランクの冒険者であり大剣使いとしては1流とは言わないもののそこそこの腕前を持つ戦士で、ゴブリンやオーク程度に遅れをとることはなかったが、ぞの数に対して前衛の数が釣り合っていなかった。
魔術師のエルフたちも必死に魔法を放つが、戦闘の経験が全くと言っていいほどにないらしく魔術を放っても当たっていなかったし、当たったとしても威力が全然足りていなかった。
故にこの場で戦力になっていたのはフーコーともう1人、エルフの街の長、ティーミリアなのだが、彼女は街の住民の警護の方に当たっていて前線にはいなかった。
何匹目になるかわからないオークの首を刎ねたところで、ついにフーコーが膝をつく。大きな怪我があるわけではないが、連戦に次ぐ連戦で体力が限界だったのだ。
「うっふふふふ、Bランク冒険者にしては頑張った方じゃなくて? でも、もう限界のようね」
「っっるせぇっ! 姿を現しやがれ!」
フーコーが吠えるものの、現れるのは魔物ばかり。声の主である女はどこにいるのか姿を見せない。姿は見せないが、次々と魔物を送り込んで来る。まるで、その女が魔物を送り込んで来ているかのようだった。
いや、実際送り込んで来ているのだろう。それが人か魔物か、どちらにしても今のフーコーの手に負える代物じゃない。フーコーに出来ることは時間稼ぎだけだ。
「やれやれ、仕方ないでしゅねぇ」
さすがにこの上空では声までは聞こえてはいないが、フーコーがピンチになっているのはフユでもわかっている。
上空では魔法を発動、氷で弓矢を形成すると自由落下をしながら弓を引く。
「【流星雨】」
技の名前を口にすると弓矢が青く光り、勢いよく矢が放たれる。放たれた矢は猛スピードで地面に向かいながら無数に分裂し、魔物たちを射っていく。
地上からはポプリも現れ、満身創痍のフーコーに殴りかかろうとしたオークの顔面を殴り飛ばしていた。
粗方魔物を射殺した辺りで自由落下も終わり地上に激突しそうになるが、今のフユの身体能力ではそんなことにはならない。【流星雨】を放つたびに減速し、ふわりと着地を決めて見せた。
「やっと来たんだゾ? 遅かったんじゃ無いのか?」
「バカ言ってるんじゃ無いでしゅ。死んだらどうしてくれるつもりだったんでしゅか」
見た目は幼子2人だけど、これほど頼りになる援軍もそういないだろう。
フーコーは緊張の糸が切れてしまったのか、その場に倒れこんでしまった。Bランクの彼にとってはこの連戦は想像以上に堪えたのだろう。
「だらしない奴だゾ。これは後で特訓しないといけないゾ」
「男ならもうちょっと頑張るべきでしゅよねぇ」
幼子2人はかなり辛辣な言葉をフーコーへとぶつける。幸いなのはフーコーが聞いていなかったことだろうか。エルフが数人でフーコーを運び、後はポプリとフユだけがその場へ残った。
魔物たちは目に写る範囲は片付けてしまったので、魔物たちが攻め込んで来る方向、アキナたちがいる方向とは反対側にある森に攻め込んでみようかと考えているところに、スッと人影が現れる。
現れたのは、なんというのか、一言で現すならば変態だ。痴女と言い換えた方が正しいのかもしれない。赤紫のパーマがかった長い髪に、ボンテージのようなハイレグの衣装。顔は仮面舞踏会のような仮面をつけて見えないが、それがまた妖艶な雰囲気を醸し出している。手には鞭を持ち、大きな魔獣に乗って現れた。
「ふふふふふ、相変わらず乱暴な小娘ですこと。おつむも身体もちーっとも育ってないみたいですわね」
「その姿に、その口調、もしやファーミリなんだゾ? お前は死んだはずだゾ!」
現れたのは3年前に処刑されたはずの大悪党、ファーミリ・サーカス。観衆の前でギロチン刑にされたはずの彼女が、なぜか生きて今度はこのエルフの島『リシャルグリフ』に魔物を放って来た。
フユは話でしか聞いていなかったが、それでもなぜ過去に死んだはずの人間が現れたのか、疑問が尽きることはない。
「一体なんで、なんでこんなことをするんだゾ!」
「そんなことを言っている暇があるのかしらねぇ!」
ファーミリが手に持つ鞭を地面へと叩きつける。すると魔物が咆哮し、さらに後ろからまた大量の魔物が現れる。そのほかに、今まで姿を現していない巨大な魔物まで現れた。
「さぁ、わたくしの【召喚魔術】。ちんちくりんに突破できるほど甘くはなくてよ!」




