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「モモ、俺だ。アキナだ。……わかるか?」


  とんでもない役割を任された。貧弱ステータスのこの俺が、小さい女の子の身体を持った俺が、あの木妖精ドライアドのモモをどうにか説得しろと、そう言われたのだ。

  ルーカスはしゃがんで俺の肩を掴み、真剣な顔で言う。


「説得といってもな、何も本当に説得するわけじゃねぇんだ。ただ、少し時間を稼いで、あいつを動揺させてやってほしい。動揺してくれたら、こいつであの隷属の状態を解除できる……かもしれない」


  ルーカスはそう言うと、懐から何かを取り出す。それは、紙のようなものに呪文のようなものが書かれた、例えるならお札だろうか。そのお札もどきを取り出した。


「これは【解呪】の魔術が込められた魔道具だ。あの話をした後にティーミリアが急増だけどこしらえたものでな。これを使えば少なくともトレント共の攻撃を止めるぐらいは出来るかもしれねぇ」

「それを俺が……?」

「いや、これは俺が使う。というより、お前さんの魔力じゃこれは起動できねぇだろうよ。隷属の状態は最悪の場合気持ちごと操られてしまう。それを動揺させて心を動かさないと、これはうまく起動しないんだ。そのために、お前さんがあいつの心を動かしてやってほしい」


  それだけを言い残して、ルーカスは炎の壁の向こう側へと向かって行った。きっとどうにかして、モモをここに連れてくるつもりだろう。

  炎の壁で見えないけれど、トレントやドリアード達が猛攻を繰り広げているのだろう。その壁を操るクリスさんの顔には、汗がにじみ出ている。きっと慣れない魔法の行使が大変なんだ。それが少しでも楽になるように、クリスさんの魔力にポイントを少し振る。

  考えど考えども、俺が何を言えばいいかなんてわからない。

  そもそも、モモとは出会ってからまだ1週間も経っていない。何も知らないのとそう変わりがない。それなのに、俺に一体何が言えるのだろうか。


  ダンッ!  と音がする。


  炎の壁を超えて、投げ捨てられたようにモモが降ってきた。

  ボロボロ……と言うほどでもないけれど、ある程度はダメージを受けているように見える。さすがに無傷のままというわけにはいかなかったのだろう。

  モモはむくりと起き上がると、こちらを睨むように見てくる。けれど動くことはなく、ただ睨んでくるだけだ。

  ……もしかしたら、隷属の効果が切れてる?  それなら攻撃してこないのはわかるけど……。

  改めて【鑑定】をして見ても、隷属状態のままから変わってはいない。けれど、初めて会った時から見て、変わっている部分もある。


ーーーーーー


  守    に  定しま  か?  Y  S/N 


ーーーーーー


  虫食い状態になってはいるが、守護者に設定する文面が追加されている。最初はなかったのに、好感度のようなものが上がったから出てきたのか、それとも別の何かがあるのか。しかし、今はそんなことを考えている場合じゃない。

  問題なのは、モモを守護者にしたとして状況が解決するかどうかというところと、本当に守護者にできるのかというところだろう。


「モモ、俺だ。アキナだ。……わかるか?」

「…………」


  話しかけても返事はない。

  けれど、俺は、俺自身が何を言っていいのかわかっていないけれど、言葉を紡ぐのを止めない。


「モモ、こんな危ないことは辞めよう。クリスさんだってルーカスだって、街の方に救援に行ったフユやポプリだって、あんなにいっぱい戦って戦って戦って、傷ついてるんだ。だからもう、こんなことは辞めよう。な?」


  諭すようにそんなことを言って見たけれど、多分こうじゃない。これじゃあ、モモの気持ちは動かない。

  だけど、言葉を止めるわけにはいかない。辞めるわけにはいかない。


「モモはさ、戦いたいわけじゃないんだろ?  だったらさ、もう辞めようよ。こんなことをしてても楽しくないだろ?  だから、もう帰ろう。あの街の宿に帰って、ふかふかのベッドで寝よう。昨日みたいに、みんなで一緒にさ」

「……かえ、る……みんな、で、かえる……」


  モモが反応している。

  俺はさらに畳み掛けるように言葉を紡いでいく。自分でも何を言ったのか覚えてはいなけれど、それでも言い続ける。


「そうだよ、みんなで帰るんだ。だからそんな隷属なんてものに負けちゃダメなんだ!  だから、頑張るんだ、モモ!」

「う……うぁ……ああああああ!」


  モモが苦しむように頭を押さえてうずくまる。

  【鑑定】は常に発動させて、モモの状態を確認している。


ーーーーーー


  守  者に  定しますか?  Y  S/NO 


ーーーーーー


  さっきよりも文字の揺らぎが安定している。このままいけばもしかしたら……!

  うずくまったまま動かないので、一歩、また一歩モモに近づいていく。危険かもしれないけれど、その方がモモのことを助けられるかもしれない。

  近づいてみるとわかる。モモは苦しんでる。きっと本当は今すぐにでも俺やクリスさんを殺さないといけないような命令が、【隷属せし魔物】の効果でモモのことを苦しめているのだろう。それは、【聖魔術】という回復する魔術が得意なモモにとって本当に嫌で、どれだけ苦しんでいるか俺にはわからない。だけど、モモがそれを望んでいないというのは、俺が見てもわかる。


「もうすぐ助けてやるからな。……そうだ。いつも髪ボサボサだし、これで髪をまとめよう」


  俺はいつか買った鐘のついた髪飾りをモモにつける。ボサボサのまま下ろしていた髪を、緩く2つ縛りのお下げにする。俺には髪型をどうこうなんてできないのでこれが精一杯だ。


「うん、よく似合ってるぞ」


  その瞬間だった。

  ルーカスがいきなり後ろに現れて、モモの背中に【解呪】の魔道具を貼り付ける。

  それと同時に【鑑定】をしていたモモのステータスに変化が生じる。


ーーーーーー


  守護者に設定しますか?  YES/NO 


ーーーーーー


  穴抜けになっていた文字が、元の通りに治った。俺はすぐにYESの文字を選ぶ。

  ピカッと、モモを中心として光が溢れる。そして、何かの力が俺とルーカスを吹き飛ばす。


「あ、ああああ、うあああああああああああ!」


  モモの髪が、トレントやドリアードと同じような蔦のようになりうねっている。意識は失われてしまっているようで、完全に暴走状態になっているようだ。

  完全に吹っ飛ばされてしまい、気がつけばミレミアの墓の側だった。ルーカスも吹き飛ばされてしまい、クリスさんの足元に転がっている。クリスさんは炎の壁の維持に集中していてルーカスを助ける余裕はない。

  俺は怪我はないけれど、そんなものがあろうがなかろうが暴走しているモモを止める力はない。あのクソ女神からの呪い、【戦闘不能】のスキルのせいで戦う力なんてこれっぽっちも持っていない。今までもずっと恨めしく思っていたけれど、こんな状況だと尚更恨めしく思ってしまう。


  戦う力が、モモを止めるだけの力が欲しい。


  ふと、吹き飛ばされた身体の下から何かが光っているように見える。『それ』はほんの少し地面の下にあるようで、モモの放った衝撃で少しだけその姿を地表に出していた。

  そっと地面から出してみると、カードのようなものが出てきた。タロットカードほどの大きさに、鐘の絵柄が描かれたカードだ。

  それが何かわからないはずなのに、使い方がなぜかわかる。

  ポシェットからコンパクトを取り出し、それにカードをセットする。

  俺の身体は、さらに強い光に包まれた。

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