「お前の相手はうちだゾ」 「しつこいのは嫌われましゅよ?」
森の探索を始めて数日。進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返していた俺たちだったが、連日の探索の成果なのか、トレントの数がだんだんと減っていき探索を進めやすくなっていた。
しかし、その弊害も少なからず出てきてしまっているようで。
「トレント4! ドリアード1! くるぞ!」
ルーカスが叫ぶと、木々をかき分けて魔物達が現れる。
トレントはゴブリンに比べると少し硬いぐらいでクリスさんやフユでも問題なく戦えるのだけど、ドリアードが出てくると結構押されてしまう。
クリスさんは負けることこそ無いけれど、攻撃力に欠けるので倒しきることはできない。けれども、クリスさんには敵を倒すための、大事な役割がある。
「【ウォークライ】! さぁ、私が相手ですよ!」
クリスさんは1番前へと躍り出てその技名を叫ぶと、自分の盾に剣を叩きつけ、トレントやドリアードの注意を自分に引惹きつける。トレント達の攻撃がクリスさんへと一斉に向かうが、そのステータスに任せた防御力と盾を巧みに使い、攻撃を捌いていく。
【ウォークライ】は【盾術】スキルの技で、敵の注意を惹きつけその攻撃を自分1人に向けるという技だ。どういう原理かはわからないけれど、この技の影響下に入った魔物は余程のことがない限りこの技を使った人へと攻撃をするようになる。恐らくは魔物の本能を刺激するような何かを発する技なのだろう。
クリスさんがトレントを惹きつけている間に、ポプリはドリアードを、フユがトレントに攻撃を仕掛ける。
「お前の相手はうちだゾ」
「しつこいのは嫌われましゅよ?」
ポプリがドリアードを殴りつける。前の時と違って遊ぶような素振りはなく、的確に頭にあたる部分を一撃の元に吹き飛ばす。そのまま身体の中から魔石を抉り取ると、ドリアードはその場に倒れてしまった。
フユも氷で作った矢をトレントに命中させる。3本の矢をまとめて放ったと思ったら、その3本ともがトレントに命中した。その命中精度は素晴らしいの一言だ。
最初は適当に戦っていたのだけれど、ここ数日はこういう連携を取るようになっていた。ルーカスが敵を見つけ、初撃をクリスさんが受け止め、ポプリとフユが敵を倒す。もし傷ついたりしたらモモが回復をする。それぞれ役割ができていた。
なお、フーコーはお留守番となった。分担が完全に決まってから、前衛に出るにも出れず役割が持てなくなってしまったのだ。なので、街で待機をしているというわけだ。一応緊急用の防犯ブザーのような魔道具を持って待機してもらっている。これで街に何かあればすぐに引き返す予定となっている。
「さてさて、そろそろ奥に来たと思うんだけどな」
戦闘が終わり先へと進む。
本来ミレミアの墓までの道はそう遠いものではなく、昔はちょっとした散歩道だったらしい。道も整備されていて、一直線にたどり着けるようになっていたそうだ。そのちょっと昔というのがエルフの皆さんが言うものなので、どれほど昔なのかはわからないのだけれど。まぁとにかく、本当なら何日もかかる道じゃなく半日あれば行って帰ってこれる程の距離でしか無いという。
しかしトレントが発生するようになってからは、寄り付く人もいなくなり、道も荒れる放題になってしまい、トレント達も擬態をするものだから完全に森になってしまっていたのだ。
今までの探索では、通れる道を選んで通って来た。そのためにトレントが迷わせるように道を塞いだり誘導したりしていたために、間違った道を進んでしまい探索が全然進んでいなかった。かといって道をそれてしまったら迷うことになってしまうのでそれはそれで避けたかったのだけど。
「まっすぐ進んでるし、そろそろでもおかしくは無いけど……」
「まだ、まっすぐ?」
最後尾でモモが俺に抱きついたままそう尋ねてくる。
モモがついて来るようになってからは、ルーカスではなくてモモが俺の護衛役になっていた。というよりもルーカスが全方位を警戒して、モモと俺とを同時に守っているような形になっている。モモも回復とか妨害は得意だけど、自衛は苦手そうだしなぁ。結局ルーカスの負担は大きくなっている。もとより俺にはどうしようもないのだけれど。
それよりも道の問題だ。今回俺たちはひたすらにまっすぐ進んでいる。木も魔物もポプリが殴り倒して進んでいる。雑な切り株が残ってしまって進みにくいのはご愛嬌というやつだ。
「結構進んだんだけどなぁ」
「森で感覚はなくなっちまいそうだが……っとそろそろみたいだぞ」
突如、森の中のひらけた場所が現れる。木々の葉で覆われ暗がりだったそれが、その一帯だけ突然に陽の光が差し込んで来る。この一帯だけが突然に木々が無くなっている。けれど、陽が、空が見えているわけでは無く、あくまでも木漏れ日が差し込んでいるだけだ。そして、まるで点まで届いていそうな、大きな大きな、それはもう大きな木が1本そびえ立っていた。その1本だけそびえ立つその光景は、神聖なものの様にも感じてしまう。
その大木の根元に、ボロボロになった石がある。かなりの年数が経過し、かつ手入れもろくにされていない様で今にも崩れ落ちてしまいそうだ。それすらもこの光景に組み込まれ、神秘さを増して見せている。
「これは……すごい……」
「ええ、本当に……これが、ミレミアの墓……。これは本当に世界樹といっても差し支えないかもしれないですね……」
あるかもしれないとだけ言われていた世界樹は、本当に神秘的なものの様に見える。その大きな幹は全てを受け入れ、根は大地の全てを支え、木漏れ日は暖かくそこにいる生き物をまるで癒してくれているかの様だった。
そして、俺たちはその石に近づき、そこにある文字を読む。
『聖女ミレミア、この木のそばで永遠に眠る』
……と。




