「お、おい、こんなところ俺が入っていっていいのかよ……」
その日の探索も、結局は無駄に終わってしまった。
厄介なことにトレントが道を誤らせるように誘導し、中心部、ミレミアの墓までの道に遠回りどころか遠のいてしまっていたのだった。道をふさいだり木のふりをしながらグネグネと間違った道を作っていたりと、 散々歩かされてしまい疲れ切ったところを狙ってくるという、魔物のくせに知恵を使った作戦だった。
「確かにトレントは木のふりをして人を襲いますが、これは確かに狡猾ですね。さすがに奇妙です」
とはクリスさんの談だ。
強引に進むことも選択肢にはあったけれど、それは最終手段ということにした。目的地に行くことはできても、戻れなくなる可能性の方が高そうだからだ。野営をしてその場に残ることも考えたのだけれど、それもトレントの襲撃が予想されたので却下された。
そういう訳で、日のくれる前にフォーレスの街へと戻り早めの夕飯をとって寝ようとした訳なのだけど。
俺の泊まる宿屋の部屋のドアからノックの音がする。同じ部屋にフユとクリスさん、それからなぜかモモまで一緒の部屋で眠っている。ポプリとルーカスはそれぞれ別の部屋をとっていたはずだけれど……。
寝付けなかった俺が、対応すべくドアを開けるとルーカスが立っていた。
「よう、嬢ちゃん。ちょうどよかった。ちょいと出かけないか?」
「はぁ?」
みんなを起こさないように着替えをし、ルーカスについて夜の街へと繰り出す。木々に囲まれたこの街は夜はすっかり暗いものかと思っていたが、街灯の魔道具が普及しているのでそれほど暗くはない。少し風が冷たいぐらいで、夜の散歩には心地いいかもしれない。
スタスタと歩くルーカスは特に喋ろうとしない。むしろ、何か警戒をしているぐらいだ。普段のルーカスの方がよっぽど自然に警戒しているのに、今日の警戒のしかたは何時ものと違ってなんというか、緊張しているような感じだった。
「ところで、どこに向かってるんだよ」
「なぁに、ちょっといいところだよ。お前さんもきっと気にいるぜ」
なんてことを言われても、不安にしか思わない。男2人で……と言いたいが、今の俺は女の子の身体なのだ。こんな夜中につれて歩かせられるとさすがに不安も覚えてしまう。
しばらくすると、街明かりが光る中でもかなり妖しい雰囲気のある通りに出た。これって、もしかしなくても。
「風俗街かよ!」
「ふーぞく? あぁ、そっちの世界の色街のことか?」
連れてこられたのはどこからどう見ても風俗街だった。魔道具が妖しく光り輝き、看板にちょっとアレなことが書かれていたりかわいいちゃんねーのエルフが描かれていたりと、異世界風ではあったけれど間違いなく風俗街だった。
その中でも一際高級そうな店へとルーカスが入って行く。置いていかれてもしょうがないので、一緒に入って行く。もちろん、ルーカスに確認をしながら。
「お、おい、こんなところ俺が入っていっていいのかよ……」
そういうお店に興味がない訳ではないのだけれど、今の俺の見た目は小学生の女の子なわけで。
さすがにこの見た目でこんなお店に入って行くのは気が引けてしまう訳で。
「まぁまぁ気にしなさんな。いいから行くぞ」
結果だけいうと、楽しかったです。
入ってすぐにそれは美しいドレスを身に纏ったエルフのお姉ちゃんたちが出迎えてくれて。あれよあれよという間にイス、の上に座ったエルフのお姉ちゃんの膝の上に座らされて。オレンジジュースーさすがにお酒ではなかったーを片手にお姉ちゃんがトレントの葉で作ったつまみを口にアーンとしてくれて、もちろん料理も美味かったけれど、それ以上のものがあるよね! うん!
モモやクリスさんほど大きくはないが、程よい大きさの柔らかいそれが後頭部に押し付けられている。
「やー、アキナちゃんだっけ? かわいー!」
ぎゅうっと抱きしめられると、香水かシャンプーの匂いだろうか、女の子特有の何かいい匂いがしてドキドキしてしまう。かわいいと言われるのは男としては納得はいかないけれど、今日この時だけはこの身体でもいいと思った。膝に乗せられても違和感ないし、そういうお店だからね! 仕方ないからね!
女の子に酌ーオレンジジュースですーをされ、上機嫌にしているとルーカスが話しかけてくる。結構酒を飲んでいたようだけど、見た目はシラフとそう変わりなかった。
「よー! 嬢ちゃん飲んでるかー!? こういう時ぐらい羽目を外さないと、あのメンツの中じゃキツイだろ!?」
訂正、だいぶ酔っているようだった。
まぁ確かに、ルーカスの言いたいこともわかる。何せメンバーが全員女性で、男性は俺とルーカスだけだ。俺も身体は女性なので、実質ルーカス1人ということになる。そんな状況じゃ、ストレスだって溜まるよな。
「飲んでるし楽しんでるよ。酒は飲めないけどな」
あきなちゃんの身体は小学5年生。この世界では15歳からが成人で、酒もその年齢じゃないと飲めないのだけれど、それ以上に問題なのはあきなちゃんはお酒がてんでダメだということだ。
アニメのとある回で、ウイスキーの入ったチョコレートをあきなちゃんが食べてしまい、それ一口で酔っ払ってしまったという話がある。その話を受け継いでいるのか、酒を一口舐めただけで倒れてしまったことがあった。それ以来この身体では酒は禁止なのだ。俺自体は酒は好きなのに……。
「そーかそーか! 楽しんでるならなによりだ! またそのうち連れてきてやるよ! ここ以上の店はないだろうけどな! なっはっはっは!」
「やだお兄さんったらお上手なんだからぁ」
ルーカスは完全に出来上がってるようで、酒を飲みながら女の子の身体を触って楽しんでいた。女の子も嫌がる素振りは見せず、むしろ「いやぁん、お兄さんったら」とそれを楽しんでいるような様子だった。
……ごくり。生唾を飲み込み喉がなる。いいよな? いいんだよな?
俺は意を決して女の子の胸に手を伸ばす。後数センチで手が届くーー
「アキナしゃん。帰りましゅよ」
ピンと三角の耳を尖らせた幼女が、俺の前にいた。どこか怒気を孕んでるような声で、目は笑っているようで笑っていない。薄い水色の髪は重力に逆らって逆巻いているように見える。背後には般若の面の幻覚まで見えていた。
「はい……」
俺は女の子の膝の上から降りると、幼女に手を引かれて宿へと帰るのだった。




