「しょーがないゾ……そこそこ楽しめたけど、もう終わりにするゾ」
「しっ! せあっ!」
ポプリのジャブがドリアードを襲う。普通に当たっているように見えるけれど、ドリアードには大してダメージにはなっていないようだった。
けれど、その隙に女の子をフユが保護しこちらに向かってきている。
「アキナしゃん、襲われていた子は確保したでしゅよ。あとはあれでしゅが……」
顎をクイッと持ち上げドリアードの方を指し示す。
女の子を保護したのを確認したのか、ポプリも遠慮なしに右拳を振るう。ドリアードの半身が吹き飛ぶが、瞬時に……とまではいかないけれどもその身体が再生していく。
その様子にポプリがニィッと笑い、拳のスピードをどんどんと上げていく。けれども、それでもドリアードの再生力と均衡し決着がつくことがない。
「援護したいところでしゅが、あれだけ早い戦闘だとむじゅかしいでしゅね」
「割って入ろうにも、邪魔になってしまうだけですね」
フユとクリスさんが冷静に分析する。話はしているが、その目はドリアードから離すことなく常に臨戦態勢を取っている。
ルーカスも周囲を警戒しながら話す。
「ポプリは究極的に単独での戦闘が得意だからな。あれに合わせるのは生半可じゃいかねぇぞ……っと!」
瞬間、ルーカスがナイフを投げる。
そのナイフはドリアードの足元に向かって飛んで行き、運良くなのかその瞬間にドリアードが根を使ってポプリを攻撃しそうになったのを弾く形になった。
俺は今ルーカスに抱きかかえられているわけだけど、それなのにルーカスの手元が全く見えなかった。気がついたのは、いつの間にかルーカスの腕がナイフを投げた態勢に変わっていたこと、太ももに2本付けているナイフが1本無くなっていること、ドリアードの根が不自然に切れたこと。これらに気がつけたからだ。
「ルーカス、お前、いつ投げた?」
「投げたことに気がつけただけ上等だよ。しかし、隙がないなあのドリアード。人と戦い慣れてんのか……?」
確かに、あのポプリの猛攻を受けてまだ倒れていないのはおかしい。おかしいといえば、ポプリもポプリで手を抜いているようにも見えるけれど……。
ポプリの左がまるで鞭のように動く。ジャブを放っているというよりも、マシンガンを撃っていると例えたほうがわかりやすいかもしれないぐらいには早い攻撃だ。正直目で追えていないわけだし。
そして、その攻防のせいで援護ができないことも痛い。フユも援護に入ろうと様子を伺っているが下手に矢を射つとポプリに当たってしまう。クリスさんに至っては割って入るとポプリの邪魔をするだけになってしまうだろう。もっとも、クリスさんにはここにいて俺や女の子を守ってもらっていた方が都合がいい。
「随分長引いてますね……」
「久々にそこそこ手応えのある相手だから、遊んでるだけの気がするな……っと、ポプリぃ! さっさと決めるか、切り上げるぞ!」
ルーカスがそう叫ぶ。ハッとして周りの様子を伺うと、トレントがわらわらと現れ始める。
今はフユが矢を射って倒しているが、このままだと物量負けしてしまう可能性が高い。ましてや、今は俺を含め非戦闘要員が2人もいるのだ。ここで女の子を守れなかったら何のために駆けつけたのかわからなくなってしまう。
「しょーがないゾ……そこそこ楽しめたけど、もう終わりにするゾ」
ポプリがそう呟くと、ぽわぁっと彼女の身体がぼんやりと光る。
その瞬間だった。バァン! と何かが弾けるような、爆発でもしたかのような音が響き渡り、思わず目を瞑り耳を塞いでしまう。
恐る恐る目を開けると、本当に爆発でも起きたんじゃないかという様な小規模のクレーターができていた。一体全体何をどうしたらこんなことになるというのか。
呆気にとられるのもそこそこに、ルーカスが俺を抱えて、クリスさんが女の子を背負ってその場から離脱を始める。フユが殿になって迫るトレントを追い払う。前からはトレントは現れなかったが、ポプリがいつの間にか先頭に立ち警戒を続けている。ただの戦闘狂なのかとも思ったが、こういうところは凄腕の冒険者らしくもある。
それはそうとあの光ったのは……
「あれって、何かスキルなのか?」
「よく見えたな。あの手のスキルは見分けが難しいってのに」
ルーカスによると、あのスキルは【怪力】のスキルらしい。名前の通り力に関するスキルで、スキルのランクに応じて力の能力値を上昇させる、単純明快だけど強力なスキルだと言える。普通は重いものを運ぶ作業や巨大な武器を扱う補助に使われることがほとんどなのだが、ポプリはこれを直接的な攻撃手段に用いている。誰でもできそうなことだけれど、そうでもないらしくかなりすごいことらしい。
そんな話を聞いていると、ぐるりとポプリが身体の向きを変える。森の中を走っているのに後ろ向きに走っているとかかなり器用なことをするなぁ。
「ルーカスー、あんまりペラペラ喋ってんじゃないゾー?」
そう言ったポプリの顔は笑顔ではあったけれど、怖かったのでそれ以上は聞かなかった。ルーカスも話さなかった。
どうにか森から脱出し、止まっている宿で全員腰を下ろす。一息ついてから、女の子に事情を聞いてみようと、移動中に決めていた。
しばらくした後には女の子も落ち着いた様で、ようやく話せる様になった。
「それで、あなたはどうしてあんな場所にいたのでしょう」
クリスさんがそう切り出した。
女の子は、俺たちの方を一巡して。
「わからない」
そう答えたのだった。




