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「か、硬い……ふぎぎぎぎぎ」「あんまり無理すんなー」


  トレント。木に擬態して人や動物を襲い、襲った獲物を養分にして育つ魔物。蔦や根、枝を自在に操る【木魔法】のスキルを持ち、かつ群生していることが多いので並の冒険者では歯が立たないことが多い。1体あたりはDランク程度の魔物だが、群生地ではCからBランクとなりパーティでの討伐、特に遠距離から狙い撃ちのできる魔術師や弓師での討伐が薦められるが、木に擬態をしているので近づかないと見分けがつかない厄介な魔物である。


「……っと。これで十匹目でしゅね」

「やっぱり弓だと早いですね、こちらも五匹仕留めました」

「いや、あんたらの狩速度早すぎだからな?」


  フユが弓で次々とトレントを仕留めていく。クリスさんもその堅靭な防御力を活かして、危なげなく倒していく。フーコーも苦戦しているようだけど、さり気なくフユがフォローしどうにか一匹仕留めたところだ。

  なぜこんなことになっているかというと、一夜明けてティーミリアさんから直々に依頼を受けたからである。


「森の入り口付近でトレントを狩って欲しいエルフ。トレントの葉は需要があるからたくさん欲しいエルフ」


  なんでも、今までなら森にはいればトレントはたくさんいるので定期的に狩り、その葉を名物として売り出していたのだけど、森の異常が起きてからあまり人を森に入れないようにしたためトレントの葉が流通しなくなってしまったのだとか。

  なぜ俺たちに言うのかというと、Sランクの冒険者が2人もいるものだから安心して任せられるかららしい。浅瀬で狩れば迷う心配もないということだ。

  パァン!  と空気を裂くかのような音が響く。クリスさんやフユ以上にトレントを仕留めているポプリの姿がそこにあった。

  ポプリの武器はその両手の拳だ。ガントレットで覆ってはいるけれど、それ以外に武器らしい武器もない。けれど、その拳はそこらのハンマーなんかよりもずっと威力があるだろう。ドワーフという種族は、ヒューマン、人間に比べて力が強いのが相場らしいが、ポプリのそれはその中でも化け物と言っていいレベルだろう。

  左のワンツーで二匹のトレントが倒れ、直後右ストレートが三匹目のトレントを粉砕した。まるで風船が割れるかのように、打撃とその衝撃だけでトレントの身体を四散させるのだ。


「手応えがなさすぎだゾ。うちちょっと休憩するゾ」


  ポプリはそういうとその辺りに腰掛けてしまった。フユとクリスさん、フーコーはまだ戦っているのにだ。ルーカスはといえば倒されたトレントを解体し、魔石と葉っぱを回収している。俺もそれを手伝いながら周りの状況を観察しているわけだけど。


「か、硬い……ふぎぎぎぎぎ」

「あんまり無理すんなー」


  ナイフでトレントの枝をギコギコと切ろうとするものの、全然刃が通らない。ルーカスはそんな様子を見ながらサクサクと枝を切り葉を集めていく。

  俺の力が弱いせいなのか、他の奴らの力が強すぎるのか。どっちにしても何にしても、役に立てないのはなんだか……悔しいな。


「そんな落ち込むなって。お前さんにはちゃんと大切な役目がある。……ほら」

「それって……?」


  ルーカスは俺の腰あたりをじっと見る。そんなにジロジロ見られると視線がくすぐったいというか、俺の腰あたりに何があるのか……って!


「荷物持ちかよ!」


  俺の腰には、【無限収納】のポシェットがある。これで大量に荷物を運べとそういうことなのか!  それはそれでムカつくんだが!

  怒りのあまり地団駄を踏んでいると、片付け終わったのかフユたちもやってきた。


「何怒ってるんでしゅか?」

「わかりませんが、どうせルーカスが怒らせるようなことを言ったのでしょう」

「ルーカスはアホだかなぁ、女の子を怒らせるとか本当アホだゾ」


  三者三様に言っているが、そもそも俺は女の子じゃない。ルーカスがアホなのは同意するが。

  トレントの解体も終わりそろそろ帰ろうかというところで、トラブルメーカー(ポプリ)が余計なことを言い始めた。


「弱すぎてつまらなかったゾ。そろそろ奥に潜るゾ?」

「潜らないゾ?」

「アキナちゃん、移ってます」


  森に異常が起きてるってティーミリアさんが言っていたのに、誰が好き好んで奥に進んでいくものか。奥には何か元の世界に帰るためのヒントがあるかもしれないのはわかっているが、死人が出ているようなところに好き好んで行きたいとは思わない。

  けれど、そんなことは関係ないと言わないばかりにポプリは寝転んで暴れ出した。駄々っ子の子どもかよ……。


「えぇー、行こう行こうー、奥まで行きたいゾー!」

「こうなると止まらねぇぞ、面倒だなぁ……」


  ルーカスでも手を焼くらしい。確かに落ち着きそうにはないし、宥めようにも地面がすごい勢いで抉れていくから近づきたくはない。

  一体どうしようかと考えていると、ルーカスがとんでもないことを言い始めた。


「しょうがないから一回進んで見るか?」

「はぁっ!?」


  ルーカスが言うには、メンバー的に森の奥に進んでも問題はないと思うということだ。

  前衛にポプリ、後衛にフユで攻撃力はかなり高いし、撃ち漏らしもフーコーがいる。クリスさんが防御に徹すればこちらに被害がやってくることはない。出てくる魔物がトレントだけならさっきも見た通り問題はないだろう。

  確かにそれだけ聞くと全然問題はなさそうだけれど。


「ま、どうするかはお前さんに任せるぜ。一応この集まりはお前さんを中心にしてるからな」

「えぇっ!?」


  いきなりリーダーみたいに言われても困るんですけど!

  周りを見れば、俺の判断を待っているようだった。ポプリは期待に満ちた目でこちらを見ているし、フユとクリスさんは俺がどうするかを待っているみたいだ。フーコーは……よくわかってないけれど文句があるという風でもない。ルーカスは言わずもがなだ。


「はぁ、じゃあ本当にちょっとだけな。無理だと思ったら即撤退。……それでいい……」

「助けてー!」


  行こうかと思った矢先に、助けを求める声が聞こえてきた。

  フユとポプリがいち早く動き、俺たちもそれに続いていく。急ぎのため、俺はルーカス号で特急だ。

  その場へとつくとフユが女の子を保護し、ポプリが魔物を抑えていた。

  魔物はトレントじゃなく、植物系の魔物には違いないが人の女性を模した木彫りの彫刻みたいな姿をしている。


「ありゃあ、ドリアードか!  厄介な魔物だ!」


  ルーカスの焦り方を見ると、結構まずい状況かもしれない。


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