「ルーカス、道案内よろしく」
ティーミリアさんと話し込んでいると、もう夕方になるという時間になっていたので、森の方を探索するのは明日にしようという話になった。
ひとまず食事を取ろうということで、フォーレスの街を散策していく。観光地ということで食事処には困らないだろうけれど、そこはせっかくの観光地、色々見てから決めたいところだ。
テキトーにアテもなく歩いて行くのも嫌いではないけれど、意外と大人数での移動のためある程度目的地を絞っておきたい。そんなわけで。
「ルーカス、道案内よろしく」
「はいはいそーですよね俺が案内しないといけないですよねぇ!」
ルーカスじゃなくてフーコーでもいいのだけれど、かなり久々ということで道もわからないだろうし、ポプリは論外だ。道案内ができると思えない。
そんなわけで必然的にルーカス一択になってしまうのだ。
まぁ彼もそれは理解していたらしく、オススメの店があるということでそこへ向かって歩いている最中なのだが。
「しかし、この街は空気がおいしいでしゅね」
「木々が多いし、空気が新鮮に感じるな」
フユが大きく空気を吸いながら言ったことに、俺は同意する。
ここに限らず、この世界は元の世界に比べて自然にあふれているから澄んだ空気を感じられる。その中でも、ここリシャルグリフは別格だと思う。
「近くに広大な森もありますし、木材には事欠かないのでしょうね。道行く土産屋も木工製品が多いです」
「エルフの手作りだから、杖や弓が人気みたいですぜ。俺はこれがあるんで詳しくはわかりやせんが」
クリスさんが繁々と土産屋を見ながら言うと、それにフーコーが解説を挟んでいる。あまり役にはたっては無さそうだ。
2人とも盾や大剣という主に鉱石を使った武器持ちだから、木を主原料にした杖などとは縁遠いだろう。
けれど、木でできた製品よりもあるものの方が多く並んでいるように見える。
「あれって、鐘、だよな?」
「この街では特に鐘の聖女様が人気だからな。それをモチーフにした鐘は人気なんだよ」
鐘、と言うよりもハンドベルのようなものが多いが、窓枠にぶら下げるようなものから杖についた錫杖のようなものまで様々な種類の鐘が売ってある。
1つ手に持って見ると、チリン、と小気味好い音がする。こっちには髪飾りまであるのか。妹なんかは喜びそうだな。
「アキナちゃん、それ欲しいんですか?」
なんとなく手にとっていたそれを欲しいのかとクリスさんが訪ねてきた。
聞かれても俺自身が欲しいわけじゃないしなぁ、なんて考えていると、フユも悪ノリを始める。
「しょれつけて見たら似合うと思いましゅよ……ぷぷっ」
「笑うぐらいなら提案するんじゃねっつーの……ってクリスさん買わなくていいですから!」
俺の叫びも虚しく、フユにツッコミを入れている間にクリスさんが購入してしまっていた。そして、それを嬉しそうに俺に手渡ししてくる。
「今は恥ずかしいかもしれないですけれど、髪飾りの1つくらい持っていた方がいいですよ」
身だしなみとかを気にするならそうかもしれないけれど、俺はそこまでするつもりはない。あきなちゃんの身体だし綺麗にはするけどね。わざわざ着飾ったりはしないというだけだ。買ってしまったものは仕方がないから、カバンの肥やしにでもしておこう。とりあえずポシェットに放り込み、散策を続けることにする。
その後は特別どこかによることもなく、まっすぐと食事場所へとたどり着く。
エルフの郷土料理の専門店らしく、入って見るとやっぱりエルフの店員がいた。店員に案内され席へと座りメニューを見るも、どんな料理か想像をすることすらできず、ルーカスにお任せした。他の皆も同様のようだったが、ポプリだけはお肉お肉と騒いでいた。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたのは、サラダ中心の野菜料理。肉もないわけじゃないけれど、野菜がメインなのは間違いない。ポプリの目が完全に死んでいる。
確かにエルフって肉は食べないベジタリアンなイメージだけど、まさにイメージ通りなのだろうか。
「ここにきたら、1回はこれを食っとかないともったいなくてなぁ。とにかく騙されたと思って食ってみろって」
ルーカスはそういうが、さすがにあまり気乗りはしない。
見た目はただレタスかキャベツが散りばめられただけの、サラダとも言えない料理と言っていいのかわからない何かだし、スープも同じ野菜が大量に入っている。肉料理は豚のブロック肉みたいなのがただ焼かれただけであり、野菜よりも量は少ない。
気は進まないけれど、腹が減っているのもあるのでとりあえず葉っぱの野菜を食べて見る。
「っ!」
一口食べて見ると、水が口の中から溢れてくるんじゃないかと思うぐらいの水々しさと柔らかい甘みが感じられ思っていた以上に美味く、食べる手が止まらなくなる。さらにその野菜を使ったスープも他の野菜の味と合わさってさらに美味しく、肉料理はそれがメインかと思えばさっきの葉っぱをサンチュのように肉を巻いて食べることで、その美味さが何倍にも高まった。
見れば他のみんなも夢中になって食べている。文句ありありだったポプリもガツガツと食べている。
「な? 美味かっただろ?」
ルーカスがそう訪ねてくる。ちょっとドヤ顔なのがムカつくが、確かに美味かった。あの味を知ってしまったら、他の野菜じゃ満足できなくなってしまいそうだ。それぐらい美味かった。
「このエルフの島の『トレントの葉』は本当格別だからなぁ」
「トレント……?」
その言葉に、クリスさん、フーコーがぶふぅと飲んでいた水を吹き出す。
「トレントって魔物じゃねーか!」
フーコーが叫ぶ。
魔物ってゴブリンとかみたいなやつ? これはその身体の一部ってこと?
「……うっ」
とりあえず、気持ち悪くなったので吐いてみた。




