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「おいポプリ、お前さんこれはマジか?」


  場所を変えて、落ち着いてから話をしてみると、ポプラが船のアテがあるということで全員でそこに行ってみることにした。全員というのは何故かフーコーも一緒だった。なんでもSランク冒険者について行って自身を鍛えたいのだとか。俺たちとしては何があるかわからない場所に行くことだし頭数は多いほうがいいということで特に断る理由もなかった。

  それで、ポプリの後について再び港へ着いてみると。


「おいポプリ、お前さんこれはマジか?」

「マジもマジだゾ?  うちはこれでディアンバからアングラまで来たんだゾ?」

「ディ、ディアンバから!?」


  ディアンバというのは、この街アングラとは反対にある港町でディカルディ王国最大の港町だ。

  そして、ポプリが俺たちに見せたのは小型の木製ボートである。そう、ボートだ。帆もエンジンも何も付いていない手漕ぎのボートだ。


「ディアンバからは1週間ぐらいかかったと思うゾ?  地上の魔獣と違ってぬるぬるでぬめぬめで戦いにくかったゾ」


  あっけらかんと言うポプリだけれど、その言うことはにわかには信じられない。

  こっそりと、フユに耳打ちをする。


「なぁ、船の上でなんて戦えるか?」

「ガレオン(しぇん)みたいな大きな船の上でならまぁ地上の戦闘(しぇんとう)とそう変わりないでしゅが、あのボートだと……弓や魔法は撃てましゅが、逆に的にしゃれるだけでしゅね」


  海にいる魔獣がどんなものかはわからないけれど、例えば、あのボートに1人だけ乗ってサメに襲われたらどうだろう。さらに例えばだけど、銃のような遠距離武器を持っていたとしても、海の下から襲われたらひとたまりもないだろう。

  それだと言うのに、この娘は1人で海を渡って来たというのか。魔獣をその手で叩きのめしながら。そっちの方が、よっぽど化け物だ。


「相変わらず無茶苦茶しやがるなぁ。まぁそれぐらいじゃ死なねぇとは思ってるけど」

「そういうルーカスもゴブリンキングと戦ったんだろう?  やっぱり強かったか?  どうだったんだ?」

「俺はいつも通り逃げてただけだっつの」

「……はぁぁぁぁ。つまんねー奴だゾ」


  ルーカスは飄々としているが、その様子にポプリはひどいため息をついている。

  どうやらポプリがめちゃくちゃなことを言うのはよくあることらしい。ルーカスも慣れたように話を続けている。

  その様子に、クリスさんもポカンとし驚きを隠せない様子だ。まぁ、そうなるよなぁ。


「つまんなくて結構結構。バトルジャンキーはお前さんやデリードだけで充分だっつーの」

「デリードって、あのデリード!?」


  ルーカスが何気なく言った名前に、フーコーがやたらと驚いている。この人驚いてばっかりじゃないか?

  俺とフユが誰だと疑問を浮かべていると、クリスさんがそれが誰かを教えてくれた。


「デリードはあの2人と同じく、Sランクの冒険者です。職業はクルセイダー。彼らとのパーティでは盾役を負っていたそうです。盾と言っても、ポプリと2人並んで突撃して無理やり注目を集める、そんな破天荒な方だそうです」


  うへぇ……。

  なんだかポプリ以上に濃いキャラの予感がする。絶対会いたくない。けれど、フーコーはその話を喜んで聞いている。『勇者伝説』のように、Sランクというのは皆の憧れなんだろう。まぁ、実際にあって見るとちょっとアレなんだけれど。

  それよりも、今は他に決めることがあるはずだろう。


「今いない人の話はもういいでしゅよ。それよりも、どうしゅるんでしゅか」

「どうするって……」


  フユの言いたいことはわかっている。ポプリの乗って来た立派でもなんでもなく、むしろボロいぐらいの木船で島まで渡るのかどうかだ。

  全員乗ったら沈んでしまいそうなものだけど、重い荷物は俺のポシェットに入れておけばどうにかなるだろう。

  問題は、本当に渡れるのかどうかということだけれど。


「ルーカスは行けると思う?  この船で、エルフの島まで」

「行ける。……が、危険だからできればやめておきたいな。急ぎってわけでもないし、なぜ船がないのかということまで調べてからでも遅くないだろうしな」


  ルーカスの言うことはもっともだ。確かに色々調べてからでも遅くはないと思う。

  けれど、早く元の身体に戻りたいことを考えると、早めにエルフの島へと行きたくもある。あんまりもたもたもしていられない。

  そう思った矢先に、フーコーが話し出す。


「船ならないぞ。今は聖教国がキナ臭いから船の本数をかなり絞ってて、今は全部出払っちまってる。戻って来てまた出航するまで、1、2ヶ月はかかるだろうな」

「げぇ……」


  これはいよいよ覚悟しなくちゃいけなくなった。この街でしばらく待つか、あの小船で移動をするか。

  船は特別にボロいと言うわけではないけれど、海を渡るには間違っても立派だとは言えない。しかも俺たちが渡るルートは、湾状の海岸から海へ出て、川を上るコースになる。それをこんな小船で耐えきれるんだろうか。


「えぇい!  うじうじうじうじ悩んでるんじゃないゾ!  さっさと……いくゾ!」


  ポプリがそう言うと、襟首を掴まれそのまま海へと放り出される。って落ちるううううううう!?


「っと。ポプリぃ!  危ない真似してんじゃねぇっつの!」


  海へとダイブする前にルーカスにキャッチされ、船へと着地する。船の上だと言うのに揺れも音もしなかった。そう言えばゴブリンと戦っている時もあんまり揺れなかったような。もしかしてルーカスもかなりの実力者?

  俺だけじゃなくクリスさんとフーコーも投げ捨てられていたが、クリスさんはフユが、フーコーは投げ捨てたポプリ自身がキャッチしてそのまま船に乗り込んだ。……って揺れる揺れる!?


「あっははははは!  そらいくゾ!」


  そしてそのまま船を漕ぎ出し、猛スピードで船は陸を離れていく。

  一体どうなってしまうことやら……。

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