「小さい女の子をいじめるなんて、お前ら最低だゾ!」
俺よりももう少しだけ低い身長。高い位置で括られたオレンジに近い赤髪のツインテール。褐色の肌に銀のガントレット。武器らしい武器は持ってないけれど、革でできた防具は立派そうに見える。こんなに幼いのに冒険者なのだろうか。
大男をドロップキックで吹っ飛ばした少女は、俺を守るかのように前に立った。
「小さい女の子をいじめるなんて、お前ら最低だゾ!」
いや、言っていることはもっともだし同意はするんだけども。
ふと冒険者たちと目が合う。きっと俺たちの思いは1つになっていることだろう。
(お前の方が小さくない!?)
「なんか、失礼なこと考えてたやつがいるゾー?」
指をポキポキと鳴らしながら冒険者たちへと近づいて行く少女。冒険者たちは顔を青くして逃げようとしているし、船乗りたちは我関せずといった様子だ。俺は少女の背中越しに冒険者たちへ合掌した。
程なくして冒険者たちは全員吹っ飛ばされ、少女の方はスッキリとした顔をしとても満足げな様子だ。
そんな彼女へ、今まで静観していた酒場のマスターが近づいてくる。
こういう時のお約束は、彼はさらなる実力者で少女に勝負を求めるとか、実はギルドマスターとかで勧誘されちゃったりとかするのだろうか。
ワクワクしながら待っていると、マスターが口を開く。少女もどこかしたり顔だ。
「……喧嘩の被害の弁償、してもらえますね?」
「……はい、だゾ……」
ですよねー。
ーーーーーーーー
なんとなく少女がマスターにお金を支払い終わるのを待ち、その間ジュースを飲みながら待っていると、ボロボロになった大男と先の少女が揃ってやってきた。
そのまま俺たちの座るテーブルに腰掛けると大男が謝罪をする。
「先ほどはすまなかった。驚かせてしまった」
「はぁ……」
テーブルに頭がぶつかりそうな勢いで頭を下げる大男。なんだかこっちが恐縮してしまう勢いだ。
とは言えこっちは悪いことしてないし、さらに言えば大男も悪いことはしていない。唯一悪いことをしたとすれば。
「うちも悪かったゾ! まぁ許すとよいゾ! あっはっはっは!」
謝りながらも大笑いをする少女。しかし、そんな幼女に大男やその仲間は畏怖の感情を抱いているようだ。
まぁあれだけボコボコに殴られればそれも仕方がないというものか。
少女はそれすらも気にしていないといった様子で大笑いを続けている。なんというか、能天気というか豪傑とでもいうのか。
「ところであんた、俺の間違えじゃなかったら怪腕の……」
「それ以上言ったら殺すゾ?」
空気が緊張する。さっきまで和やかさも感じられた空気が一変して凍りついたように冷たくなる。
少女は表情こそ変わりないが目が笑っていない。それがより恐怖を与えてくる。俺らに向かって放っているわけではないだろうけれど、殺気をビンビンに感じてしまう。
大男の仲間は何人か気絶までしてしまっているようだ。もろに殺気を受けてしまっているから仕方がないと言えば仕方がないだろうけれど。
あまりにもあんまりな空気なので、ちょっと怖いけど割って入ろうとしたその時だった。
「とりあえず、自己紹介でもしたらどうでしゅか?」
空気の読めない元女神が割って入ってきた。
けれどその言葉で少女の殺気も解け、大男たちもどうにか復帰した。
「そ、そうだな。俺はフーコー。フーコー・メイビーだ。Bランクの冒険者でこの辺りを拠点に活動している。改めて悪かったなお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんっていうな。俺はアキナだ」
大男、フーコーは再度謝ったがお嬢ちゃんって呼ばれるのが気に食わないので謝られてもなんだかいい気はしない。
その微妙な空気を空気読めない2人が割っていく。
「わたしはフユでしゅ。まぁよろしくでしゅよ」
「うちはポプリだゾ! よろしくだゾ!」
フユはまぁ大人しめだが、もう1人の少女、ポプリはかなりうるさい。元気一杯とかじゃなくて、うるさいのだ。俺がいじめられていると思って助けてくれるぐらいだし悪い子ではないのだろうけれど、もうとにかくうるさいのだ。今はフユの手を取ってブンブンと振っているが、いつ俺の方に来てもおかしくはなさそうだ。フユもすごく面倒そうな顔をしている。
そんなポプリに、フーコーがまるで化け物でも見たかのような驚愕の表情を見せている。確かにこの小さい体躯でフーコーのような大男を吹っ飛ばすのは化け物のように強いとは思うけれど。
俺が不思議に思っていると、フーコーがこっそりと話しかけてくる。
「あんたらは知らないのか? ポプリっていやぁ有名な冒険者だぞ? あのいみょ」
「それ以上は黙ってろって言ったはずだゾ?」
もう何度目かもわからない殺気がフーコーを襲う。わざわざ教えてくれる辺りいい人なんだろうけれど、懲りない人だなぁ。顔青ざめてんじゃねぇか。
まぁけど、なんとなくはわかった。
フーコーはまぁそこらにいる冒険者と変わりないだろう。いい人で被害者気質なだけの、ただの冒険者だ。
ポプリはなんだかわからんことはわかった。とにかく凄く強そうということはわかるけど、一体なんだってこんなところにいるんだ。
「ポプリはかわいそうなことされている子の味方なんだゾ。かわいそうな子がいたら助けるのは当然なんだゾ?」
うん、全然わからん。誰か情報をくれ。
その顔は裏も表もなさそうに純真無垢だ。というか、何も考えてないんじゃないだろうか。
「アキナしゃん、とりあえず他を当たりましょう。クリスシャンたちが待っているかもしれないでしゅし、この人たちは何も知らなさそうでしゅし……」
「うん、俺もそう思う……」
いい加減に立ち去ろうかと思った矢先に、見知った顔が入ってくる。
「邪魔するよぃっと……ってげぇっ!?」
「あー! ルーカスだゾ!」
厄介ごとの気配は、まだまだ終わりそうにない。