「そうだ! こういうファンタジーな世界なら、酒場に何か情報持っている人がいるんじゃないか!?」
魔導列車は朝に港町『アンブラ』へと着き、俺たちはそこで降りた。けれども魔導列車自体は終点ではないので停車時間は短く、寝ぼけ眼での乗り降りはちょっと大変だった。
アンブラにはクリスさんの実家があるのだけれど、生憎と現当主であるクレイファ・マスウェイルは不在だった。
マスウェイル家の当主となれば勇者の守護者の1つ、盾の守護者のことを何か知っていそうだけれど、居ないのであればどうすることもできない。
なのでアンブラはほとんど素通りで、すぐに船でエルフの島へと渡る。その予定だったのだけど。
「船がない!?」
「ええ、ここ最近聖教国の動きがどうにも怪しいらしく、その中継点であるエルフの島へも船を出して居ないみたいなんです」
王様もそんなことを言っていたけれど、そもそも向こうに渡れないのならどうすることもできない気がする。
兎にも角にも、向こうへ渡る手段を探さないと。
「私は港で船を出してもらえないか聞き込みをします」
「俺もちょいとツテをたどってみるかね。あんまり期待はしないでくれよ」
「じゃあ俺とフユで街で聞き込みしてみます」
と言うわけで3手に別れてエルフの島へと渡る手段を探しているんだけれど。
「疲れた……」
「この広い街で、しかも初めて来て道もわからないのに歩き回るなんて無茶もいいところでしゅ」
噴水のある広場で、俺とフユはベンチに腰掛け休んでいた。
フユの言う通り、初めての街を地図もなしに歩き回って、しかもあるかないかもわからないエルフの島まで船を出してくれる人を探すのはやはり無茶だったと思う。
「市場は活気がありましたが、さしゅがにエルフの島までは船を出してはくれなかったでしゅね」
「そうだな……」
日本で例えるなら築地みたいな感じなのだろうか。新鮮なとれたての魚を売っている市場はそれは活気があったのだけど、彼らが使う漁のための船と島を結ぶ連絡船とでは勝手が違う。何より、ただの漁師が危険を冒してまでそこまでふねをだしてくれるとも思わない。
ため息をついてから顔を上げると、ある看板が見えてくる。
「あれって」
「酒場でしゅね」
その時、俺の頭の中に天啓が走る。
「そうだ! こういうファンタジーな世界なら、酒場に何か情報持っている人がいるんじゃないか!?」
「アキナしゃんはファンタジーに夢を見しゅぎてないでしゅか?」
俺のその言葉にフユは完全に呆れてしまっている。
けれども、俺は止まらない。いや、きっとあそこに何か情報があるに違いない。ならば止まるわけにはいかない!
「いや! そんなことはない! 俺は行く! 俺は行くぞ!」
「あ! ちょっとまつでしゅよ!」
フユの制止を振り切り酒場のドアを開ける。ロマンあふれるウエスタンなスイングドアだ。
中を覗けば、屈強な船乗りや大剣を持った大柄な冒険者なんかが、こんな昼間から酒を煽っていた。
そんな男どもの視線がこちらへと集中砲火される。
その中の1人、大剣を持った大男がこちらへと近づいてくる。これはもしやファンタジーのお約束、絡まれイベントではないか!?
「おうお嬢ちゃん」
「ひゃ、ひゃい!」
間近で見るとかなりでかい。2mぐらいはあるんじゃないだろうかと思えるほどの大男が、これまたそれに輪をかけて大きな大剣を背負ったまま近づいてくる。俺の今の身長と相まってものすごくでかく感じてしまう。
見下ろされるとかなり威圧感を感じてしまい、変な声が出てしまった。
それを聞いた大男がちょっと落ち込んでる。いや、かなり落ち込んでる!?
「やっぱ俺怖いよな……あんな小さな女の子に近づいたらよくないよな……」
「リーダー元気出して!」
「リーダーは悪くないっす!」
「おい! お前リーダーに謝れよ!」
「そうだそうだ! あーやまれ! あーやまれ!」
えぇ……。なんでか俺が悪いみたいになってる……。
大男はその場でうずくまって体育座りをしてるし、それを囲むように彼の仲間が慰めている。というか囲っているせいで彼らが大男をいじめているように見える。
そして謝れコールが店内を響き渡り、船乗りたちも酔っているせいか悪ノリがひどい。俺が普通の幼女だったら泣きそうだ。普通の幼女は大男を見ただけで泣きそうなものだが。
「えぇえと……なんか、ごめん?」
俺は大男の顔を覗き込み、はにかむようにそう言った。実際はかなり苦笑いだ。
大男は俺の顔を見ると目を見開いて驚き、そして顔を赤らめた。
「天使だ……」
ちょっと何言ってるかわからない。いやあきなちゃんが天使なのはわからなくもないけれど。
けど中身は俺だぞ? 魅力半減もいいところだろうに。
ていうかフユは大爆笑かましてるんじゃないよ。
「ひー……アキナしゃんが天使だなんて笑いが止まらないでしゅ。あははは!」
「お前後でしばく」
とりあえずフユには後でお仕置きするとして、今はこの状況をどうにかしないと。
まぁ大男はなんかアホなこと言ってるけどこっちのいうことを聞いてくれそうだし、どうにかなりそうかな。
なんて考えている時が俺にもありました。
「うああああああああああああ!!!」
絶叫とともにまた小さい女の子が店内に飛び込んでくる。
そして大男にドロップキックを決めて、しゅたっと着地する。大男の方は店の壁を突き破って飛んで行ってしまった。
どれほどの威力があったのだろうか……。
「女の子をいじめてるんじゃないゾ!」
これはまた、トラブルの予感しかしないなぁ。




