「それで、これでどこまでいくんだ?」
「それで、これでどこまでいくんだ?」
「なんだよ、おたく知らないでついて着てたのかよ」
俺が疑問をポツリと呟くと、ルーカスが嫌味っぽくそう言った。
紅茶を淹れてそのティーカップを俺の前に置いたクリスさんが目的地の説明をしてくれる。
「目的地はこのディカルディ王国とヴィヴォール聖教国のちょうど間にある中立地帯、通称エルフの島です」
大陸の中央から南に向かって流れる川。その海への出口の中州にできた島。そこはどの国にも属さず、どこにも従わず、どこへも攻め込まない。完全中立で人間にも魔族にも、誰の下にもつかない集まり。それがその島に住むものたち。
その中でも強い発言力を持つのがエルフだ。
エルフはよくあるファンタジー小説にある設定とそう変わらない。森に住み、耳が尖り長いが見た目は人間と変わりないがかなりの長寿。弓に長け魔術にも精通している。特に、最初の魔道具を作り出したのもエルフだと言われている。
「エルフ達はその昔、今で言う魔王の島に住んでいたのですが、200年前の魔王復活とその戦いの折に移動を余儀なくされたのです」
魔王の島も本来は緑豊かな島だったのだが、魔王復活の際に島は枯れ果ててしまった。世界樹と呼ばれていた天にも昇る巨木があったのだけれどそれも枯れ、魔王と勇者の戦いの中で消滅をしてしまった。
魔王は倒されてもその島の自然は元には戻らず、魔物や魔獣の蔓延る危険な場所に成り果てた。
だからその島へと移っていった。
その島に映る際に、彼らエルフを導く者がいた。鐘の聖女、ミレリア。戦いが終わった後、聖女ミレリアの主導でその島に移り、エルフ達はその島に根付いていく。エルフ達はミレリアの教えの元、誰も分け隔てない完全な中立地帯を築いていくのだった。
「そして聖女ミレリアもその島に住み、最後までエルフ達を導き続けそしてその島に眠ったというわけです」
「なるほど……それで聖女の墓がそこにあるんですね」
王様は島に、ミレミアの墓に行けと暗にいっているのだろう。
こちらの目的……勇者の伝説を追って元の世界に戻るという目的に、緑の鐘の守護者、ミレミアの墓に接触するのは合致していると言える。
「けど、王様は『あると言われている』って言ってたよね」
「そうです。ミレミアはそこの島にいたと言われていますが、彼女は元々聖教国の人間です。聖教国も知らないとは言いますが、実際のところどこにあるかははっきりとしていません。ただ……」
「ただ?」
「エルフの島にゃー世界樹ほどではないがでっかい木があってよ。それは聖女の墓に植えたものだってもっぱらの噂よ」
さっきまで口を開いていなかったルーカスが美味しいところを持っていった。クリスさんが見るからに不機嫌だ。俺はしらねーぞ。
それにしてもエルフの島に聖女の墓に世界樹のようなでっかい木ねぇ。
「ところで世界樹ってなんなんだ?」
「そっからかよ……」
世界樹というのはこの世界に1本しかなかった特別な木で、まるで天を、地を、世界を支えているような本当に巨大な木だった。木自体が膨大な魔力を蓄え、その果実は全ての傷や病気を癒す万能薬になるという。
悠々と佇む木は平和の象徴とまで言われていたそうだが、さっきも聞いた通り魔王との決戦で消滅してしまった。
「果実は万能薬に、枝は鉄よりも硬い素材に、葉も果実ほどではないですが薬になったり建物や防具の素材になったりと余すところがない凄い木だったと言い伝えられてますね」
「へぇ……そりゃ凄いなぁ」
そんな万能アイテムが無くなってしまったのはもったいないよなぁ。
けどまぁ、ないもののことを言っていてもどうしようもない。
「けれど、聖女の墓に植えられた木は世界樹の苗だったという話もあります。もしそうだとしたら、私たちの世代では無理でも遠い未来では世界樹の素材が使えるようになるかもしれませんね」
「けども噂だろ? 島のエルフ達は情報を秘匿しているみたいだしな。たまたま大きく成長しただけの木って可能性もある。期待しすぎない方がいいだろうぜ」
ルーカスの言うことももっともだ。そもそも俺たちにはそう関係ないだろう。
見たいのは聖女ミレリアの墓であって、世界樹ではないしな。今後の世界のことには、そこまで興味はない。
結構長く話し込んでしまった。もう王都からかなり離れ、窓からは星空が見えている。
「さて、そろそろ眠って休憩しましょう。着くのは明日の朝になるそうですし、特にすることもないですしね」
「そうだな。んじゃあ俺は先に失礼するわ」
そう言ってルーカスが1人でベッドを占領する。フユは大人しいと思ったら、話に興味がなかったのか早々に寝てしまっている。
俺も一眠りしようかな。そう思ってベッドの方へと行こうとすると、急にクリスさんが後ろから抱きついた。
「うふふ、今日は一緒に寝てもらいますよ」
「ちょっとぉ!?」
その後もドッタンバッタンと暴れて、結局ゆっくり寝たのは何時間も経ってからだった。




