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「というかアキナしゃん、またかわいい格好してましゅね」


「もうお婿に行けない……」

「それはこっちのセリフなんでしゅけど……」


  裸に剥かれてお湯をかけられ、泡で全身を弄られた後に、さらにお湯に浸けられる。そんな拷問を同い年ぐらいの女性に裸を見られ、またその女性の裸を見てしまいながら行われた俺は身体的にはリフレッシュしたものの、精神的にはゴブリンキングと対峙した時以上に疲れ果ててしまい、案内された食堂のテーブルに突っ伏していた。

  テーブルは長い長方形をしており、正に貴族が使うような、絵画とかでしか見たことがないようなそんな食堂だった。


「というかアキナしゃん、またかわいい格好してましゅね」

「言うな。思い出させるな。俺は今心を無にしている」


  本当は説明するのも苦しいのだけど、俺が先の拷問を受けている間にクリスさんの指示で俺のサイズに合う服をメイドの1人が調達してきたらしかった。

  その調達された服というのが、いわゆるドレスである。子ども用のAラインのドレスというらしいが、正直ドレスの種類なんてどうでもいい。そんなものを、俺が着ているという方が問題なのだ。

  テーブルから起き上がれば、白のフリルが嫌でも目に入ってくる。フリルがふんだんにあしらわれたドレスが、嫌でも俺の羞恥心を刺激する。

  ドレスだけではなく、穿いているパンツもだ。先ほどまで穿いていた現代の子ども用のパンツよりは多少マシかと思ったが、このドロワーズ、いわゆるかぼちゃパンツというやつもスカートから見えてしまいそうで、それはそれで落ち着かない。

  とどのつまり、気分は最悪だということだ。


「いつまで落ち込んでるんですか。……見られて恥ずかしかったのは私の方だと思うんですけど」


  クリスさんがなんか言っているけど無視する。こういう時は聞こえないふりとかするのかもしれないけど、そもそもこっちも被害者なので。

  それはそれとして、クリスさんのは……凄かった。元々騎士服の下から主張していたそれは、枷がなくなったことで爆発的な主張をしてみせる。E……いや、Fはあるに違いない。なにせ風呂に浮かぶのだ。見まい見まいと思っていても、あれは思わず見てしまうよね。

  フユは……胸よりもお腹の方がぽっこりしてた。いわゆるいか腹だった。


(失礼なこと考えてますよね?)


  久々にフユから念話が飛ぶがこれも無視。

  クリスさんの胸やフユのいか腹程度じゃ俺のこのやるせなさは収まらんのだ。

  俺がむすーっとしたまま突っ伏していると、カツカツと足音が聞こえてくる。顔を上げてみると、タイミングよく人が入って来た。ディーンさんとルーカスだった。


「やぁアキナちゃん。ドレス姿も似合うね」

「だっはははは!  似合ってるじゃねーか!  なんて言うの、『ゴブリンにもドレス』みたいな?  だっはははは!」


  飄々と褒めるディーンさんと、爆笑するルーカス。『馬子にも衣装』みたいなニュアンスのことを言ってるけど、きっとバカにされてるんだろう。褒められるのも嬉しくはないけど、バカにされるのもそれはそれで腹が立つ。いっそ殴ってやろうか。俺のステータスじゃ意味なさそうだけど。

  そう思っていたらすでに殴られたルーカスがそこにいた。ざまぁだ。


「さて、早速なんだが明日謁見を行うそうだ。謁見といってもそう仰々しいものじゃない。ちょっと王と会うだけだ」


  いや、ちょっと王と会うだけって……。それって相当おおごとなんじゃないだろうか。総理大臣に会うとかそう言う話だろ。気軽に言うもんじゃないよね。

  起き上がり緊張しているとクリスさんがポンと肩に手を乗せる。


「そのために、今日は特訓しますよ。陛下の前でボロが出ないようにしないといけませんしね」


  最悪だった。結構ガッチリと抑えられているので逃げられもしない。

  フユは笑い転げてこちらを見ているし、ディーンさんもほどほどにねと言って止めてくれそうにはない。ルーカスは気絶している。あんにゃろう。


「歩き方に言葉遣い、仕草やほんのちょっとした動き。直ぐにでも始めないと時間が足りないです」

「い、いやだっ」

「まぁ、嫌だとは思うんだけど、あんまり誰にも彼にも君が男だと教えるわけにもいかないと思うんだよね」


  ディーンさんは困り顔でそんなことを言う。

  俺、もしかして教えたのは間違っていたか?


「ああ、僕たちを信用してくれたのはありがたいんだけど、やっぱり普通は『異世界から来てしかも性別が変わりました!  元男です!』っていう女の子のことを信用はできないんだよ。今だからいうけど、クリスに君の面倒を見させていたのは監視の意味もあったしね」


  なるほど……ただ信用してくれていたわけじゃなくて、ちゃんと見極めた上で今こうしているのか。ゴブリンキングとの戦いに連れていかれたのも、フユの戦力を当てにしていたのもあるんだろうけど、俺が黒幕とかだったらその対処をしやすくするためという意味もあったのかもしれないな。なんかヘコむ。

  それも仕方がないかもしれない。俺が逆の立場だったら、俺のことを疑う気がする。

  けど、それと俺が女の子の動きをすることとは話が別だ!


「それはわかった……けど!」


  ディーンさんが話をしている間に緩んでいたクリスさんの手を振りほどき、俺は扉へと駆け出す。

  無論俺の足じゃあ騎士なんて戦いをするような人たち相手にあっさりと捕まってしまうだろうが、


「フユ!」

「はぁ……貸し1つでしゅよ」


  フユが指をパチンと鳴らすと、クリスさんとディーンさんの足が凍りついていく。

  声を掛けただけであっさりと魔法を使ってくれるフユには感謝だ。


「これは……!」

「おやおや、これは参ったね」

「へへっ、捕まえられるものならやってみろ!」


  勢いをつけてドアを開ける。これで俺は自由だ!  街に出てズボンとか男っぽい服を買って、逃げ出そう。王様と謁見なんて死んでもごめんだ。

  ドアを開けて再び駆け出そうとすると、ぽすん、と誰かにぶつかる。見上げると、燕尾服のお爺さんが立っていた。後から聞いたが、この家の執事のお爺さんだった。


「あ、あはは、どうかお構いなく……」

「……ドレスで走り出すのは、お転婆が過ぎますな」


  こうして、俺の脱出劇はあっさりと終わりを迎えたのだった。

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