「ごくり……じゃあ、あ、洗いますよ……?」
※TS色の強い回となります。本編には影響ありませんので苦手な方は読み飛ばしてください。
風呂場。身体や頭を洗い汚れを落とし、疲れをも癒していく憩いの場。
しかし、今の俺にとっては地獄でしかなかった。
クリスさんに抱きかかえられたまま脱衣所へと連れてこられ、もはや抵抗する暇もなく身につけていたものを全て脱がされ、タオルすら与えられずこうして風呂場に立っている。
風呂場は元の世界の風呂場とそこまで大きな違いはないように思えた。ただ、家が豪邸なだけに5、6人は入れそうなぐらいには広い風呂場であったけれど。
幸いなのは湯気が立っていることと、鏡がないことぐらいだろうか。この状況で自分の裸を見てしまおうものなら、色々な意味で自信やらプライドやらが無くなってしまいそうだ。身体がアキナちゃんのものになっているとはいえ、今まではその身体を直接見ることは避けていた。もちろんトイレなどどうにもできない部分はあったけれど、なるべく考えないようにし問題を先送りにしていた。
【浄化】の魔道具の存在も問題の先送りに一役買っていたと言える。あれがある間は風呂に入らなくてもある程度の清潔さを保っていられるからだ。もちろん風呂に入った方がサッパリはするのだろうけれど、今の自分の身体を見たくはなかったし、あきなちゃんの裸を見てしまうわけにもいかなかった。いくらアニメキャラとは言え、勝手に裸を見てしまうのはマズイだろう。
さらに言えばクリスさんも一緒に入ってくるというではないか。中身が男の俺としては嬉しいやら申し訳ないやら恥ずかしいやらで、今にもパニックになりそうだ。とにかく、何も見てしまわないようにギュッと目を瞑ることしかできない。
ガチャリと扉の開く音が聞こえ、後ろから声をかけられる。
「アキナちゃん、お待たせしました」
「ははは! はい! お構いなく!」
パニクって何を言ってるのか自分でもわかっていない。もうどうしていいかわからない。
すると、脳内に声が聞こえてくる。
『アキナさん、振り向いても大丈夫ですよ。クリスさんなら湯浴み着を着てますから』
「へっ……?」
アホみたいな声を出しながら目を開けてしまうと、目の前には白いワンピースのようなものを着たクリスさんが立っていた。ただ、普通のワンピースとは違い、腰元を紐でキュッと結んでいるので身体のラインがより強調されている。まさにぼんきゅっぼんだ。騎士服の下からでも主張されていた胸部は、その枷が解かれさらに強調されている。
一方のフユは子犬形態のままだった。まぁ人型になったところで、俺と同じ……いや、俺以上に子ども体型なのだけれど。
『アキナさんの前で裸を晒すわけないじゃないですか。仮初めの身体とはいえ私、女神ですし』
「その……やはり中身は男性の方ということで、一応その……裸を見られてしまうのはやはり恥ずかしいといいますか……」
なんかホッとしたような残念なような不思議な気持ちになる。
けれど、裸とは違いこれはこれでなんというか色っぽい。湯浴み着という事はそのスカートの下には何もつけていないわけで……。膝上のミニスカートから覗かせる生足は、騎士団という戦う仕事のおかげか程よく筋肉がついた、けれども決してガッチリというわけでもなくすらっと伸びた、カモシカのような美しい脚が内股でモジモジとさせている。
「あ、あまり見ないでください。これでも恥ずかしいんですよ……」
「あ、その、ごめんなさい!」
俺は慌ててクリスさんから目を背ける。けれども、背けたところで大して意味があるわけでもなく。
「ジロジロ見なければいいんですけど……というか、身体を洗いますのでこちらに来てください!」
そう言って俺の腕を掴み洗い場へと向かうクリスさん。
洗い場は現代のような蛇口があるわけではなく、かけ湯のようにお湯が溜められているだけだ。後から聞いた話では、シャワーのような魔道具もあるらしいが、まだ出来たばかりの高級品で流石にお持ちではないようだった。
俺は椅子に座らされそわそわとしていると、背中にタオルの感触が当てられる。予想はしていたけれど、女の子の肌が敏感なせいか、俺は変な声を上げてしまう。
「わひゃぅ!」
「い、痛かったですか?」
「い、いえ、なんでもないデス……」
変な声を出してしまったせいで、顔が真っ赤になってしまいまともにクリスさんの顔を見ることができない。
けれども、そうしている間に背中から肩、腕、腰と次々に洗われていき、そして。
「じゃあ、こっちを向いてもらえますか?」
クリスさんは俺に前を向くように言う。
前を向くと言う事はクリスさんの身体が目に映ってしまうわけで、それと同時に俺の裸の大事な部分も色々と見られてしまうと言うか触れられてしまうわけであって……。
「ごくり……じゃあ、あ、洗いますよ……?」
その後のことはあまり覚えていない。ただでさえ敏感な肌のさらに敏感な部分にタオルやらクリスさんの手やらが当たって、変な声をたくさん出してしまったような気がするが、覚えてないし思い出したくない。
それ以外は普通に気持ちが良かった。久々の湯船は身体に染み渡るようだった。
ただし、クリスさんの膝の上でなければもっとゆっくりとできたはずだ。
浴槽が深いから溺れてしまうとクリスさんは言うが、完全に座らない限りは湯に顔がつくこともないし、階段状になっている場所もあるのでそこに座ればいいだけだ。
だと言うのに、クリスさんは俺を抱いて離そうとしない。そのせいで後頭部に柔らかい凶器が当たっており、身体はともかく心が全然休まる気がしない。
しかし、それすらもまだ序の口だった。
この風呂場から出た後にさらに俺の精神を削る事態が起こることをこの時の俺はまだ知らず、後頭部に当たる柔らかさにただただ悶々とするだけだった。