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「わかった風呂には入る!  ……ルーカスさんと入る!」


「おおおおお……これはすげぇや」


  王都のメインストリートを走る馬車から、おれは顔を覗かせて景色を見ていた。本当は乗り出して見ていたのだけど、それはクリスさんにはしたないと止められてしまった。俺の行動には寛容だったディーンさんにも止められたので大人しく身を乗り出すのはやめておくことにする。

  王都の街並みはまさにファンタジーと言わんばかりだった。石畳みの道にレンガ造りの家々、街を歩く人々は鎧を着ていたりと明らかに現代日本じゃ見られない光景だった。この世界にいたいわけではないけれど、こういった光景を見るのは楽しいので仕方がない。

  そんなファンタジーな世界観の中に、あまり見慣れないものがあった。いや、現代社会ではよく見慣れたものなのだけれど、こういった世界観ではあまり見慣れないものがある。

  それは、4mほどの高さの円柱の上にランタンのような明かりのついた、いわゆる街灯のようなものがある。


「あれは、街灯?」

「ああ、街灯の魔道具だよ」

「魔道具?」

「ああ、前に魔法というのは昔の勇者にしか使えないという話をしただろう?  魔法は使えないけれど、魔法陣などを用いた魔術なら使うことができる。それを、より簡単に、より実用的に開発されたのがあれら魔道具なんだ」


  ディーンさんがそう言って色々と話をしてくれる。

  何かしらの道具に魔法陣や魔術式と呼ばれる文字列を書き込み、魔力を流して魔法にも似た効果を発揮させる道具。それが魔道具と呼ばれるものだ。昔は杖などを媒介にした攻撃用の道具としてのものしかなかったが、10年ほど前に即位した女王様が天才的な魔道具技師だったらしく、国民が豊かになるための魔道具を幾つも開発したそうだ。


「だから、我が国は魔道具の国とも呼ばれているんだよ」

「へぇー」


  そう話すディーンさんはどこか誇らしげだった。きっと、自国のこと、その女王様のことが誇りなのだろう。

  そんな魔道具のある街並みにワクワクしながら進んでいると、巨大な城……ではなく、なにやら豪邸の前へと止められる。


「さて、アキナちゃん降りますよ」

「えっと、ここはどこ?」

「私の家ですよ」


  どうやらクリスさんの家らしい。こういう時はすぐにお城で王様に報告するとかじゃないのだろうか。

  そんなことを考えていると、ルーカスさんも降りてやって来た。


「お前はその汚い格好で国王に会う気なのかよ」

「……?  汚いって、毎日【浄化】はかけてもらってたぞ?」


  【浄化】とは、その名の通り身体などを綺麗にする魔術のことだ。杖型の魔道具に術式が込められている物を騎士団の中で魔術を扱えるものが持っていたのだけど、クリスさんが魔法スキルを覚えたことで魔法の練習がわりに使っていたのだ。

  そんなクリスさんからの【浄化】の魔術を毎日受けていたので汚いということはないはずなんだけど。


「【浄化】は最低限汚さを落とすだけだから、風呂に入ったりするよりは汚いままなんだよ。いいからクリスに風呂に入れてもらってこいよ。今まで逃げてきたツケだろ」

「……は!?」


  俺はルーカスさんの発言に驚き、つい大声を出してしまう。

  クリスさんに風呂に入れてもらうということはクリスさんと風呂に入るということで、それはつまりクリスさんが裸になっているということであって……。

  いやいやいやそれはダメだろ!  今は身体が女の子になっているからといって、それで女性と一緒の風呂だなんてダメに決まってるだろ!


「いやいやいやいや!  1人で入れますし!」

「1人で入れるって……なんつーか、大丈夫なのか?」

「そうですね……ちょっと恥ずかしいですけれど、1度一緒に入って色々と教える必要がありそうですね。身体の洗い方とかもちょっとガサツそうですし、村での時だって本当は【浄化】だけでなくて身体を拭くぐらいはしたほうがいいのに全然聞いてくれませんでしたし」


  確かに、そんなことを言っていたような気がするし、フユは身体を拭いてもらって気持ちよさそうにしていた気がするけど……。

  でも裸なんて自分でも見るわけにはいかないし、【浄化】だけで充分なはずだ!

  俺は脱兎の勢いでその場を逃げ出そうとする。しかし、俺のステータスでこの場にいる人達から逃げられるはずもなく。


「どこへ行こうとしてるんですか……?」


  案の定あっさりと捕まった。振り返った瞬間にはすでに捕まっていた。

  逃げられないのはわかっていたけど、こんなに簡単に捕まらなくてもいいじゃないか。


「いい加減に観念してください。ここでグダグダとしている間にメイドが準備を済ませたようですし、もう行きますよ」


  視界の端で人が行き来していたのは見えていたけど、あれは使用人の人だったのか。そりゃあこんな豪邸だしそういう人はいるよな。

  それはそれとして、このお風呂イベント……どうにか逃げられないか……。あ!  そうだ!


「わかった風呂には入る!  ……ルーカスさんと入る!」

「はぁ!?」

「な、何を言ってるんですか!」


  この際自分の裸を見ることについては目を瞑ろう。実際トイレだってしてるんだし今更といえば今更だ。

  けれども、女性と一緒に風呂に入るのはダメだろう。いくら今の身体は女子小学生とはいえ1人で風呂ぐらい入れるし、付き添いだったら女性じゃなくてもいいはずだ。


「いいだろ!?  ルーカスさんは変なことだってしないよな!」

「やめろ!  俺を変なことに巻き込むんじゃねぇ!」

「ルーカス……あなたはこんな小さな子と一緒にお風呂に入る変態だったのですか……?」

「入らねぇよ!?」

「入ってくれないのかよ!?」

「お前は黙ってろ!」


  やいのやいのと騒ぐ俺たちに、ディーンさんが近づいてきた。きっと助け舟を出してくれるに違いない。


「クリス、私も一度自分の家に戻るよ。その後城に行って謁見の日取りを決めてくるから、また後で連絡する。それじゃあ」

「あ!  ディーン、待ってくれ!  俺もついていくぜ!」

「待て!  逃げるな!  ルーカスぅぅぅぅぅ!!」


  ディーンさんを追うように走るルーカス。そして、それを追いかけようとする俺……だったのだけど、俺はクリスさんに捕まったままで動けない。

  これ、完全に詰んでる。


「さ、お風呂に行きましょう?」

「……………………はい」


  いつの間にか反対の脇にフユも抱え、俺はクリスさんに風呂場へと連れられるのだった。

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