表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/64

「俺、中身は男だって言いましたよね……?」


  ゴブリンキングを倒した後、村へと戻ると騎士団の人や冒険者たちが忙しなく動いていた。なんでも、ある時からゴブリン達が急に逃げるように散ってしまい、他の村や町に影響が出ないように追撃戦を行なっているそうだ。

  アルフレッドさんを中心に数名の騎士団が残り村の復興や避難していた村人の護衛をするために残り、それ以外のディーンさんやクリスさんを含めた騎士団は王都へと戻ることなった。と言ってもすぐに王都に行くわけじゃなく、現場の引き継ぎなどもあるので出発は3日後ぐらいになると言うことだった。

  俺とフユも王都へと一緒に行くことになっている。元々この騒動が終わったら王都に行く予定にはなっていたし、何も知らないまま元の世界へと戻る手がかりを調べて回るよりは何か近づけるものがあるかもしれないと言う見立てだ。簡単に見つかるとは思えないけれど、それでも俺は元の世界に戻ることを諦めてはいないし、この身体のままでいいわけもない。少しでもヒントがあるなら、藁にもすがる思いで行くしかないのだ。

  王都へは騎士団の馬車で行くことになっている。馬車なんて物、乗るのはもちろん初めてなので最初こそワクワクがあったのだけど、見た目は小学生女子でも中身は男子大学生だ。ずっと、もう3日も同じような景色を見ているというのにも飽きてくるというものだ。しかもただ座っているのにも、木でできた椅子に現代社会のような柔らかいクッションなんて付いているはずもなく。


「尻が痛い……」


  馬車を引く道も舗装なんてされているわけはないので、砂利で馬車がガタガタ揺れて、それが尻にダイレクトに振動を与えるのだ。そんな中でゆっくりできるわけはない。


「ダメですよアキナちゃん。女の子が尻だなんて言っては」

「俺、中身は男だって言いましたよね……?」


  クリスさんを守護者にしてからというもの、ことあるごとに俺を淑女足らんと戒めてくるのである。もっとも、俺は淑女になんかなる気はさらさらないので、この問答ももう何回したかわからない。

  けれども、クリスさんは一歩も引く気はないようで。


「それは重々承知しています。しかし、今のあなたは女の子。ならば、それに相応しい所作や言動が求められるというものなのです!」


  ふんすと鼻息荒く力説するクリスさん。ディーンさんの方に目を向けるが、やれやれと肩をすくめるだけで手助けはしてくれない。フユに至っては子犬の姿で丸まって寝ているのだ。揺れは気にならないのかね。

  どうにも逃げられないようだったので、クリスさんに反論を試みる。


「いずれ元の世界に戻るんですし、必要ないですよ。言動だって、敬語で話せば十分でしょう?」

「いいえダメです!  それでは私の主として、勇者として相応しくありません!」

「勇者でもないんだってば……」


  何度も説明はしているが聞き入れることはなかった。

  勇者かどうかに付いてはこの世界の女神から、勇者の使命をなくすと明言されているので勇者ではないのだろう。初代の勇者になぞらえたような守護者を選べるスキルを手に入れているけれど、俺自身は弱いままなので勇者であるとは思えない。

  だから何度も否定しているのだけれど、クリスさんは受け入れてはくれないようだった。


「今が勇者でないなら、これから勇者として頑張ってもらいましょう!  打倒、魔王!  です!」


  何てことを言いだす始末である。もっとも、魔王にはそのうち会わないといけないんだろうなとは思う。あのクソ女神がハッキリと口にしたワードである以上、無視できない案件だ。

  まぁ、明らかにやばそうな魔王のことは置いておいて、先に勇者の伝説の方から調べよう。俺のスキルとも関係がありそうだしね。

  そしてスキルといえば……。


「ちゃんと話を聞いてるんですか!?  全く勇者としての自覚を……」


  クリスさんは守護者になってからというものこんな調子だ。まるで姉のように、ことあるごとに勇者としてや女の子らしくなどと俺のことを注意してくる。もっとも、勇者でもなければ女の子でもないので聞き入れることはないのだが。

  ガミガミと怒るクリスさんを尻目に俺は【鑑定】を使いクリスさんのステータスを見る。


ーーーーーーーー


  クリス・マスウェイル    ヒューマン

HP:38757/38757

力:70

防御:24454

魔力:15

素早:50


  スキル

・盾術  A     ・剣術  D

・炎魔法  B    ・無し


  称号

・盾の守護者


  Pt:37774


ーーーーーーーー


  ありえないほどに増えたHPと防御力を見るたびにため息が出そうになる。防御力を上げたことで身体に何か変化が起きるかとも思ったが、それは大丈夫だった。クリスさんは前以上に元気に説教をしているし、身体つきが変わったりすることもなかった。スラッとした身体が筋骨隆々としたらどうしようかと思った。

  余談だけど見た目とステータスは必ずしも一致するわけではないらしい。筋肉むきむきの男の方がモデル体型の女の人よりも力のステータスが低いことはざらにあるようだ。

  それから、守護者になった時にスキルも増えている。これはフユの時にも起きたことだ。もしかしたら、守護者になった際には何かしらのスキルが増えるのかもしれない。

  何が増えたのかといえば【炎魔法】だ。魔法のスキルは勇者しか持っていないとクリスさん自身が言っていたので、これは守護者になってから増えたものだろう。とはいえ、今はその魔力の低さのせいでマッチ代わりにしか使えないのだけど。

  クリスさんに怒られながらそんな風に思考を飛ばしていると、御者席からルーカスさんの声が聞こえてきた。


「そろそろ王都が見えてきましたよっと」

「本当!?」

「あ!  まだ途中ですよ!」


  クリスさんを無視して窓から顔を覗かせると、大きな大きな街が見えてきた。

  あの大きな街に何があるのか、元の世界に戻る手段は見つかるのか、色々な想いを募らせつつ、馬車は街へと進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ