「……さて、アキナちゃん。説明してもらえますか?」
魔法の嵐によって起きた砂埃が晴れていく。
上に覆いかぶさるルーカスさんを押しのけ、俺は起き上がり周りを見渡す。洞窟は完全に崩壊し、見渡す限り青空が広がっている。襲撃者の姿も見えない。俺たちが死んだと思いもうどこかへと行ってしまったようだ。
あの魔法の中で生き残れるだなんて思ってもいなかった。全滅はしなかった。
俺が生きているのも、庇ってくれたルーカスさんのおかげだ。動かないルーカスさんの前で目を閉じ手を組み、祈るように言葉を放つ。
「ルーカスさん……ありがとう」
「……それはようございましたよ……」
ルーカスさんも起き上がり返事を返してきた。なんだ生きていたのか。
「なんか辛辣な心の声が聞こえた気がしたんだけど、お前さんじゃないよね?」
「ソンナワケナイダロー」
あっはっはっは、なんて笑いあっていると、みんな起き上がってきた。
フユなんか、ディーンさんに向かって「いつまで抱きついてるんでしゅか!」なんてゲシゲシと蹴りつけている。元気一杯だった。
クリスさんも起き上がってこっちにやってきた。騎士服は汚れてしまっているが、身体には傷はないようだった。
「皆さんご無事でなによりです。……さて、アキナちゃん。説明してもらえますか?」
「えぇと、その、……はい」
俺はクリスさんの迫力に押されポツポツと話し始める。
あの一瞬の中で、俺はクリスさんに【鑑定】を使った。絶体絶命の危機に、思わず発動してしまった形だ。
その時に見たクリスさんのステータスはこうだった。
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クリス・マスウェイル ヒューマン
HP:850/900
力:70
防御:85
魔力:15
素早:50
スキル
・盾術 B ・剣術 D
・無し ・無し
称号
・無し
守護者に設定しますか? YES/NO
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そして、今現在のクリスさんのステータスがこうである。
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クリス・マスウェイル ヒューマン
HP:38282/38757
力:70
防御:24454
魔力:15
素早:50
スキル
・盾術 A ・剣術 D
・炎魔法 B ・無し
称号
・盾の守護者
Pt:37774
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うん、正直やりすぎたと思う。
全員が死ぬかもしれない中でたまたま見えた『守護者にしますか?』の文字に、俺は迷うことなくクリスさんを守護者へと任命した。そして、そのまま【守護者の主】のスキルでHPと防御力を適当に上げた。その後はルーカスさんが視界を塞いでしまいよくわからなかったが、クリスさんが魔法を全て塞ぎきり、けれども洞窟は魔法の威力で崩落に耐えきれず、この惨状だったというわけだ。
こんなに極端にするつもりはなかったのだけれど、極限の状態でステータスの操作をしたものだからこんなことになってしまった。
クリスさんに怪我が一切ないのは、上がりに上がった防御力によるものだ。HPも上がったことで、本来なら死ぬはずのダメージを負っているはずなんだけど、かすり傷にすらなっていなかった。1割も減ってないしね……。
「あの……やっぱり怒ってます……よね……?」
俺はクリスさんの様子を伺いながら、恐る恐る尋ねてみる。
クリスさんはと言えば、座ったまま目を瞑り俺の話した内容を吟味しているようだった。ディーンさんとルーカスさんもどうしたものかと頭を捻らせている。
「……まぁ、私の承諾が得られていないのにこんな本当に化け物みたいなステータスにされたのは、うん、本当に、ほんっとーに困るんですけれど、ああしないと多分全員死んでいましたからね。逆にありがとうございますと言うべきなのでしょう」
「いや! フユはまだしも、クリスさんの人生を狂わせてしまったみたいなものですし、俺、ちゃんと責任とります!」
フユが後ろで憤慨しているが、ディーンさんにどうどうと宥められ、結果的に余計にフユが怒っているのは放っておくとして。
しでかしてしまったことには責任は取らなくてはいけないと思う。どうすればいいかはわからないけれど……。
「じゃあ、騎士団辞めてアキナちゃんについて行きます」
「く、クリス。それはここじゃ決められないよ。仮にも副団長なんだし」
クリスさんが立ち上がり歩き始めようとするのを、ディーンさんが慌てて止めようとする。
けれど、クリスさんは止まりそうにない。
「じゃあ、王都に戻ってその旨を伝えましょう? どうせ王都には戻るのだし」
「あ、ちょっと待って」
そう言ってクリスさんは村に戻って歩き始めてしまった。ディーンさんも慌ててついていく。
どうしたものかと迷っていると、フッと身体が宙に浮く感覚に襲われる。また誘拐ルックでルーカスさんに抱えられていた。
「とりあえず村の方が心配だから急がねぇとな。つーわけでこのままいくぞ」
「えぇー……」
「やな顔すんなってーの」
こうして、ゴブリンの異常発生騒ぎは一応の終結を迎えたのだった。