「……勝った?」
「……勝った?」
「どうやら、そうみたいだな」
距離をとっていた俺たちの方にまでズシンと、ゴブリンキングの倒れる音が響いてくる。
ルーカスさんに頼み、クリスさんの側に行ってもらう。ルーカスさんは周囲の警戒を行いつつ、移動を開始する。
近くに寄ってみると、ディーンさんがゴブリンキングを剣で抉っている。完全にオーバーキルだ。
「ディーンさん、何もそこまで」
「ああ、違う違う。あれは魔石を取ろうとしてるんだ」
「魔石?」
魔石とは、魔物の体内から取れる魔力のエネルギーの塊らしい。この世界の人々は、これを使って魔術を使ったり、魔道具と呼ばれる道具を使って生活をしているそうだ。
特にヒューマン……人間や獣人はこの魔石を介さないと魔術を使うことができず、魔石がなくても魔術や魔法を使えるのは魔獣や魔物、魔族しかいない。だからこそ、フユが魔法を使った時クリスさんが非常に驚いていたのだ。
「やっと取れた。予想通り大分大きいのが出て来たよ」
魔石を取り終えたディーンさんが戻ってくる。魔石の他に、ゴブリンキングの角も取って来たらしい。
「魔石だけでも十分かと思ったけど、討伐証明も一応ね。後はこれの死体だけど……フユちゃん、凍らせることは出来ないだろうか」
「大丈夫でしゅよ」
フユは答えると同時に、ゴブリンキングの死体を凍らせていく。全部凍りきるまでにそう時間はかからなかった。
本来であれば必要のない部位は燃やしたり埋めたりして片付ける。そうしないと、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔獣や魔物が寄ってくるからだ。けれども、今は村で防戦をしている騎士や冒険者が心配だから、凍らせてこれ以上魔物が寄ってこないようにしたのだろう。
「さて、疲れてるだろうけど急いで戻ろう。アルフレッドたちが心配だ」
「その前に、奥も少し調査しませんか? 今回の事件の手がかりがあるかもしれませんし」
ディーンさんはそう言って洞窟の出口へと向かおうとする。それを、クリスさんが奥の調査もしたほうがいいと提案して遮ってしまう。ルーカスさんも先に少し調査はしておいたほうがいいと言い、全員で少し見て回ることとなった。
「ところで、いつになったら降ろしてくれるの」
「はい? あぁ、もういいか。悪かったなお嬢ちゃん」
「嬢ちゃんはやめろっての」
ルーカスさんから降ろしてもらい、地に足をつける。数時間とはいえ怒涛の展開の中だったので随分と久しぶりに足をつけた気分になる。自分で歩くのがこんなに素晴らしいなんて思わなかったね。
洞窟の奥をうろうろとしてみる。一般人の俺に何ができるわけでもないと思うけど、一般人だからこそ何か見つけられるかも。なんて前向きに考えながら何かないか探してみる。
「なんて、そんな上手くいくわけないよな」
「何のことかわからないでしゅが、アキナしゃんが何か見つけるなんて誰も思ってないでしゅよ」
「うるせぇやい」
うろうろと歩く俺の横から、フユのツッコミが聞こえてくる。言われなくてもわかってることを言われるとちょっとイラッとしてしまう。
そんな中、洞窟の本当の1番奥。そこで何かが光っているように見える。気になったのでそこまで行ってみると、何やらカードのような物が見つかった。タロットカードのような長方形のカードに、魔法使いが使うような杖が鎖で封印されているような。そんな絵柄のカードだ。
「おーい、なんか見つけたんですけどー!」
俺は見つけたカードをみんなに見せるべく、大声を出す。反響して聞こえる俺のソプラノの高い声が少し恥ずかしい。
散り散りに探索をしていたみんなが集まってくる。そして俺が見つけたカードをマジマジと見ていた。
「これは……魔道具? それにしては魔力も何も感じないけれど」
「杖は杖の守護者リィーン様の使っていたとされる杖に似ていますけど……勇者伝説のファンの人が作ったのでしょうか」
結局はよくわからないということで、俺のポシェットの中に入れておくことになった。俺が預かっていていいのかと聞いたら、発見した人が持っていたほうがいいとルーカスさんに言われたのでそうすることにする。
そして全員で洞窟から出ようとしたその時だった。
出口の方から、ローブを深くかぶった人影が現れる。これまでに出会ったことのない人……だと思う。ローブを深くかぶったせいで顔はよく見えず、その手には杖を持っているのがかろうじて見える程度だ。
その人影が、杖をこちらに向ける。
フユが咄嗟に氷の盾を出す。それに合わせてクリスさんが前へと出る。ルーカスさんは俺をかばうように覆いかぶさり、ディーンさんもフユに覆いかぶさった。
ほんの一瞬、人影のフードが取れる。紫の長髪が綺麗な女性だったように思う。
けれど、注目するべきはそこではなく。
「【神の怒り】」
杖から強大な魔力の塊が放たれる。炎や氷のような現象ではなく、ただのエネルギーの塊。爆弾が爆発した衝撃が、全体ではなく一直線にこちらに向かってくるかのような衝撃。
フユが創った氷の盾を使いクリスさんが受け止める。
「くううううううう!!」
「クリスさん!!」
今はどうにかなっているが、氷の盾にはヒビが入っている。もう数分と持たないだろうことは明白だ。
逃げようにも、魔力の奔流が盾の周りを渦巻いているため逃げようがない。
もはや絶体絶命のピンチだった。