表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/64

「クリスさんってあんなことできるんだ……」


  ディーンさんとゴブリンキングが対峙する。

  ディーンさんは油断も隙もなく剣を下段に構え、ゴブリンキングは2メートルはあるんじゃないかと思う棍棒を肩に担いでいる。さっきまでは座っていたのでその姿がよく見えなかったが、あれだけ大きく感じたディーンさんがまるで子どもかと思うぐらいに巨大な身体をしている。

  そんなディーンさんの後方で、クリスさんが油断なく盾を構え、ルーカスさんがいつでも駆け出せるような態勢を取っている。

  俺は戦いのことなんか何1つわからないけれど、緊張感が走る。


ーーGYAAAAAAAAAAAAAA!!!


  ゴブリンキングが再び咆哮する。またスキル【下位統率】、他のゴブリンを呼ぶスキルを使ったのだろうか。それだとすると、フユが心配だ。


「あの犬耳の嬢ちゃんなら心配いらねぇよ。ありゃあ俺よりも手練れだ」


  俺の考えていることがわかったのか、ルーカスさんがそんなことを言う。ただ、そう言われても心配なものは心配でしかなかった。


「それより、今は自分の心配をしてな。ディーンの奴は1人で大丈夫だと言っていたが、さすがにあれはキツイだろうから俺も少しサポートに入る。クリスも同じこと考えてるだろうさ」


  いつになく真面目なトーンで言うルーカスさん。

  そんな時、ディーンさんが動いた。ゴブリンキングに負けず劣らずに叫びながら、手に持つ剣を下から上へ振り上げる。

  ゴブリンキングの胴に傷が付くが、あまりダメージが入っているようには見えない。

  反撃だと言わんばかりに、ゴブリンキングが棍棒を振り下ろす。

  その動きを見るや否や、ディーンさんが後ろに下がりクリスさんが前へと出る。手に持った盾を上に持ち上げ、棍棒を受け止めてしまう。


「クリスさんってあんなことできるんだ……」

「あいつの持つ【盾術】のスキルのおかげでもあるな。盾を使った攻撃や防御が強くなるんだ」


  武器の名前のついたスキルはそういう効果があるのか。

  俺と話しながらも、ルーカスさんはナイフを投げてゴブリンキングを牽制する。目や足の腱を狙うあたり、狡猾と言うのか。


「なんか失礼なこと考えてるだろ」


  ルーカスさんのツッコミが入るが、俺はぷひゅーとならない口笛をならして誤魔化す。元の身体なら口笛も吹けたのに、今はできなくなっているようだ。

  クリスさんが棍棒を弾き返すと同時に、ディーンさんとクリスさんが入れ替わる。入れ替わると同時に、ディーンさんが剣撃のラッシュを浴びせる。しかし、決定打にはならないようだ。

  しばらくの間、同じような攻防が続く。ゲーム的に言うなら完全にパターンに入ったと言う奴だ。けれども、これはゲームじゃなくて現実に起きていることだ。だから誰も油断していないし、油断をしたらあっさりと死んでしまうんだろう。

  俺はルーカスさんに担がれて少し離れて見ているだけだけど、それでも、何か不測の事態が起きたら死んでしまうかもしれないと考えると、手が震えてきてしまう。


「怖いか。まぁ、いきなりこんな場面に出くわしたら怖ぇよな」


  ルーカスさんはナイフを投げながら言う。俺は何も言えず、俯くことしかできない。


「まぁ、怯えるななんて言わねぇけどな。けど、あいつらのことは信用してもいいぜ。そろそろ……終わる頃だからな」


  そう言うとルーカスさんはゴブリンキングから距離をとった。

  棍棒を受け止めていたクリスさんがそれをはじき返し、ディーンさんと共にゴブリンキングから離れる。

  すると、ゴブリンキングが何かを溜めるような動きを見せ始めた。

  あれは、もしかして……。


「気をつけて!  炎魔法がくる!」


  俺は力の限り叫んだ。

  声が届いたのか、ディーンさんが振り返りフッと微笑んで見せた。

  ゴブリンキングの口から、ごうっ!  と炎の塊が放たれる。なんか思ってたのと違うが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

  クリスさんが盾を構えるが、炎塊は盾よりも大きくこのままではディーンさん諸共飲み込まれてしまう。


「逃げてっっ!!」


  俺は必死に叫ぶがその声は届きそうにない。

  もうダメだと思ったその時だった。

  俺の横を、フッと風が通る。透き通った水色が見えた気がした。


「【氷盾】……っと。ギリギリ間に合いしたか」


  クリスさんとディーンさんの前に、突如巨大な氷の盾が現れる。薄氷のように薄く透明な盾なのに、あの巨大な炎塊を受け止めてもビクともせずにクリスさんたちとゴブリンキングの間に佇んでいる。

  そしてその上に、犬耳の幼女の姿がある。透き通る水色の髪を靡かせて、ゴブリンキングに狙いを定めている。


「あぁ、助かったぜフユちゃん」

「ありがとうございます」

「まったく、私が戻ってこなかったらどうするつもりだったんでしゅか」


  フユは愚痴を言いながらも、ゴブリンキングから決して目を離さない。全く油断も隙もなかった。

  ゴブリンキングの方も突然現れた巨大な盾に固まってしまっていたが、自分の攻撃を防がれたということにようやく気がつき、激昂して襲いかかってくる。

  狂ったように棍棒が振り下ろされる。氷の盾はそれを受け、呆気なく砕かれてしまう。


「やっぱ魔法で創った盾じゃ物理には弱いでしゅねぇ」

「受けます!  退避を!」


  それからはさっきの焼き増しだった。

  クリスさんが受け止め、その隙をついてディーンさんとフユが攻撃する。炎魔法が来たらフユが氷の盾を創る。

  その繰り返しで、ゴブリンキングは倒されてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ