「あはははは! ゴブリンなんて雑魚、相手にならないでしゅねぇ!」
「ふふふふふ! ひしゃしぶりに暴れるのはなかなか楽しいでしゅよ!」
「……凄いですねフユちゃん……」
「……うん、俺もびっくりだよ……」
人型の姿になったフユがちょっと身体の調子を確かめたいというので、村を少し離れた森の中へとやって来た。人型になったといって犬の姿が所々に残っており、見てわかるところには耳や尻尾がそうだけれど、地味に犬歯が鋭く生えていて、そのせいなのかサ行がうまく発音できなくなっている。舌ったらずなことを指摘すると怒るので、弄るのはやめておいてある。
俺とフユだけでは何があるかわからないので、クリスさんとルーカスさんも一緒に来ている。ディーンさんは他の団員たちと打ち合わせがあるのでこの場には来ていない。
森の中には、隠れてはいるがゴブリンがたくさんいた。最初は気持ち悪かったのだけれど、何回も現れると気持ち悪さよりも先にうんざりとした気持ちになってくる。
ゴブリンが現れるたびに、俺の前を歩くクリスさんが戦鬪態勢をとるのだけど、すぐに解いてしまう。なぜかといえば。
「あはははは! ゴブリンなんて雑魚、相手にならないでしゅねぇ!」
まさかのフユ無双が始まっていた。
あの後のフユのステータスはこう変化している。
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フユ 魔獣
HP:800/800
力:320
防御:45
魔力:320
素早:560
スキル
・氷魔法 EX ・変化 A
・弓術 A ・無し
称号
・弓の守護者
Pt:99000
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ステータスこそ変わらなかったが、スキル欄に【変化】と【弓術】が追加されていた。
【変化】はそのまま、子犬の姿から幼女の姿に変化するスキルだろう。
【弓術】もそのまま、弓矢を使えるスキルのことなんだろうけれど、果たしてフユに弓矢なんて使えるのだろうか。
「凄いけど……」
「ええ……弓師の動きではないですね……」
フユは俺たちよりも先行し木の枝から枝へと移り渡り、どこからともなく矢をゴブリンの頭へと突き立てていた。さすがに頭に刺さってしまえば一撃で死んでまう様で、フユは次々にゴブリンを始末していった。
フユがこんなに素早く動けるのには秘密がある。
フユのステータスの1番下にPtという項目が増えていたのだが、これはどうやら、そのPtをステータスに自由に振り分けることができるらしい。フユ曰く、そんなことは普通できないということなので、考えられるのは俺の最後のスキル、【守護者の主】の力なのだろう。
10万Ptもあるので、こっそりと500Ptほど素早さに、力と魔力に250Ptずつ振り分けて見たら、この惨状が生まれてしまった。
「ふはははは! ゴブリンなんて敵じゃないでしゅよ!」
どこからともなくフユの高笑いが聞こえてくる。森の中なので若干反響してうるさい。というかあれはもう女神とかじゃなくてターザンの仲間なんじゃないだろうか。そんなことを考えていると、足元に氷でできた矢が突き刺さる。余計なことを考えるのはやめておこう……。
「私もゴブリンくらいならそこまで苦戦しませんが、これはもう別格ですね……」
クリスさんが遠い目をしてこの惨状を見ていた。もう、盾を構えることすらしていない。
ルーカスさんに至っては、無言でゴブリンの解体だけをしていた。1体解体するたびに2、3体増えていくのでそれはもう果てしない数になっている。
ようやく満足したのか、ツヤツヤの笑顔でフユが戻って来た。手にはどこから手に入れたのか綺麗な弓がある。まるで宝石の様に透き通った水色の弓だ。フユの髪色とマッチしてとても似合っている。
「フユ、その弓どうしたんだ? 騎士団の人にでも借りたのか?」
「あぁ、これは魔法で生み出してるんでしゅよ」
「魔法!?」
魔法という単語にクリスさんが驚く。ゴブリンとか騎士団とか、今まで散々ファンタジーな世界だったのに、魔法だなんて今更なんじゃないかと思うけど。
「魔法だなんて、魔族や魔獣しか使えないはず……。それ以外で魔法を使っていたのは初代勇者だけのはずなのに……」
うん? 魔法と魔術って何が違うんだ? どっちも同じものだと思うんだけど。
違いがわからず首をひねっていると、フユが話し始める。
「なるほど、この世界の人は魔術しか使えないんでしゅね。弓だけでもどこかで用意しないとまじゅいでしゅかねぇ」
「いやいや、矢も用意してくださいよ……目立ちたくないんだったらそうしてくだせぇよ」
ルーカスさんがため息を吐きながらそう言った。なぜか敬語になっている。
よくはわからないが、フユのスキルも相当なレアスキルらしい。目立たないためにも、使用は控えたほうがいいのだろう。
「今は氷魔法しか使えないでしゅが、氷なら物の形を模すのには最適でしゅね。これだけでも使えてよかったでしゅよ」
「ただ、目立つから後で弓を借りないとな」
「騎士団には弓を持ってる人はいないから、しばらくはそのスタイルで戦ってくださいね」
「わかってましゅ」
……そう思ったけれど、どうやらしばらくはこれで乗り切らなくてはいけない様だ。あれ、なんかナチュラルに戦闘に巻き込まれている気がする。
「もしかして、フユも騎士団に協力するの?」
「手伝える限りは手伝ったほうが、早く行動できると思いましぇんか?」
確かにそうかもしれない。せっかくフユが戦える様になったんだから、協力してこの異常を解決して、さっさと手がかりを探しにいったほうがいいだろう。後、ただ飯ぐらいなことに肩身も狭くなるしね。
そうなるとテントで留守番か……。いや、誰もいなくなってしまうとちょっと不安になってしまうな。フユに残ってもらったほうが心強いけど、それじゃあ本末転倒だし。
「なんか色々考えてるところ悪いんでしゅけど、戦いに行くときはアキナしゃんも一緒に来てもらいましゅよ?」
「……へ?」