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魔王の福音  作者: 天津鴨居
3/15

剣と女1


 軽く仮眠を取り、最低限の防衛要員を基地に残して、夜明け前に人間の基地を目指して進軍する。


 休戦日はもうとっくに終わっている。


 ノートが引き連れし夜闇の中、音も立てずに走る。


 雪を固め、


 地を蹴り、


 樹々の隙間を縫い、


 風を纏って駆ける。


 我らの黒い毛並みが夜に溶ける。


 夜は我らの世界だ。


 夜目の利く我らにとって、闇は障害と成り得ない。


 そう!


 ここに!


 こここそに我らが神がいる!


 見よ。


 頭上に輝くマーニ()を。


 同じ名を持つ哀れな巨人の駆る馬車に曳かれて、天を横切るあの月を。


 その背中に齧りつかんとするこの闇こそが我らが神だ。


 我らは、今、神と共にあるのだ!


「ウゥオオオォォォオオオ────!!」


 声を上げて合図をし、基地へと攻め入る。


「「「ウオオオオオオオオオオオォォォ────!!!」」」


 すでに基地を包囲していた仲間たちも、叫びながら決められた場所へと攻撃を仕掛ける。


 我らは暗殺者ではない。


 人間に思い出させるのだ。


 我ら巨人に対する恐怖を。


 正面から蹴散らしてやる。


 篝火を蹴倒し、地面に炎を広げる。


「なんだ!? なにご──ぐはっ」


 慌てて起き出してきた兵士を斬り捨てる。


「おのれ魔族め!」


 見張り番だったのかきちんと武装した兵士の剣を避け、足を蹴り飛ばす。


「ぎゃっ!?」


 ボキリと、鈍い音を立てながら吹き飛んでいく兵士を尻目に、剣だけを装備した兵士へと走り寄り、爪で喉を切り裂く。


 ヒュッ────


 この闇の中で誰が射ったか、矢が飛んできた。

 同士討ち覚悟か、よほど腕に自信があるのか。


 背後から放たれた矢を躱して、近くにいた兵士の首を掴み、射手がいる方向へ投げ飛ばす。


「ぐえっ!」「うわあっ!」


 2人分の悲鳴を聞きながら、さらに兵士を斬る。


 相変わらず、物足りないものだ。


 斬り、


 切り、


 時に殴り潰し、


 切って斬って斬って斬って斬る。


 三十人ほど殺して、広がった炎で辺りがずいぶん明るくなった頃に、それは現れた。


「なんだこいつは!?」

「やめろ! 近づくな!」

「グアアアア!」


 今の悲鳴は人間のものではない。

 仲間のものだ。


「なんだ?」


 まさか、という思いがよぎる。

 その思いのままに仲間の元へと走る。


「族長おお! 族長殿おお!」

「とんでもない奴らがいます!」


 駆け付けたその先には仲間が五名いた。


 そして四名になった。


「なっ!?」


 信じられないものを見た。

 我らの頑強な躯が剣で一刀両断される。


 斃れる仲間の陰から何かが走る。


 炎が割れる。


 薄い赤色が闇と炎の間を走り、次々と仲間を斬り裂いていく。


「ぬううっ」


 慌てて走るが、ここからでは間に合わない。


 四を零にした薄い赤色は、そのまま真っ直ぐに俺の方へと走ってくる。


 疾い。


 我らと同じくらいの速度は出ているだろう。

 つまり、我らより素早いという事だ。


 だが力なら負けはしない。


 敵の振る剣に、俺も剣を合わせるように振る。


 鍔迫り合いに持ち込み、そのまま押し倒してとどめを刺してやる。


 だが、剣は触れ、そのまますり抜けた。


「なにっ!?」


 すり抜けた敵の剣がそのまま勢いを殺さず、俺の胴体へと迫る。


「ちいっ!」


 咄嗟に身をよじって躱すが、軽くひきつるような痛みが走った。


 だが、この程度なら問題ない。


 走った勢いのまま距離を取り、振り返る。

 俺の剣は半ばで折れて────いや、切り口を見ると切断されていた。


 敵も少し離れたところで立ち止まり、俺の方を見た後、不思議そうに手にした長剣へと視線を落とした。


 そこでようやく、敵の姿をはっきりと捉えた。


「お前、川にいた女か」

「あなたは! ・・・・・・そう。あなたが魔族の大将でしたか」


 女が俺を見据える。


 川にいた時のような、村娘の服ではなく、今は金属の鎧を着こんでいる。


 その目は昼間と違い、蛇のようだった。


「その目・・・・・・。そうか。お前が勇者か」


 伝承の通りだ。


 女は答えなかった。

 ただその長剣を構えた。


 あれが魔剣グラムか。

 その剣は全てを斬り裂くという。


 背後に気配を感じた。


 視界の端で見ると、他の兵士と違って鎧に毛皮のようなものを付けた、大柄な男たちが炎を踏み越えて姿を現していた。


 その目は血走り、顔色は悪く、息が不自然に荒い。


 異様な魔力を感じる。


「ベルセルクルか」


 だがこちらにも仲間がいる。


「族長!」

「ご無事ですか!?」


 悲鳴を聞きつけた仲間たちが駆けつけてくる。


「この女には絶対に手を出すな! 勇者だ! 俺が相手をする!」


 大声で伝える。

 仲間に動揺が走るのが見ずともわかる。

 まさか本当にもう合流していたとは。

 予想以上、いや、予想外の速さだ。


「そいつらは恐らくベルセルクルだ! 無理に相手をする必要はない! 数名で引き付け、残りは撤退させろ!もう十分だ!」


 思考が停止する前に指示を出し、女──いや、勇者へと斬りかかる。


 仲間たちもそれに続いて動き出す。


「撤退だ! 退くぞ!」

「こいつらを自由にさせるな! 複数で当たれ!」


 勇者も走り寄り、剣を振ってくる。


 まともに打ち合えば勝ち目はない。

 そもそも打ち合うことが不可能なのだ。


 俺は剣の振る軌道を無理やり変え、勇者の剣の腹を叩くようにした。


 ガン!


 甲高い音とともに、剣が弾かれる。


 どうやら力もかなりあるようだ。


 さすがに我らほどではないが、それでも並の人間よりは遥かに上だろう。

 体ごと回すようにして、さらに剣を打ち付ける。


 ガン!


 ガン!


 キン!


 ガン!


 キン!


 しかしそれでも何度かは軌道を読まれ、まともに打ち合ってしまう。仕方はない。別に俺は剣の道に優れているわけではないのだ。


 斬り合うたびに短くなってしまった剣を放り捨て、無手で構える。

 斬り合いながら、かなり離れたところまで来てしまった。


 森の入り口に近い。


 喧騒が、少し遠い。


 炎に照らされた勇者の顔は、ひたすらに不思議そうだった。


「あなたは、強い」


 勇者が静かに口を開く。


「だが今はこれだけだ。これ以上、俺はもう本気では戦わんぞ」


 仲間たちもほとんど撤退しただろう。俺もいつまでも勇者と戦っている余裕はない。


 欲を言えば、もちろんここで勇者は仕留めておきたい。

 だが負けるとは思わないが、勝てるとも思えない。


 そして、負けはしないが、死ぬかもしれない。


 なにしろ伝説の魔剣グラムだ。

 なにがあるかわからない。


「追って来るならば来るがいい。一人になるだろうがな。そのときは我らが全霊で相手をしよう」


 蛇のような目を見つめたまま後ろに下がり、森へと紛れる。


 勇者は追ってこなかった。


「初めてだな」


 剣を通して、あれだけ人間と顔を合わせたのは。



 そしておそらく、二度同じ人間と会うのも。


戦闘シーンでした。

勇者戦以外では、一方的な戦闘になります。


ブックマーク、評価をしてくれた方、ありがとうございます!

ご期待に沿えるよう、努力していきたいと思います。


なんか嘘くさくなってしまった。


次回更新は本日の20時です。

昨日とは時刻が違いますのでご注意ください。

夜の8時です。

ではでは。

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