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4話 さようならと、埋めた彼等は

リアンは傷付き倒れた人たちを……。

 何とか回復が間に合い死なせずに済んだ訳だが、顔を見られる訳にも行かないのでフードを深くかぶる。

 流石にこの場に放置して、またこのゴブリンが出て来ては助けた意味が無いので、試しに取った範囲系の《傀儡》の術を使い、死んだゴブリンで運ぼうとしたら、意識の無い兵士達と町人に犬まで動き出したので、ゴブリンは放置し兵士達に隊を組ませ、遠目に見れば整列して見えるように動かす。

 自分でやって置いてなんだが、出来の悪いカートゥーンを実写で見ているかのようなぎこちなさだった。

 友人のサポートに使えると思い取っていたが、結局全然使わなかった術なので、今一使い方が難しい。


 犬の動きなんて俺は良く知らんし……、だいたいゲーム内だと《傀儡》の術は、直後に死んだ敵を一分間の間動かし同士討ち(?)させる術で、本来なら死人じゃない兵士達には効果が無い筈だけど、意識が無いせいかどちらにも掛かったのだ。

 このまま門まで歩かせ……は流石に不自然過ぎるか? と言っても今更だし運ぶのは面倒なので歩かせる事にした。


 俺は先行して様子を探りに来たが、門の前居た筈の兵士達は一切見当たらず、誰も居ないのが分かったので、これは好都合とばかりに術に掛かったままの全員をこちらへ誘導した訳だけど、見張りが一人も居ないのは不自然に感じる。


 結局誰も現れる事も無かったので、五分以上かかったが門の近くまで歩かせた兵士達を並ばせた後、掛かっていた術を切り全員が倒れた所で、突然街の大門の扉がゴゴゴゴっと音を辺りに響かせ開くと、そこには完全装備の兵士が二十名程整列したまま飛び出してきて、気絶した兵士達と鉢合わせることになった。


 門の前で倒れ伏している仲間の姿を見て、慌てて駆け寄ろうとした者が一人のマントをした一際体格がデカく、装備も良さそうな男にがっしりと掴まれ後ろに投げ飛ばされる。


「ムアゥファク ラウォンタ! クラァーカイ!」


「ラァーイ タグムァウ!」


「ラー!!」


 その男が叫ぶと、周りの兵士が呼応する様に前後左右に広がり盾と槍を構え、最前列に居た五名が門の外へ踏み出した。

 更にその両脇を五名が堅め、残りの五名が倒れていた兵士六名と町人に犬の容態を確かめつつ門の中へと運び入れる。


 うん、さっきのゴブリンと対峙していた兵士とは動きが違うので、逃げ戻った奴らが説明し、あの短時間でこの人数を纏め出て来たに違いない。

 この街の防衛能力は結構高いのかもしれないと改めて思うが、全部の兵士がそこまで能力や士気が高いかと言われると、それも違う気がするので異邦人の身としては、ほどほどの方が有難いと帰結する。

 何かあって逃げ出すとき、手加減で済む方が良いしね。


 まあ、良い事をした(?)ので寝床に帰ろうと思って移動し、看板を立てていた俺の野営地へ着いたところで、前方の茂みがガサガサと音を立る。

 訝しげにその草むらを凝視していると、先程も見たゴブリン達が一斉に現れた。


 一瞬身を硬め杖を構えたのだが、一向にそれ以上動かないゴブリンを見てやっと気が付いた。目の前に現れたこいつらは、先程俺が石で倒したゴブリン十五匹で《地脈活性》の範囲に居た為に体は修復されているが、魂魄が既に抜けているので《傀儡》の術で動いているとは言え、単なる血肉の整った人形でしかない。


 ふーっと息を吐いて緊張を解くが、さてどうしよう?

 元々こいつらは、畑の作物を奪う目的で来ていた訳だし、元居た住処へ戻し同じゴブリン同士で戦わせても……あ、ダメだ。

 俺ってよく考えたら、ゴブリンの住処の位置なんて全然知らなかったっけ。

 ゲームなら適当にフィールド歩いていれば、開けた場所とか洞窟や廃墟なんかに巣食っていたりしたけど、今ここから下手に動くと迷子確定だからな……。

 折角人の住む場所を見つけたんだし、離れるのは避けたいところだ。


 よくよく考えれば、元手無しで働かせられる労働力とも取れるけど命令したことを延々と続けるだけだし……ん~いっその事川の近くに小屋でも立てるか。

 と言う訳で、外壁の近くじゃ見られでもしたら不味いので、ゴブリンを引き連れ川から少し離れた森側に、小屋を建てる事に急遽決定。

 ゴブリンには、河原にゴロゴロしている石を拾い制作用ハンマーで『加工』した石斧を作り、それを装備させ森の奥の方から木を調達させて、届いた傍からどんどん『建材』へと変えて行く。


 流れ作業的に出来るが、道が全く整備されてないので木を切り倒すよりも運ぶ方に手間がかかり、結構余計な時間を食っている。

 いっそ、道の整備でもさせ……いやいや態々そんなことする必要も無い。

 考えるまでも無く時間が掛かり過ぎる上に、道なんて作ればこんな場所でも目立つこと間違いなしだ。


 時間に拘っても、木を建材へと加工するのは物の数秒で出来てしまうので(自動作成)、調達班を十匹、残り五匹は土地を均す作業をさせ、俺はそこそこの大きさの石を拾い集め、小屋の基礎とするための建材に加工していく。

 ある程度の反復作業は効率化できるので随分と便利なのだが、ゲーム内の仕様と全然違う効果を考えると、静かに動き続けるこいつらが少し不気味だ。

 俺が知らないだけで、実はゲーム内でも熟練度を上げるとこんな事も出来ていたのだろうか?






 ――結局日が登る頃には必要な素材が貯まったので、『狩猟小屋』の製作図を基本に、『手動作成』で仕上げる事にした。

 寝ないで作業するとやはり集中力が微妙に下がるのか、出来上がった小屋は目立たない様にするつもりが、本来なら小屋の傍に来る獲物を外からは見え難く作られた窓から、野生動物等を狙撃したりできる小屋なのに、普通の可愛らしい出窓に作り上げると言う失態を行ってしまう。

 ついこの間制作依頼を受けたある女性プレイヤーの希望通り、デザイン重視のお洒落な造りで、出窓の下部に鉢植えを乗せるスペースまで丁寧に作り上げてしまった。

 これじゃあ折角窓を開け獲物を狙おうとしても、両開きの為その対象と即ご対面なのは間違いない。


「……まあ、良いか。よく考えたらここで勝手に狩りとかしたらヤバいよな? 確か田舎の爺さんとこでも、猪とか鹿を許可なく狩ったら怒られるって言ってたもんな。態々猟友会だかに連絡してたしって、……ここじゃそんなもん無いか」


 そんな独り言を喋りながら、作業の終わったゴブリンは白目で薄気味悪いので少し離れた場所に穴を掘って貰い自分で埋まって貰う。

 一応お礼を込めて上から綺麗に土だけは被せてあげたが、掘り起こす奴なんていない筈だ、さようならゴブリン……ゆっくり眠れ。

 午前中は釣竿でも作ろうと考えていたが、予定がすっかり変わって小屋造りで時間がずれたので、地面とは違う木で作ったベッドに寝転がり昼まで寝る事に決定。

 体が仙人になっても、睡眠が欲しくなる事に今の所変化は無いようだ。





 ――空腹で目が覚めるとパラパラと音がするので、何の音だと小屋から頭だけを出して外を覗くと、寝ている間に天気が崩れたらしく雨が降っていた。

 この分だと壁の工事はやってないかも? と思ったが左程酷い降りでは無いので念の為街へ行ってみる。


 街の近くまで来てもこの雨のせいで、暑さも薄れたせいか例の臭気も幾分かマシだ。

 今日も門は普通に開かれており、昨日の出来事は少々不自然だとは思うけど、特に問題には成ってないのかもしれない。

 フードをかぶりそのまま街の中へ入ると、昨日集まっていた場所へ向かう。


 どうやら今日も変わらず、工事は進められる様で人集りが出来ていた。

 その中へ紛れエルカを探してみるが、どうやら今日は見当たらない。

 何かの歌でもあった様に、雨が降ればお休みにしてるのかも? それとも体調でも悪いとか? ……後で様子を見に行ってみるか。


 暫くして例の如く並ばされ、腕の赤い紐を結ばれると順に前に進み今日の作業の説明をしているみたいだけど、相変わらず何を言ってるのかさっぱり分からない。

 雨のせいで穴を掘る作業が上手く行ってないみたいで、余計な地面まで崩れて一端ストップしたり作業の遅れが見える。

 今日の俺の作業は隣に並んだおっさんと一緒に、積んであった岩をコロに乗せ、押して運ぶと言う実に単純な作業だったが、このおっさんがやけに頑張ってハッスルしているので、体から雨が蒸発するせいかムワッとした男臭さが広がり偉い迷惑だった。

 見た目はおっさんだが、髭を剃ったらこの人若いんじゃね?


 途中喉が渇き一緒に押していたおっさん(?)の肩を叩いて、水を飲みに離れたが他の作業だと雨のせいで冷えるらしく、兵士が水を飲むテーブルの傍で火を焚いて白湯を飲めるようにしていた。

 自分が火に当たる為もあるかもしれないが、こうして暖かい物が飲めるのは嬉しいし、更に言えば食事つきならもっと良いのに……。


 よく考えると結構まともな扱いをしているので、感心する。

 言っちゃ悪いが街中の汚さとかを見ると、この街の行政には大して期待して無かったのだが、昨日の兵士の動きやこの工事の作業員への扱いを見るに、意外と真面な人が上に居るのかもしれないと、少しだけ思った。

 今日は地盤に使う岩を何個か運び終えた所で鐘が鳴り、給金を受け取ると解散となった訳だが、昨日よりも随分早い気がするのはやはり基礎工事が進まなかったせいだろう。


 俺としては少しでもこの土地の情報を集め、早く言葉を覚える為に分かる範囲で挨拶とかを習慣づけ、なるべくこっちの言葉を出すように心がけようと考えたので、人付き合いの苦手もこの際克服しようと、去り際に兵士に挨拶をして離れる。


「さわとす ばるあー」


「ア? ……ヴァルア」


 おお! 何か返してくれた! 嬉しいけど少し単語が抜け何か違う。

 発音と言うか、舌の使い方に差があるかもしれない。

 俺の「ば」よりも、さっきの兵士の「ヴァ」の方が聞いていて格好良い気がする。何か負けた様な気がして悔しいが、今日もこうして汗水たらして手に入れた(実は大して力が必要でないので汗はかいてない)大粒銅貨を見ると感慨深い……あれ?


 昨日は貰えた事が嬉しくて、即串肉へGO! と意識が行ってしまっていたけど、この受け取った大粒銅貨をよく見ると、露店などで使われていた物よりも新しく汚れもほぼない。

 どうも感覚が慣れて無いせいか『綺麗な事は当然』的な意識が、全然抜けて無いので疑問に思わなかったが、もしかするとこの作業で受け取れる大粒銅貨は、他の硬貨とは違うかもしれないと漠然と思った。

 他の仕事もしてみて本当に差があるのか確かめてみないと、残念だけどこれ以上は推測できない。

 今日は串焼き屋が開いてないか、足を運んでみたのだが今日はやってないみたいで、代わりにスープっぽい物を出している店が暖かな湯気を立てて営業していた。

 漂う匂いはそこそこで、野菜を煮込んだスープみたいな香がちょっとだけ空腹な腹に堪える。


 雨で昨日よりも大通りを歩く人は居ないが、それなりに買って飲んでいる人が居たので、俺も一杯貰おうかとウキウキしながら屋台へ近寄って行く。

 やっぱりこの雨で体が冷える人も居るらしく、暖かい物は歓迎されフーフーと熱い出来たてのスープに息を吹きかけ、美味そうに飲みながら立ち話をしている人も見受けられる。

 だが、その少し先の建物の陰で『用を足している人』(男性)なんかが見えてしまうと、一気に食欲が失せてしまい溜息を一つ吐き、エルカの居た小屋へ足を運ぶ事にした。


 大きな道を歩いている間は良かったのだけど、小道に入ると途端に水捌けが悪くなり大きな水たまりがあったり、道の横にある側溝が溢れて酷い事になっていた。

 あの中へ足を踏み出す勇気が無く、仕方が無いので高所からの落下対策に取った《浮遊》の術の事を閃き、早速使用する為に念じる。

 上手く術は掛かるとほんの少しだけ地面を浮かび上がり、水たまりを踏まずに道を歩くことに成功。

 歩くスピードこそ変化しないが、問題なく使えてとても助かった。


 まあ結局ゲーム内じゃ特定の難易度の高い場所じゃキャンセルされて、折角取ったのに偉い苦労した思い出がある。

 そうやって水たまりを回避しながらエルカの小屋の前まで来ると、昨日見た子供たちが外に出て、色々な器を手に持って降って来る雨水を皆で集めているように見えた。


「お前らもしかしてそれ飲むのか? 腹壊すなよ?」


 思わずそう呟いたが、子供たちが俺に気付くと楽しげに器を掲げ寄って来る。


「マゥ リアン! ワァニファレムゥ?」


「マゥ エルカ クアゥ?」


「ナーティム カブ!」


「あ~、お前ら落ち着けステイ、ステイ」


 うーん、子供って奴はこれくらいの雨じゃ大して苦にも成らないのか、楽しそうに動き回っててやたら元気一杯だ。

 誇らしげに器の水を掲げて色々話しかけて来るが、俺には意味がさっぱり分からん。


 そうこうしていると昨日とは違って、顔や服が汚れて無いエルカが小屋から出て来たが、俺の姿を見ると大層驚いてるみたいだ。

 こういう時の挨拶って、なんて言えば良いのだろう? 取りあえず小さく手を上げ「エルカ」と呼んでみた。


「マゥ リアン タディナ ワァニファレムゥ?」


「あ~、何となく来た」


 こういう時は土産でも渡せばいいのか? けど流石にここで大粒銅貨を渡すのは絶対変だよな……。

 あっ、葡萄でも渡せば土産にはなるよな。

 そうして服の懐に手を入れ、『空間小行李』から葡萄を摘み一房取り出し目の前に出し、一粒摘まんで食べて見せる。


「美味いぞ~甘いから食ってみろ」


 そう言って群がっていた子供に手渡すと、受け取った子は恐る恐る一粒摘まんで口に入れた。

 モゴモゴと口を動かした後、動きを止め飲み込むとその子は叫んだ。


「レスワー!!」


「「「「レスワ!?」」」」


 その一言で一斉に子供たちは動き出し、我先にと葡萄を取り合い目いっぱい口の中へその実を頬張り、膨らんだほっぺはまるでリスの様だった。

 あっという間に葡萄は丸裸にされ、軸のみが残されている。

 結局ポカーンとして取り残されたエルカは、一口も葡萄を口にすることなく呆気にとられ佇んでいた。


「プッ、あははは。エルカのその顔めっちゃ笑えるわ。まだ葡萄ならあるから心配するな、レスワーレスワーだ」


 そう言って懐からもう一房葡萄を取り出して、エルカの手を取り持たせてやる。

 更に追加で二房取り出し、子供たちに渡すとギャーギャー言いながら取り合って、また口いっぱいに詰め込み食べ始めた。お前ら欲張り過ぎだー!


ゴブリンは意外と力はあっても足はノロノロだったようです。

ひょんな事で拠点を作り終えた主人公。

帰還を諦めた訳ではないけど、色々と楽しみを見つけたので

少しだけここで暮らすための意欲が湧いたようです。

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