夏川ツバキ⑧
「おにいちゃん、お帰り」
「ユリ、まだ起きてたのか」
「うん」
「明日から別のおうちに引越しするから準備してきて」
「ホント!?」
「あぁ……お父さんもお母さんもいない……新しい、おうちだ」
「わかった!」
ユリは走って大事なものを取りに行く。数分後、バックいっぱいにおもちゃを入れて戻ってきた。
「ちょっとお兄ちゃんも準備してくるから、ユリは外で待ってて」
「うん!!」
嬉しそうにバタバタと外に走っていく、ユリの背中を夏川は追わず深呼吸をしてリビングへと向かう。
「あぁ?帰ってたのか」
「……」
夏川は父親の言葉には答えない。嫌なヤニの匂いが鼻につく。となりの母親も同様だ。夏川はこんな光景を何度だって見てきた。バイト代を盗られてもずっと耐えしのいできた。
「……それもここまでだ」
あ?と父親が声を上げると共に母親の頭を拳銃で打ち抜いた。汚い畳に汚い血が広がっていく。
即死。そこには叫び声も、命乞いも、涙もない。
「……なっな、何っを!?」
「……何って……少しは自分で考えろ」
夏川は死体を蹴り飛ばすと後ずさりをする父親の額に拳銃を当てた。
「ユリが待ってんだ。早めに終わらせんぞ」
30秒。
それが17年も耐えしのいできた夏川の復讐劇の時間だった。