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殺し屋、始めました。  作者: カピバラ
モノクロ
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第三欲求とプラスアルファ





人間の第三欲求というものをこ存じだろうか。食欲、睡眠欲、性欲。それぞれが人間が性活する上で必要なものであり欠けてはいけないものだ。人間の生存本能とも言える機能。――シロはこれを剥奪されていた。十字架も古びた古臭い教会。誰も使わず、こうして一人の男が椅子に縛られ、一人の怪物が佇んでいたとしても誰も気がつきやしない。



 「人間の第三欲求。食欲……これは食事を最低限にすることで剥奪した。モチロン与えなくてもいいんだが死んでしまっては面白くない」



シロは答えない。



 「睡眠欲……適度な痛みや辛味を与えることで眠りに落とさない。もし落ちたとしたら電気ショックで起こすから安心しろ」



シロに口を開くだけの気力がない。



 「性欲……これは鈴科に調達させた媚薬を注入した。一日に一回な」



至極楽しそうに笑う横でシロは限界を迎えていた。限界を越えられない。限界を超えた『死』は迎えられない。生と死の間をずっと宙釣りになっている。連れ去られてどれだけの時間が経ったのか。一秒か一分か一時間か一日か一週間か一ヶ月か一年か一世紀か。もう、何もわからない。考えることさえ……ままならない。何かを考えようとすると三つの欲が思考をジャックする。



 「気分はどうだ、クズ。あぁ、答えなくていいよ。空気が汚れる」



その言葉にイラつくことさえ出来なかった。彼の意識はもう、飛んでいた。


 ◇

 

 ◇


 ◇


時々俺の人生ってなんなんだったんろうと思う。最初は夏川ツバキの人生を根こそぎ奪うところから始まった。そして俺のわがままで須王アザミ、東城ラリアの人生も奪ってしまった。救うことを諦め、夏川ユリも殺してしまった。人生を奪ってしまった。目を覚ませば新しい仲間達が、出迎えてくれた。暖かく、あたかも家族のように扱ってくれた。自分の居場所はここなんだと、図々しいながらも感じたこともあった。



 「それなのに……」



彼らもまた、自分のせいで死んでしまった。自分のようなゴミクズのために、正義を掲げた者達が無残に散っていった。なんて皮肉なんだろう。正義の活動をする者達がクズのために死ぬだなんて。俺さえいなければ、全て報われたはずなんだ。夏川ツバキの人生は円滑に進み、須王アザミの計画は進まず東城ラリアは生き残り、正義の味方は暴走した夏川ツバキに殺されることなんてなかった。



 「……どうして……なんだ……」



俺のせいだろうが。わかりきっていたことだろうが。俺の人生なんて。奪い奪い奪うだけの。腐りきった人生。正義の味方での短い間、楽しくなかったと言えば嘘になる。だからといって充実していたかといえばまた嘘になる。なんとなく、肌に合わなかった。



 「一人じゃないって思ってたのに……裏切るだなんて酷いじゃないか……クロぉ……」



裏切られた。信じてたのに。こんなしょうもない存在の自分を受け入れてくれた彼女を信じていたのに。彼女に多少なりとも温かい感情を感じていたのに。結局、助けてなんかくれないんだ。

いっそのこと裏切るとか信じるとかそういうのは無しにしよう。生きる価値だとか目標だとか。本能のままに。今までしてきたとおりに生きることにしよう。そう、



 「……奪えばいいんだ……」



そうだ。そっちの方が肌に合ってる。全部、全部奪っちまおうぜ。



 「もう……誰にも助けは求めない。求めたって一緒だから。大体助けを求めるってなんだよ。この俺様のために命を張れるってのは光栄なことじゃねぇか。ハハハッ! そうだそうだぜ。アッハッハッ!! アッハッハッハッハッハッハ!!」



そうだそうだぜ、忘れてた。なんたって俺は『キング』なんだから。


 ◇


 ◇


 ◇


 「なぁ……夏川さんよ」


 「あ? 喋んなよボケ」


 「まぁまぁそう言うなって。俺だって頑張って喋ってんのに。……ところでさ、俺の名前覚えてる?」


 「は?」



夏川はいきなり言われた妙な言葉に顔をしかめる。俯いたままの『コイツ』を夏川は凝視し、見下していた。無駄な抵抗程度にしか思っていない。が、その程度で終わるほど『コイツ』は甘くない。



 「その足りねぇ頭で覚えときな。俺の名前は『キング』」



ガッキィィン!! とキングを縛っていた鎖が引きちぎられた。力技? いいや違う。いつの間にか後ろに見知らぬ男が立っている。それだけではない。教会全体に、何十人もの人間がいつの間にか佇んでいた。彼らの動きには異常なほどに統一性があり、まるで誰かに操られているようだった。キングはその中の一人からリンゴを一つ受け取り、貪り食う。そして、丸々一つ食べ終わると芯を投げ捨てながら、宣言した。



 「この世界の王だ」



途端、見知らぬ群衆が活動を開始した。



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