引き寄せ合う怪物達①
かつて、クロはまだ撫子スレナという名で日常を送っていた。物心ついた時には父はおらず母と生活してきた。そんな日常の中。クロが中学に進学する時期に母が通り魔にあった。首が強い力でねじ切られていたらしい。泣き狂うクロを家に置いてくれる人もおらず、施設に住むことになった。もう、全てが終わったと思った。何もかもが嘘であればいいのにと思った。そんな彼女をさらに悲劇が襲う。その願いが叶ってしまったのだ。世界が全て『嘘』にできるようになってしまった。眼を合わせる程度で嘘に出来るようになってしまった。眼に映る全ての人が自分の生み出した『嘘』に踊らされていくのは滑稽だった。そして同時にこう思う。
――あぁ、もう本当に全て終わったんやな
怪物に成り果ててしまった。彼女は荒れた。どうせ怪物なんだ。深夜にたむろする不良らを幻覚と刃物を使い粛清した。ストレス発散としか言い様がなかった。
そしてその粛清という名のストレス発散をしている最中で出会ってしまった。親を殺した張本人。ノバラという女に。そこからはあまり記憶がない。
ただ、意識が戻った時には腕がひしゃげ路地裏に捨てられていたことしか。
そして今、目の前に、いる。かつてと違うのは守るべきものがまだ生きていて、それが命の危機に晒されていることだ。勝てないかもしれない。死ぬかもしれない。それでも。立ち向かわなければいけない敵だいる。
「ノバラァァァあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
クロは立ち上がる。例え手足がもがれようとも。
◇
◇
◇
「ノバラァァァあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
叫ぶクロの胸の中心にいつの間にかノバラのつま先がめり込んでいた。
「が、がぁッ!?」
蹴り飛ばされたクロはサイコロを彷彿とさせる動きで道路を転がる。電柱に叩きつけられるもクロは再び走り出す。向かうはノバラ。いいや、ノバラの目。クロの能力は目を合わせた相手に幻覚を見せるというものだ。使いようによっては平衡感覚を狂わせることもできるのだがノバラにそれは関係なかった。なぜならば、彼女は目をつぶっていたからだ。
「ッ!?」
「クロネコちゃーん? 忘れちゃったの私のコト。人体の限界を追い求め続けたこの肉体。視覚程度奪われた程度で負けるわけないでしょう? 嗅覚と聴覚でアナタの匂いと心音を追い続けるわ」
人体の限界。なんて簡単に言うが想像し難いものだ。感覚器官、運動器官、その他各所の器官が人類の進化においてのゴールにたどり着いたもの。度重なる改造を行ったのか。それともただ鍛錬を重ねたのか。ひとつだけ確定しているのは能力ではないということだ。
「お・そ・い・わぁ。もっともっと!! 私を焦らせるほどの快楽を!! 限界を!! もっと楽しませなさいってばぁ!!!」
クロを浮遊感が襲う。どこまで打ち上げられたのか。地面に着地することなくクロの服が電柱に引っかかりそのままになってしまった。
(クソォ……クソクソクソクソ!! なんでや。なんでこうなるんや!!)
気を失ったシロ。電柱に引っかかり身動きの取れないクロ。そして無傷のノバラ。まさしく絶体絶命と呼べる状態。諦めていい状態ではない。しかし、人の精神とはそう甘くはなく、諦めないと考えれば考えるほど裏が自分で読めてくる。率直に言って。二人にノバラを攻略できるほど甘くなかった。ぽっと出の悪役程度に終わらされた。
「……終わらせてたまるか」
クロの耳に届く。誰かの声。嘘、という文字が自分と同様に似合うものの声。
(シ、ロ……?)
混濁とする意識の中で彼の名を呼ぶ。彼女の目にはノバラとコウモリのような姿の男が対峙しているところしか見えなかった。男には右腕があらず、黒いオーラは体全体を包み肩甲骨付近からオーラが翼の形に伸びている。嫉妬を象徴する男。シロと呼ばれるクローンに全てを奪われた男。
「コイツは俺の獲物だ。お前が殺すには持ったいない」
「はぁぁああん?? なーんでここで『コウモリ』が出てきちゃうわけ? 因果関係なんて……あらら? ここで伸びてる子、もしかしてアナタの……あららら。それじゃこの子は隅に置いといた方がいいってことね。ヒロインはデザートみたいなものよね」
清々しい笑顔でノバラはシロを隅へと運んだ。その間、死神とも見える男――夏川ツバキは首を鳴らしていた。ノバラが夏川に微笑む。
「さぁ、始めましょう。とっても楽しいドロドロな遊びを」




