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殺し屋、始めました。  作者: カピバラ
モノクロ
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シロ 質




真夜中の都会。いつもは騒がしくてもおかしくない時間帯だが、交通規制という偽の情報で人は見当たらなかった。時計の針は23時を指している。舞台は閉店したショッピングモールの立体駐車場とその目の前の公道。東側と西側。それぞれ人間の群れが対峙していた。



 「あんさんところで匿ってるらしい『俺達の仲間』返してもらうぞぉ?」


 「難癖つけてんじゃねぇ、天然パーマ。……オマエら、ブッ潰せ」



その合図とともにスポーツ会場の歓声のような声が湧き上がった。そして人間の群れが衝突していく。総勢200名以上。あまりにも大きな喧嘩が始まった。


その光景を頭上からドウとホタルは見ていた。より正確には天空から。黒塗りのヘリ。夜に紛れる色と下からの怒号のせいでヘリの姿に気づくものはいなかった。運転席に座るホタルにドウは窓から眺めながら呟く。



 「うわぁ……始まった。アリさんみたい。それよりホタルさんってヘリの運転もできるだね」


 「ある程度の免許は持っている。……年齢の査定だけはちょっといじらせてもらっているがな」


 「すごいなぁ。僕はバイクにしか乗れないからさ。それじゃ行ってくるよ」


 「あー……本当に一人で大丈夫なのか? アイツら叩きのめすなんて無茶だ」


 「大丈夫だよ……やるのは僕じゃないからさ」



バン!! と扉を開けスカイタイビングさながらに飛び降りる態勢をとる。予定通りとは言え、ホタルは思わず止めようとした。しかし、ドウの様子がおかしいのに気づき、動きが止まってしまった。



 「……頼むよ、ヒーロー」



あまりにも不安そうな声。独り言、だと思っていたが予想外の返事があった。ドウの口から。



 「……任せておけ」



そして飛び降りる。彼女としては非常に珍しく驚きの声が出てしまった。が、それを塗りつぶすかの如く新たな驚愕の光景が目に映る。ドウの体が赤い光に包まれ、そのまま落下していったのだ。モチロンパラシュートなどはない。だが、不思議と彼が死ぬとは断定つけられなかった。その姿。まるで赤い流星。赤く発光したまま、群れの密集する地帯へと着弾した。




 ◇


 ◇

 

 ◇




赤い流星が道路に着弾したのをシロは音で確認する。あれだけ音がすれば流石に警察も来るだろうがヒーローはあの外見じゃ素顔もわからないし、そもそも警察の特殊部隊的なものが来ても対処できるはずだ。ともあれ、今は自分の仕事に集中する。熊谷組の事務所の目の前。表面上は胡散臭い宗教団体を取り繕っているからか、訪問客はほとんど少ないそうだ。だからこそ、Sランカーを拉致したり、きな臭いこともできるのだろうが。事務所そのものはあまり大きくない。周囲のビル群に隠れる程度だ。日当たりが悪そうだが、そんなことはどうでもいい。



 「ここに保護対象がいるのか?」


 「わからへんからお偉いさんに聞きにいくっちゅう話やな。いざというときのウチの『幻覚』もあるし」


 「『話し合い』ですかそうですか。つーか青葉はどこに行ったんだよ」


 「あれそのものは正義の味方ちゃうし。情報屋としての仕事があるんやろ。……ほぉらお偉いさん出てきたで」



ガラス製の扉が開かれ事務所からゴツイピチピチスーツの中年の男が出てくる。なんというか、マンガやアニメに出てくるヤクザをコピペしたような男だった。片手にはアタッシュケースが握られている。シロとクロは軽快な足取りでコピペ男の目の前まで移動し、話しかけた。



 「こんにちは。お話を少し聞かせていただいてもよろしいでしょうか? 熊谷さん」



白い布を付けた白ジャケットの男。そしてその隣にはクロネコの仮面を付けた女。傍から見ればふざけた二人組にしか見えないだろう。



 「なんだ、ガキ共。あれか、カラーギャングの真似事か? そういうのは他所でやれ。本職の目の前でやるもんじゃねぇ」


 「あらら? クロネコの仮面は結構有名やと思うんやけど……」


 「ほう。あのクロネコ様か。すまんな暗がりでよく見えないんだ。それでクロネコ様がなんのようだ」


 「用というかなんというかやね……まどろっこしい事は無しにしてウチとしては争奪戦に持ち込む方が楽やねんけど、な?」


 「……なんのことやら」



シラを切る熊谷にクロは歯噛みする。そこでシロが何かに気づいた。クロを地面に押し倒し、謎の襲撃を避ける。



 (発砲音……しかもスナイパーライフルか。ケイトウとかなら死んでたな)



銃弾の飛んできた位置、音の聞こえた位置から補正し狙撃手の位置を確認する。が、その間に別の動きがあった。熊谷がアタッシュケースから次々に何かを出し始めた。一つはゴーグル。そしてもう一つはいわゆる棍棒だ。ドラム缶に棒を取り付けたようなデザイン。材質としては鋼鉄といったイメージだ。熊谷は軽々とそれを持ち上げる。 

 


 「能力者共が。時代に乗り遅れているようだな」


 「っとぉ!!」



棍棒が振り下ろされる。それを避けることは不可能だろう。右左後ろ。ある程度の誤差は修正され、叩き潰されてしまう。それならば前に進むしかない。クロを抱きかかえたまま、半ば地面を這いずるように突進する。虚を突かれた熊谷の腰に自分の体ごと叩き込む。ゴ――ッ! と鈍い後方のコンクリートが凹み砕ける音がした。



 「タックルしたつもりか?」


 「大木かよ……ッ。どんだけ体幹強いんだ」


 

シロとクロはそれぞれ左右に飛び跳ねる。その間に熊谷が棍棒を再度持ち上げ、肩に乗せるがその動作には一切重々しいものはなく、自然な動作だった。果てしない怪力なのか。それともなんらかのトリックがあるのか。考察するシロの向こうでクロが何故か慌てふためいていた。わたわたと手話にすらならないジェスチャーをする。



 『あかん!! このおっさん幻覚が聞かへん!』


 『流石ヤクザのドン。幻覚には惑わされないということか……』


 『冗談言うてる場合ちゃうねん! あのゴーグル多分サーモグラフィかなんかや。ウチの能力はウチの目を通して幻覚を送るから、相手がウチの目を目と認識せえへんと抗力がない!』


 『つまりぼやけ気味のサーモグラフィ越しじゃ使えないと。お前用済みじゃねぇか!!』


 『うっさい! ウチはあっちの狙撃手どうにかするからここよろしく!』


 『ムサイおっさん押し付けられた俺の気持ちを考えろよ!!』



と、結局クロは逃げるようにどこかに行ってしまった。多方狙撃手の位置を探りに行ったのだろう。ともあれシロは熊谷に集中するほかない。シロはゆっくり立ち上がり、中指を立てる。



 「熊谷さん、話し合いしましょうや」


 「男は拳で語るというものか。うむ、全身全霊で叩きのめしてやろう」



ヒュォ……と空気の裂ける音が耳に届く。棍棒が横なぎに振るわれるも身を屈め避ける。当たればひとたまりもない一撃だ。コンクリートを粉砕するほどなのだから。しかし



 「遅い、よな?」



白い布の下でニヤリと笑い、拳を握る。大きな一歩で間合いを限りなくゼロに近づけた。洗練された(かのように見える)右拳が熊谷の胸板を叩いた。が、熊谷は身じろぎ一つしない。筋肉が鎧のような役割を果たしているのだ。再び距離を取り、態勢を立て直す。



 (重火力の高耐久……厄介だな。拳銃……使っちまうか? いやいや、流石に発砲音は……ってもう狙撃されてたな。……やるか)



腰の後ろに隠していた小さめの拳銃を取り出す。パセリから支給されたものだ。一々素手で戦う必要もない。それを熊谷に突きつける。距離は5メートルほど。銃の前にこの距離は長すぎる。



 「さて、Sランカーを開放してもらおうか」


 「ガキが。何も分かっていない。あれは外には出してはいけない生物だ。あの殺人鬼を俺達は『購入』してしまった……むしろ押し付けられたとでも言うべきだ。買ったら買っただけの責任がある。俺たちはあれを責任を持って殺さなくてはいけないんだ!!」


 「殺人鬼だと……誰なんだいったい。お前達は何を匿ってるんだ!?」


 「あれは……アイツは!!」



熊谷が名を叫ぼうとしたその時、熊谷の口から血が溢れてきた。



 「ま、まさか……っ。出てきたのか……アイツが」



驚愕する目が徐々に生気を失い、終いには膝から崩れ落ちてしまった。そしてそれと入れ替わりに熊谷の後方に妙な人影が見えた。拷問でも受けたかのようなボロボロの身体だ。それと同様に服もところどころが破れている。手足には全てに鎖が繋がれているがどれも引きちぎられている。獣のような眼光に、三日月のように引き裂かれた口。そして手は十字架に磔にされたような横に広げている。



 「はぁぁああん……拍子抜けって感じ。わざわざ『捕まってあげた』のにこの程度だなんて……期待はずれもいいところでだわ。このオ・ジ・サ・マ」



女の声だった。息絶えた熊谷の頭を踏みつけながら至極残念そうに。それでいて歓喜に満ちた笑み。



 「でも、これ以上の快楽がまだこの世界にある。そういうことなのよね……カミサマはまだワタシのことを愛してくれてる」



シロは動けなかった。特に殺気を向けられているわけでもない。だが、動けない。身体が拒否反応を起こす。最適な行動を見いだせずショートしたコンピュータと似た状況だった。その女はようやくシロの存在に気づいたのか少しずつ少しずつ近づいてきた。



 「……アナタ、名前は?」


 「……シロだ」


 「そう。いい名前ね。……あらら? あそこにいるのはクロネコちゃんじゃない?」



女が向いた方向からクロが姿を現す。返り血に汚れているのは狙撃手を倒したからだ。クロは仮面を投げ捨て素顔を露にする。その表情は憎悪に染め上げられ、顔がぐちゃぐちゃになっていた。



 「ノバラ……ッ。生きとったんかクズ」


 「クズだなんて酷いわぁ。ワタシはアナタの大っ嫌いな親族を極楽浄土に送ってあげただけなのに」


 「……ッ」


 「アナタの嘘を生み出す能力。モトモトは現実逃避のためなんだっけ? よかったじゃない。もう逃げる現実はなくなったのだから」


 「それはえぇねん……でもなぁ! 一般人に手ぇ出して許されるとでも思うてるんか!」


 「……? あらら。あの時みたいなギラギラしたクロネコちゃんはどこに行ったのかしら。あの時のアナタなら死んだ魚の目みたいに綺麗な目で無表情だったろうに。今じゃすっかり熱血になっちゃって。またクロネコちゃんに会いたいわ」


 「んな奴は死んだ!!」



叫ぶと同時にクロの瞳孔が開く。激昂したクロは拳銃を早抜きし、躊躇なく発砲した。空気抵抗をもろともせず進み続ける弾丸。正確さはないもののノバラと呼称された女性の柔らかな肉を捉えることは造作もないはず。たった一秒前まではそう思っていた

異常なまでの跳躍。というより弾丸を避ける反射神経に驚いた。宙を舞う姿はまさに花びら。奇妙に月の光に照らされて口元が煌く。ノバラは着地すると目にも止まらぬ勢いで、呆然と立ち尽くすシロの後ろから抱きついた。



 「んふふっ。これがクロネコちゃんの大事なものなのかなぁ?」


 「ノ、ノバラッ!! そいつに手を出したらただじゃ置かへんからな!!」


 「そう……じゃあ、この子を壊しちゃえば昔のクロネコちゃんに会えるってことね?」



振り切ろうとシロは何かしらの動作を行おうとした。しかし、遅すぎた。いいや、むしろノバラが早すぎたのか。気づいたらコンクリートの道路に突っ伏していた。ジリ……と頭を踏みつけられる。クロネコの表情がますます黒くなっていく。気づけばクロは『眼』を使っていた。



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