シロ 陸
シロが目を覚ました家。パセリが言うにはここはクロが購入した家らしい。といっても今は作戦会議の拠点にしかなっていないのだった。リビングではテーブルを囲むようにシロ、ホタル、クロ、パセリ、ドウが集結していた。パセリがタブレットを机に置き、今回の作戦に必要なデータを全員に見せるために色々と操作をした。
「今回皆さんにやっていただきたいのは、簡単に言ってしまえば組織同士の抗争を止めることッスね」
「組織の抗争? なんや、ヤクザでも相手にすんのかいな」
「ご明察。別にヤクザが抗争しようと何しようとどうでもいいンスけど、抗争する理由が理由なんでご依頼させていただいたッス」
「理由……。誘い受けしてないでさっさと進めろ」
「うぃ。シロさんはうるさいッスねぇ。とまぁ、これを見てくださいッス」
そう言ってタブレットを操作し、出てきた画像を見る。盗撮されたような写真だった。影が大きくかかっており見にくい。よく目を凝らして見ると、ぼんやりと人影が見えた。手足に枷が付けられており、身動きは取れなさそうだ。そもそも食事もとってないのか明らかに線が細く、枷を外せそうもない。写真の写りも悪いせいか顔も見えず、性別すらも判別できない。
「誰だ、コイツ」
「わかんねぇッスけど、両方の組織が欲しがってるみたいなンスよねぇ。ちょうど以前のパンドラみたいに。素性はイマイチ掴めないンスけどとりあえず保護しといた方がいいかもしれないッス」
「ってことは目的としては抗争を止めることじゃなくてその人質の保護ってところか」
「ま、そうッス。今は熊谷組が捕獲していて、それを和良組が狙っているって感じッス」
……何やら聞き覚えのある組織の名が聞こえなくもない。シロは辟易した顔を見せるがパセリは構わず続ける。
「でも、なーんか妙なンスよね。どうしてわざわざ人一人のために抗争するのか……」
「そりゃあ鈴科……じゃなくてパンドラと同じ理由でバケモノじみた力があるとかじゃないのか」
「だとしてもッスよ。熊谷組なんて弱小なンスよ。それなのにバケモノを確保できるわけないじゃないッスか。それにそういうタイプのバケモノ……というより最近はSランカーっていうみたいッスけど、リストアップしてみてもわかんないンス」
「この辺にいるフリーのSランカーいうたら、メモリー、パンドラ、コウモリ、アゲハ……こんくらいか?」
「関東地区はヤバイッスからねぇ。てかヒーローもッスけど」
ドウは苦笑いするだけだ。会話をまとめてみると熊谷組がSランカーと思われる人物を和良組が奪おうとしており、その騒乱に乗じてSランカーを保護しようとのことだった。クロ達は保護した後は仲間にでも……と思っているのだろうか。それよりも気になることがある。
「クロ。正義の味方って俺達以外にはいないのか?」
「あー……いるにはいるで、百人ぐらい。でもみんな趣旨忘れてもうて……逆にウチらが浮いてしまってるんや」
「……?」
「気にせんでえぇよ。ほら、仕度しぃ。準備は早めにしとかんとな」
そう言って各々が準備を始める。ホタルに視線を送ってみるが彼女も放っておこうとの意見だった。腑に落ちないながらも一時的に個人部屋と化しているトレーニングルームへと降りていく。
パセリの指示で白いジャケットを着ることになった。さらに目から下。つまり鼻と口を覆うように白い布を逆三角形に取り付けた。クロの仮面同様、顔を隠すためのものだ。ヒカリにいた頃(夏川の記憶ではあるが)はこのようなことは気にしてはいなかったが、クロが言うに『大きな組織はもみ消せるからいいんやけど、ウチらみたいな小組織はそういうわけにはいかんのや。警察にも気を付けること。最悪指名手配や』とのことだ。こう考えるとあの会社もめちゃくちゃ大きいかったんだな……と思う。あれを実質的に潰した当人としてはなんとなく申し訳ない気分になる。
「……よし」
鏡越しに自分の姿を見る。そこには夏川ツバキシリーズのクローンではなく、『正義の味方』であるシロが映っていた。自分にはわかる。顔の半分は見えず、彼の趣味ではない服を着ていたとしてもだ。目を見開き、深呼吸をする。ここにいることで何かを変えられるのかもしれない。夏川ツバキの五文字から逃れられるかもしれない。自分で決めたことだ。不意に後ろから声をかけられた。
「準備は、できたんか?」
ふざけた口調ではなく、彼の心情を読み取った言葉。重く優しい響だった。シロは振り返り白い布の下でニヤリと笑う。
「あぁ、モチロンだ」




