シロ 伍
路地裏。どこかの店の青いポリバケツのゴミ箱が乱立している。
「だぁああ! クソクソクソ!! ……もう全員蹴散らしてやろうか……ッッッ!」
体を鍛えるためのランニングが、命懸けの逃亡になってしまった。火照る体を冬の風が冷やしていく。
「逃げてんじゃねぇよクソガキィ!!」
「熊谷組舐めてんじゃねぇぞ!!」
怒声にイラつきながらも、後ろを振り帰る。先ほどよりも人数は減り、4人だけになりそれも2人はリタイア寸前だ。一本道の人一人通れるぐらいの路地裏。対面するのは一対一。逃げきれるという保証もない。やるならばここしかない。
全力疾走していたところを、急に停止しUターンする。奴らは驚き、急停止し慌てふためいている。シロが行ったことは実にシンプルだ。殴りかかってきた腕を掴み、ドアノブを捻るのと似たような動きで腕を回転させる。ホタルの技術だ。相手の力を利用し、受け流すだけには終わらずカウンターを決める。
「お、お、お、おぉ!?」
ふわり、と先頭に立っていた男の体が持ち上がった。ホタルの技術を使い、相手の力を利用して体を持ち上げているのだが、奴らにはこう見えているのだろう。男をそれも大人を片手で持ち上げるほどの力があるのだと。そのまま後続に並んでいるところに放り投げて、舌打ちをする。すると、奴らの一人が何かを思い出したように叫びだした。
「い、今の……見たことあるぞ。あの怪力……あ、あれじゃねぇの!? ヒカリ製薬にいたあいつ!!」
「な、『ナイト』だっていうのか!? ……すすす、すいませんっしたぁああ!!」
「オイ、待てよ!! 追いてくな!!」
ドタバタと熊谷組とやらが逃げていく。イマイチ状況が掴めぬまま、路地裏を抜けると、またあの公園にたどり着いた。思わぬ裏道を見つけてしまった。しかし、近道にはならなさそうだ。自然公園というだけあって無駄に広い。少しだけ辺りを見渡すと、見知った顔がいた。赤凛ドウ。自分自身のことをヒーローと名乗っていたが、以前出会ったヒーローとは態度から何まで違い多少信憑性に欠ける。そんな彼は木に引っかかったボールを取るために木に登っていた。
「おにいさん! がんばってー」
「ま、任せて……ぅおいっしょ!! うわぁあ!?」
なんとかボールは取れた。そう思った瞬間、枝が折れ、そのまま地面に落下したのだ。これだけで彼は貧乏くじを引くタイプの人間なのだなぁ……としみじみ思わせた。ありがとー、と手を振り走る少年に笑顔で手を振るドウ。一応声をかけることにした。
「プライベートも大変だな、ヒーロー」
「あ、シロさん。えぇっとちゃんと名前で呼んでくださいよ……」
「でも、お前はヒーローなんだろ?」
「ん……ちょっと座って話しましょっか」
というと、一番近くにあるベンチに腰掛けた。ドウをチラリと見てみる。どう見てもあのヒーローとは違うような気がするのだ。正義感はあるのだろうが、なんというか違和感がある。
「パセリくんからのメール見た? 出動は今日の23時だってさ」
「今日かよ……メールって言っても俺携帯持ってないからさ。今度買いに行かなくちゃな」
「お金……大丈夫なの?」
「なんとかするさ」
「武器とかはどうするの? 多分支給できないよ?」
「なんとかするさ」
「そう……それじゃ早めに準備するためにも帰ろっか」
「おう」




