夏川ツバキ⑥
当の夏川は走りながら、時折発砲しながらスキンヘッドから逃走していた。ところどころ廊下には死体が転がっているが気にせず走っている。
(さっきから拳銃がきかねぇ……いや、効かないというよりはじかれてんのか)
バッグのファスナーを開け、中から小規模の爆弾を取り出し、スキンヘッドに投げつける。スキンヘッドは全力疾走をして横の壁に突っ込んでいった。
グッシャアアアアアアアアアアアア!と再び壁がひしゃげていく。
先ほど東城を吹き飛ばしたものと同じだ。その轟音の後に続いて爆弾が起爆する。
(今までなりふり構わず走ってきたくせに……わざわざ壁をぶち破ってまで避けた?)
直後、夏川のすぐそばの壁がひしゃげ、そこからスキンヘッドがタックルをしてきた。
「ん、がぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
グルン!と体を強引に回して回避する。バランスを崩し倒れてしまったがそれは相手も同じ。インパクトの瞬間を外され、反対側の壁に突っ込んでしまっている。
夏川は急いで立ち上がり、廊下を駆け抜けていく。
スキンヘッドの男はゆっくりと立ち上がると首をコキリと鳴らした。
「ったくよぉ……逃げてんじゃねぇよ、ボケ」
走りに走った後、夏川は廊下のつきあたりの個室に隠れていた。汗だくになりながら、咳き込む。
(クソ……もういいだろ……ここまでかんばったんだから)
息を切らしながらバッグを探る。何かこの状況を打破するものはないか。
その時だった。個室のドアが開く。
見なくてもわかる。
奴が、来た。
(そういうわけにもいかない、か……)
再び彼は生死の境へと足を踏み入れる。
「おーい、出てこいよ」
スキンヘッドがそう言った時だった。パパパン、と銃弾を放つ。が、それはスキンヘッドを傷付けることは無く、当たり前のようにはじかれる。
「無駄だって……分かってんだろ」
「お前こそわかってないよ」
スキンヘッドは怪訝な顔をするが、夏川はそれを気にしない。焦っているのかどうしても早口になってしまう。心拍数は今までの人生の中で最高記録を打ち出していることだろう。
「例えば、何故俺がこの部屋を選んだのかとかさ」
夏川はバッグに手を入れて
「解析済みだっつーの。お前の能力は多分、自身の超硬質化。どういう理屈でそうなってんのかは予想はつかないが多分ダイヤモンドレベルか?通りで弾丸が聞かないわけだ」
スキンヘッドの手口を、思考を、手品を、全てバラしていく。
「……だからなんだ?」
「硬質化、ねぇ……」
恐怖も確かにある。しかし、突破口を見つけてしまえば少しは気持ちも安らぐ。
「それじゃあさ……」
無理に笑顔を作る。自分に発破をかける。
「熱とかはどうなんだろうな?」
「!?」
「やっぱ計算通りの反応だな、オイ!そりゃ、そうだ。さっき唯一回避したのは爆弾だけだもんなぁ!!」
そう言い切る前に夏川はバックから爆弾を取り出した。スキンヘッドはややうろたえながら、逃げようとする。
「こんな小さい部屋でそんなもん使ったらお前もどうにかなっちまうぜ?」
「能力者潰すのに素人ぐらいの犠牲、安いもんだろ?」
「バカが……ッ!!」
スキンヘッドが逃げようと走りだした直後に夏川は爆弾を投げつけた。
「一緒に死のうぜ」
ホタルと『天才』は任務を終えて、ビルから出てきていた。
ふと見上げたビルの一室から閃光が放たれていた。
閃光だけが放たれていた。
カ――ッ!!と瞬く閃光にスキンヘッドはうろたえるがダメージはない。
「まさか……閃光弾か!?」
光によって目を潰され、壁を突き破って飛び込んだせいで身動きが一時的に取れないスキンヘッドの首にスタンガンが当てられる。
「テメェと心中だなんて死んでも嫌だ、ハゲ」
バチバチィ!!とスタンガンが唸りを上げる。
スキンヘッドの体から力が抜けた。