シロ 弐
完治した。といっても治ってばかりに体は弱っているのは明白だ。だというのにシロは、クロの家の地下にあったトレーニングルームで筋トレをしていた。拷問器具のように様々な器具が置かれており、トレーニングルームというよりは独房とか拷問室のようなイメージを与えられた。
今は備え付けられたベンチにクロと一緒に座っている。汗だくのシロにタオルと水を渡してクロは呆れたように肩を揺らす。
「あのなぁ……シロ。いくら筋肉つけたからって強くなるわけやあらへんねんで?」
「戦い方は他人の脳から奪えばいい。でも、体は俺しか強くできない。これが最善だ」
「ホタルもアンタも筋肉バカやな。ウチはこの部屋作ったはいいんやけど使うたことあらへんし。あんまりコン詰めん方がええよ。なんや用わからへんけども、えらい自分焦ってるみたいやないか」
「青葉に言われたんだ。逃げてるだけって。確かにそうだと思った。変わらないといけないと思った。でも、何をすべきかはわからない。どう変わるべきなのかすら。……だから体動かして気分を紛らわせていたんだ」
「ま、ウチには果てしなくどうでもええことやけどな。何するべきなんかって話はウチが口出しできることちゃうし。まぁ、手助けぐらいはしてやってもええけど」
「それじゃ一つだけ相談に乗ってくれよ」
「うん?」
クロは優しい表情でシロを見つめる。ちょうど母親の温もりのそれだった。シロが、いいや夏川がきちんとした人生を送っていればそう感じたかもしれない。感じたことのない感情にシロは戸惑いつつもシロは言葉を紡ぐ。
「俺は生まれちゃいけなかった人間……だと思うんだ。夏川からは人生を奪ってクロ達には迷惑かけて。正直俺のことどう思う?」
「どう思うって……ウチはバカやからシロの言うとることはイマイチわからへんけど、考え過ぎちゃうんか? むしろ、視野が狭すぎて全部は考えてへん。自分のダメなとこばかり見て。あんなぁ、シロ。この世には人に迷惑かけずに生きてる人間なんておらへんねん。みんな何らかの形で迷惑かけてる。そして、みんな持ちつ持たれつ頑張ってる。言っとくけどなぁ、アンタの意見なんて少数意見や。わかったか!?」
面喰らった、といった顔をして無言で頷くと、水をぐいっと飲んで再びトレーニングを開始した。シロの息遣いと機械の擦れあう音が薄暗い部屋に木霊する。
「そうそう。それでええんや」
「フッ! フッ! クロ、例の件、青葉に俺も行くと伝えていてくれ。んぐぐッ……!!」
「へいへい。任せとき、悩める少年」
「少年って、年の差一つか二つしか変わんねぇだろうが……ッ」
激昂するシロに爆笑しながらクロはベンチで携帯ゲームをやっていた。




