革命⑦
「愚民どもがピーピーと泣きやがってうるさいな」
須王は豪奢な椅子から立ち上がり言う。周りにはヒカリの重鎮達の死体が転がり嫌な匂いが広がっていた。ただし、今須王にとってその匂いは快感さえも覚えるものだ。革命を肌で感じることができるのだから。
「なつかわのクローンとホタルの接近をかくにん。どうしますか?」
「『予定通り』に検体ナンバー46は私が。君はホタルを頼む」
「わかりました」
「期待してるぞ」
「は、はいっ」
自分の持ち場へとライフルやサバイバルキットを持って走り消えていく。小刻みに揺れる背中を眺めながら須王は呟く。
「……全ては盤上の上の出来事。多少の変更はあるもののシナリオ通りに時は進む。……さて」
ぎぃぃぃ…………と古臭いドアが開いた。光を受けてこのシナリオの主役が登場する。嘘で塗り固められた少年。かつては夏川ツバキと呼ばれた生まれるべきではなかったクローン。それが判明した時は笑い狂ったものの、今の彼の目には生気がこもり覇気に満ちている。
「……君はチェスで言えば白のキングだ。そして夏川くんは黒のキング。君を落としさえすれば私の計画は完璧に遂行される。本当は夏川くんと相討ちが完璧なシナリオだったんだがな」
「チェスには引き分けはあるが、俺はどうもそういう曖昧なのは嫌いなんだ」
「黒崎は黒のナイト。ホタルは白のクイーンかな?」
「話聞いてんのか?」
「……あぁ、すまん。少しぼーっとしててな。それで? 要件は?」
「言わなくてもわかってるだろ」
「慌てる必要はない。そうだ、話をしようじゃないか」
「ッ。ユリはどこにいるのかって聞いてんだよ!!」
瞬きする。その一瞬で彼は須王の目の前にまで到達し拳を振りかざす。
「袋野ホタル。彼女は努力家だ。もともと武道を習っていたようだな。小学生の頃、両親が死に親戚に引き取られるも、育児放棄された。そして私がこちら側に引き取った。表では死んだことになってる」
拳が当たらない。軽々とよけられている。その間に脇腹へと鋭い蹴りを放たれ、死体の散らばる地面を転がった。腐った匂いがする。
「東城ラリア。彼には恋人がいた。大学生時代から付き合っていた恋人。ある日、彼女は壊れ始めた。危ない薬に手を出してしまったのだ。この時に出来た借金を彼女は東城に擦り付け逃亡してしまった。路頭に迷うとこを私が引き取った。その後、本人たっての希望で体をいじり能力者へとなった」
意味不明な話だ。しかし妙に耳に入る。全てがここで明かされる。そう確信してしまっているからか。しかし、何が明かされるのかなんてわからない。ただ、気になる。
「黒崎ケイトウ。彼は生まれた時から能力者だった。ただ、派手な能力じゃないからかそこまで騒がれはしなかった。しかし、亡霊のように見え隠れする彼を気味悪がり、全てが彼を拒絶した。あの時、黒崎は泣いてたよ。『なんでボクがこんな目にあわなくちゃいけないんだ』って。『ボクはただみんなと遊びたいだけなのに』って。絶望する彼を私は引き取った」
須王は続ける。
「夏川ツバキ。彼は家族愛に満ち溢れた少年だ。ただし、妹のみにだけね。両親が負っていた借金を返すためにきな臭い仕事を小学生辺りからやっていた。彼はもともとグレーな人物でね。犯罪に手を染めていたんだ。それも全て妹のため。借金の返済に関する交渉をし、私が引き取った。その後、彼は彼なりの決着をつけた。拷問をするような彼が両親を瞬殺したのは一種の親孝行なのだろうな」
須王はなおも続ける。
「鈴科ラン。彼女は世界一幸運で不幸な少女だ。生まれた時から能力を持ち全てを不幸にしていく。光の当たらない生活を送ってたのだろう。人としての尊厳のない世界で。そんな世界にある日光が差し込んだ。夏川ツバキという存在は彼女を奮い立たせた。その能力を見込み私が引き取った」
一度ため息をつく。ひと段落したな。そういう表情だった。話に引き込まれ動けずにいる彼のために須王はもう一度、話し始める。
「少年少女達は深い闇を抱えながらも精一杯生きている。……哀れだ。本当に彼らはこう思ってるんだろうか。自分達がこんなとこにいるのは不幸だったからって」
「……?」
「そんな都合よく優秀な人材がこっち側に落ちてくるわけないだろって意味だよ」
「……え? じゃあアイツらは……」
「全部シナリオ通りだ」
言葉が出ない。思考が停止してしまった。彼らは無理やりこんな世界に連れてこられたのか。何故彼らが不幸にならなければいけないのか。須王の目的とやらのための駒にされたのか。無理やり盤上に置かれて遊ばれていたのか。
手が震える。感情が抑えられない。
「須王……ッ。お前自分が何したのかわかってるのか……。みんなの未来を奪ってまでお前の目的は果たさなければいけないのか!?」
「当たり前だ。私の崇高な計画のための駒として使われて幸せだろう?」
「話しが通じないみたいだな……ッ。それなら、殺す!!」
シンプルかつ明確な宣言。素手のままで死体を飛び越えながら拳を打つ。
「残念ながら君の動きは当たらない。なぜなら君の動きは誘導された動きだからだ。どうあがいても当たらないさ。だって私の思い通りに君は動くのだから」
「なら頭を触って情報を盗み見れば!」
「そういう思考が誘導されていると何故気づかない?」
クスクスと笑い、彼の脇腹をもう一度蹴る。内蔵が圧迫され破裂しそうだった。歯が立たない。どうあがいてもその行動が誘導されたものだと証明するように、軽々しくよけられてしまう。指一本触れられない。
「く、そ……」
「諦めたまえ。本来君は夏川と相討ちでリタイアだったんだ。ここにいること自体少しだけ予定から外れてる。これは褒められることだぞ?」
「舐めてるんじゃねぇ……よっ!!」
「おぉっと、危ない。……いい加減気づいたらどうだ。君は所詮駒。棋士である私に歯向かえるとでも? 指で弾いたら盤上から落てしまうような存在なんだよ、君達は」
「うるせぇ!!」
「……ちょうどいい。少し実験しようか」
もはや、彼のことは気に止めない。チェスを楽しむように微笑む。須王は右腕のギプスをゆっくりと外す。白いギプスから白い肌が露になった。
奇妙な腕だった。左腕と比べて長さが違う。その他にも質感、爪の形、遠目から見ても華奢だ。須王の年齢にそぐわない、少女のような腕だった。
見覚えのある腕。あの腕はある少女のものと似てないか?
「おい、その腕…………なんでお前が……」
「察しの通り。私は鈴科を体に取り込んだ。鈴科の能力がどれほどのものか。検証してみよう」




