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革命⑥





 「あはっ……」



夏川ツバキではない誰かが笑う。夏川ツバキであればこういう状況であれば発狂していたであろう。しかし、夏川ツバキではない誰かは狂ったように笑い出す。それが自分は夏川ツバキではないと改めて知らしめる。



 「あははははははははははははははははははっ!!」


 「夏、川……? ど、どういうことだ? 私にもわかるように説明してくれ!?」


 「簡単なことだ。俺はピエロだったんだ。手の上で踊らされてただけなんだよ」


 「あ、あの手術衣は……?」


 「あれが本物の夏川ツバキだったんだよ。……はは。ほんっと俺って踊らされてただけなんだなぁ」



気軽な調子で。満面の笑みを浮かべながら夏川ツバキではない誰かは言う。



 「ぜーんぶ嘘だったんだよな。俺の気持ちも。そもそも俺の存在そのものが嘘みたいなもんだ。なんだよ、クローンって。人様の居場所を奪ってまで俺は生きてたのかよ。図々しい人生だよ、まったく……」




夏川ツバキではない誰かは大手を挙げておどけるように笑う。手術衣の男――夏川ツバキは表情を変えずに口を機械的に動かす。その様子を見るに彼も彼で精神がどこか壊れてしまっているようだった。



 「……ずっと俺は見てた。お前が俺の居場所を奪って、誰もそれに気づかなくてユリはお前のことをお兄ちゃんと呼ぶ。あぁ、俺ってこんなちっぽけだったんだなって。俺の代わりはいくらでもいるんだなって思ったよ。オイ、検体ナンバー46。………………俺の場所はお前にやる。その代わりユリは渡さない。わかったらさっさと失せろ」


 「……」


 「失せろって言っテンだろガ……ソノ汚い顔を見せるなぁ!」



夏川ツバキの様子がおかしい。目が赤く染まっていく。それどころか黒く黒く。血を紙に何度も染み込ませたような色になり、夏川の周囲に同色の黒い膜が展開される。



 「アァ……っ。俺の居場所ダッタのに。こんナポットでの奴にウバワレルノカ……嫌だ嫌だ嫌だ。ソコは……俺の居場所ダァ!! がぁ……っ。くそ、なんだこれ。俺は夏川ツバキだ。じゃああそこにいるのは誰なんだ。俺の顔で俺の声で生きてみんなから『夏川ツバキ』と認識されたらあれが夏川ツバキじゃないのか? ううん、違う違う。俺が僕が私が夏川ツバキ。そうそう、そうだよね。あれは夏川ツバキなんかじゃない俺の居場所をウバッタドロボウ……」



ぶつぶつぶつぶつ……とふらふらしながら独り言を呟く。夏川ではない誰かは放心状態。ホタルは状況について行けず慌てている。そんなことをしている間に夏川が近づいてくる。真っ黒に染め上げられた目で二人を正確に捉える。



 「ねぇ……返してよ返してくれるよね返せよ返せっつってんだよぉ!!」



シールドが肥大化し徐々に大きくなっていく。このペースではロビーを制圧してしまいホタルら共々潰されてしまう。


――ホタルは思う。こういう時に私は何もできない、と。


目をつぶり覚悟を決めたホタルの耳に



 「おやおや夏川くん。だいぶ狂ってしまってるな」


 「あれって人間として処理してええんか? 明らかにバケモノの領域に入ってへん?」



二人の奇妙な人物が現れた。一人は赤いヒーロースーツを着た芝居がかった口調が特徴か。もう一人は女子大生のようなカジュアルな服装の関西弁の女だった。これといって特徴がないのかと思ったが一つだけ見逃してはいけないものがあった。黒猫の仮面を着用していることだ。



 (クロネコ、だと……!? 何故ここに!?)


 「あぁ、お嬢ちゃん。そんな顔せんでええで。うちらはあんさんらの味方や」


 「無駄話をしている暇はない。夏川くんを止めよう」


 「はいはい。つーわけなんでお嬢ちゃん、そこのクローンくん連れてはよう行け」


 「……できません。私達にはやらないといけないことがあります」


 「ふーん……とりあえず夏川は引き受けるさかい、ここは任せてもらってええよ」


 「……どうも」




そういってホタルは夏川のクローンを連れて階段を登っていった。しっかりと見送ってヒーローとクロネコは夏川の前に立ちはだかる。



 「ジャマするってことは……殺シテモいいってコトダよね?」


 「あいにく私の正義はこの程度の悪では揺るがないんでな」


 「ウチとしては肉弾戦できひんから怖いんやけどな」



そういってクロネコは仮面を取る。そして目を合わせればいつの間にか昏倒するという伝説を打ち立てた目を見せびらかす。



 「あんさんみたいには『幻覚』は効くんかな?」


 「――っ!?」



クロネコと目があった瞬間、夏川が膝から崩れ落ちた。



 ◇


 ◇


 ◇ 





ヒーロー達が交戦している上の階。物陰で二人は座り込んでいた。夏川ではない誰かの気狂いもどうにか収まっていた。



 「はぁ……はぁ……なんとか逃げ切れた。怪我はないか?」


 「なんとかな……迷惑かけてすまん」


 「いいよ、このぐらい。じゃあ、これからどうする?」


 「俺は……ユリを助けに行きたい。嘘の塊みたいな俺に微笑みかけてくれたんだ。俺の全てが嘘だとしてもアイツを想う気持ちは変わらない。…………須王だ。アイツに吐かせれば場所はわかるはずだ」


 「そうだな、それが手っ取り早く済む」


 「だけど問題は黒崎だ。専門が狙撃だといっても近接戦闘での『姿を消す能力』は厄介だ。死角からやられる可能性もある」


 「……黒崎は私が引き受けよう」


 「勝算はあるのか?」


 「捨て身の策になるかもしれない。しかしやるだけやってみよう」


 「……わかった」



彼らは立ち上がると拳をぶつけ合い走り出す。



 「……行くぞ」


 「これで終わりにしてやる……っ」






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