革命⑤
吐くかと思った。そもそも同年代の、それも女の子がバイクを運転するなんて嫌な感じがしていたのだ。内蔵がかき乱された気分だ。
「おぇ……」
「着いたぞ、ヒカリ製薬本社。『革命軍』は他社の能力者や天才を襲いに行っているはずだ。ここが拠点だが構成員は少ないはずだ」
「じゃあここに須王も……。ユリのことを吐いてもらわないとな」
「生き込んでいるとこ悪いのだが、素手では心もとないだろう。……ちゃちなもんだが持ってけ」
ホタルは折りたたみナイフを二本投げつける。彼はそれを無言で受け取るとヒカリ製薬本社へと再度入っていった。
◇
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ヒカリ製薬内。玄関すぐの受付などがあるコンビニ二つ分ほどの大きさのロビーで警護をしていた革命軍と交戦していた。
拳を握って革命軍の人間達を蹴散らしていく。時折、ホタルの武術を使い自分よりも肉弾戦なら格上であろう構成員らを宙に浮かせ、頭に触れて『経験』を見てからとどめにナイフで心臓を突き刺していく。
返り血を拭いながらホタルの方を見てみれば呆れた表情でため息していた。
「さっきから頭を触っているが何をしているんだ?」
「お前にしたみたいに『戦闘の経験』を共有して奪ってんの」
「ゲスだな」
そう会話している間に襲ってくる構成員を片手間で倒していく。彼の動きは既に素人の動きではなく、長年軍隊で戦闘訓練しているかのような動きだった。集めた知識から有用なものだけ学習し体になじませる。能力と才能。どちらかが欠けていてはできない芸当だ。
「それよりも監視カメラもあるし、これだけ構成員も来てるんだ。須王も俺らのこと知ってんだろ」
「私が裏切ったこともバレてるだろうな。クソ……貴様さえいなければこんなことには」
「俺だってユリが誘拐されてなきゃこんなことしてねぇよ、バァカ!」
口論になる二人をよそに、エレベーターの軽快な電子音がぽーん、となった。怪訝な顔をしてそちらを見てみれば、奇妙な風貌の男か女かもわからないような人間が出てきた。線が異常に細く、髪は不自然に灰色で肩甲骨まで伸びている。手術衣のサイズがあってないのか腕が全て見えなかった。見た目はギリギリ人間なのだが、なんとなく何かが欠けている気がする。
顔を隠す髪の隙間から見える目には瞳の色がない。厳密には白く濁っているのだが遠目では分からない。ただ、関わっては行けないような人物だとはわかった。身構える二人の数十メートル前でその人物は足を止めた。
「……いいご身分だな」
「あ? なんだ、お前。ゾンビみたいななりしやがって」
「ウザイんだよ……」
「……?」
「その声でその顔でその性格で生きてるんじゃねぇよ……ッ」
突然、体の前半分に衝撃が走る。壁に衝突したような衝撃だった。後ろに弾き飛ばされ地面に這い蹲る。
(な、何が起きた!? 能力者か……!)
隣には同じように吹き飛ばされたホタルが這い蹲っていた。
「あれ……誰だ。明らかにヒカリの人間じゃないだろ」
歯噛みする二人をよそに手術衣を来た人物がこちらに近づいてくる。危険を察知した二人はアイコンタクトを取り、跳ね起きる。それぞれ左右に駆け出し、ナイフと拳をそれぞれ構える。そして全力で振り下ろす。彼は確実に心臓を狙った。対してホタルは顔面を狙い意識を刈り取るつもりだった。しかし、阻まれる。手術衣の男を取り囲む『黒い膜』に。灰色の髪の間から白く濁った目があったはずなのに今は赤黒い瞳が見える。能力使用時になるのだろうか。
「……このシールドはお前みたいなゴミ虫から大切なものを守るためにあるものだ。そんな小さな獲物で破れるわけないだろ……」
クソッ、と言い捨てて再び距離を取る。
(ドーム状のシールド。見た目とかは違うみたいだけど性質ヒーロースーツと似てるな……。突破は不可能か)
舌打ちをして手首を回す。先ほどのシールドとの衝突で少しひねってしまった。しかし、そんな小さなことを気にしてはいられない。
(クソ、あの手術位の裾が長いせいで手に武器持ってるかもわかんねぇ……状況は最悪だ)
手術衣を着た人物は彼ら二人の狼狽する姿を見て一切反応はない。ただただ、一歩ずつ歩みをすすめる。迷いもなく一歩ずつ。一歩ずつ。妙に歩きにくそうなのは何故だろうか。どことなくバランスを取れていない気がする。ホタルは首をかしげながら手術衣の人物の話した言葉を思い出していた。内容ではなく、声。あの声は聞いたことがある。
「まさか…………でも、どうして…………同じ声なんだ?」
「ホタル? ………………あぁ、そうか、そういうことかよ。……お前が俺のクローンなんだな?」
「クローン……? なんでそんなものが……」
「……あるらしいんだよ。悪趣味だ」
手術衣の人物は答えない。
「その能力もクスリで発現させてるらしいじゃねぇか。……楽しいかよ、勝手に人の顔を使って勝手に人の声を使って勝手に人の人格を使ってんじゃねぇよ!!」
手術衣の人物は答えない。
「答えたらどうなんだよ、オイ」
手術衣は人物は答えない。
その代わりに自身の全容を証した。『左手』で髪をかき揚げ顔が全て見るようにして、左手で右肩付近の手術衣を掴み、左手で手術衣をそのまま破った。
左手で。左手で。左手で。左手で。左手で。左手で。
「………………ぁ?」
左手で。左手で。左手で。左手で。左手で。左手で。
「………………んで……?」
左手で破った手術衣の下には右腕がなかった。右腕が無いなんてまるで。何故か右腕のある自分とは違い、アパートの瓦礫を防ぐチカラのない自分とは違い、右腕が記憶通りなく瓦礫を受け止めることのできる能力のある彼の方が『夏川ツバキ』としてらしくはないだろうか?




