革命④
ヒカリ製薬本社。重鎮達の会議で使用される部屋の本来ならばトップである須王バイモが座るべき椅子に須王アザミは腰掛けていた。いつものモノクロドレスに右手には部下からの情報を集めるためのケータイによく似た精密機械が握られている。須王アザミがトップの椅子に座るのに文句を言うものは一人もいなかった。死人に口なし。それが簡単な理由だ。
傍らには覇気のない黒崎が佇んでいる。
「ホタルがうらぎったみたいだね」
「予定通りだ。東城も順調に処分できそうだ。あの男は例の彼女さんをちらつかせると簡単に落てしまうんだから。この辺は夏川と似ているな。似た者同士気があっていたのか?」
「すずしなの方は? そもそもあれってころせるの? 近づいたらアウトだよ」
「もうそれは片付いたさ。それにきちんと予定通り利用もしている」
「?」
「人間だから不幸になる。それならば機械でやればいい。不幸な『誤作動』のないシンプルな機械でね。ただ、彼女の能力はここで失うのは惜しい。……もともとこのために捕獲したのだからこういう言い方はおかしいのか」
右腕のギプスを左手でさすりながら気軽な調子で言う。
「さてと、もうそろそろ本命を投下して戦場をかき回してやろうか」
「ほんめい?」
黒崎が聞き返した。それに須王アザミは冷たい笑みで答え精密機械の何らかのパスワードを打ち込む。
「怪物を倒すにはやっぱり怪物の力が一番だ。そう思うだろ、黒崎」
精密機械に監視カメラから送られている映像が映る。
会議室と同じ階層。誰も使用していない部屋の鍵が開いた。部屋の中には草木が生い茂るように機械が散りばめられている。その中央。巨大なビーカーによく似たガラスの筒から怪物が放たれた。肩甲骨まで伸びた、不自然な灰色の髪。体の線は病的にまで細く足はふらついている。性別や年齢の判別は付かず、人間なのかと疑うような雰囲気を醸し出す。そしてもっとも不気味であるのはその目。長い髪の隙間から覗く目には、本来黒や茶色である瞳があるべき場所に、白く濁ったものがあるだけだった。
人間のシルエットとしては何かが欠けていた。
『………………』
須王アザミはその怪物に精密機械を通して怪物に話しかける。
「やぁ、調子はどうかな?」
『………………』
「まぁ、いいさ。私の言いたいことはわかるだろう? 侵入者を殺せ。それだけだ」
『………………』
怪物は実験でもされていたのか手術衣のまま、対象へと進撃を開始する。
黒崎は怪訝な顔をして、その様子を画面越しに見ていた。
「アザミさん、あれは……」
「……君は気にしなくていい」
「それにその腕のけが。アザミさんがけがをしたなんてぼくはきいてない」
「黒崎」
「なにかかくしていませんか? ホタルのうらぎりだってどうかんがえてもふしぜ――」
「黒崎」
大人の女性特有のドスの効いた声だった。大きいわけではなく、声そのものに圧倒する力がある。黒崎はそれにしゅんとしてウジウジしながら部屋の隅っこで猫のようにいじけていた。




