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革命②









一方、ヒカリ製薬襲撃犯達はヒカリ製薬の寮に来ていた。


そこで、見たものは。




 「………………………………あ?」



目の奥が熱くなるのを感じた。ヒカリの寮の前で、それも自分の住む階層でこんな光景を見るとは夢にも思っていなかった。ぐちゃぐちゃになり原型すら留めない死体が軽く十を超える。ある死体は腕がもがれ、またある死体は顔の皮膚が剥がされていた。その死体の山の上に君臨する男。ヒーローと同じ『赤』を持ちながら全く逆の性質を持つ男。



 「よぉ、夏川クン。おかえり」


 「……ぁ」


 「コイツさぁすこーし下手に出てやったら調子乗りやがったんでね、制裁を加えて殺ったんだよ」


 「………………この階にはユリがいるんだぞ………………」


 「はぁ? 知らねぇよ、んなこと」


 「そうかそうか…………」



舌なめずりする烏川を睨み、彼は一歩前に出る。



 「重罪だぞ……ッ」


 「っ」



彼は走りながら姿勢を落とし、地面に散らばる死体の欠片を手に取り烏川の顔に投げつけた。一瞬怯むも一度後ろに態勢を立て直す。しかしその烏川の行動はあまりにも予想通り過ぎた。彼が行ったことは簡単だ。後ろに下がることで、その方向に慣性がかかる烏川の体にタックルを叩き込む。バランスを崩し倒れ込んだところを喉笛目掛けて肘を打とうと構えた。そこで、ヒーローに手を掴まれ、止められた。



 「やめろ。こんな『正義』の欠片もない小物のためにわざわざ手を汚す必要もない」


 「小物だぁ? うるせぇうるせぇうるせぇんだよぉ!! 知ったような口聞きやがってコスプレ野郎!!」



喚く口目掛けてヒーローは軽く拳を叩き込んだ。歯が飛び散り意識も刈り取られる。全力で殴っていれば顔の厚さが変わっていたことだろう。



 「……相変わらず気持ち悪いことしゃべりやがって」


 「この前みたいに殺しにこないってことは私を認めてくれたんだろ? うん?」


 「チッ……っと烏川、ケータイ借りるぞ」



気絶した烏川の服を探り、ケータイを奪う。誰がこんなことを依頼したのか。烏川単体であれば烏川の気まぐれで済ませていいのだが、倒れている死体の顔に幾つか見覚えがあるのがいる。もしかしたら、誰かの依頼であるという可能性があるのだ。適当にメール欄を覗く。そこに見逃せない内容が書かれていた。



 「ユリを、殺す……な、なんのために……」


 「待て。じゃあここに転がっている奴らは仲間同士なのか?」


 「この赤髪は『そういう』ことをする奴なんだ。それよりも……ッ」



走って自室へと向かう。ドアノブに手をかけてみればかけてあったはずの鍵が掛かっていなかった。喉の奥が乾くのを感じた。全身の水分が放出されていく。妹の名前を叫んでみても答える者はいなかった。



 「………………………………そっか」



彼は自分の中で熱い物が湧き上がるのを感じた。


それは涙でもなく吐瀉物でもなく叫びでもない。



ぐちゃぐちゃに塗り固められた感情が全てを狂わせていく。



 「あははははははははははははっ」


 「ど……うしたんだ……。笑ってる場合じゃないだろう!?」


 「くくっ。…………ぜーんぶわかっちまった」


 「っ?」


 「さっき烏川のケータイにあったユリの殺害依頼のアドレスと俺にユリの写真を送りつけて脅迫の真似事をしたアドレスは同じ。二人のアドレスを確実に知りえる人物。いいや、組織というべきか……そいつを潰せばいいわけだ……そうすればユリは俺の元に戻る」



狂気に満ちた笑みで宣言する。


…………いつの間にか夏川の部屋の前まで来ていた武装構成員に対して。



 「ヒカリ製薬さんよぉ……覚悟できてるんだよなぁ? 『殺してもらえる』とか思ってんじゃねぇぞ……」


 

ドンッ!!と勢いよく踏み込みパワードスーツを着て、黒い棍棒をもつ武装構成員の手首を掴む。武装構成員は慌てて振り払おうとするがそれが仇となった。意識が手を振り払うことだけになったのを見計らい、反対側の手の指をヘルメットとパワードスーツの間に滑り込ませヘルメットをこじ開ける。



 「ブッサイクな面しやがって……」



あらわになった頭に手を触れる。この行動は『感覚を共有する』能力を発動させるためのキーのようなものだ。共有した感覚の中で彼はその天才的な思考速度で適当な計算をしてみせた。



 「あぎゃぎゃぎゃ!?」



途端、武装構成員の全身のチカラが抜けていく。電池の切れた人形にも見える挙動だった。行ったことは単純に適当に物事を考えただけだ。しかし、その思考速度は天才のそれ。常人がそれを体験すれば脳がそちらの計算に集中してしまい、他の器官の機能が一時的に止まる。その隙は殺し合いの中ではあってはならないものだ。彼は満足げな笑みを浮かべ、一度部屋に戻る。数秒後、どこにでもある接着剤を持ってきた。武装構成員の頬を何度か叩き、そして目覚めさせる。



 「……ユリを誘拐した罰だ。今からこの接着剤を目、耳、鼻、口の順に流し込む」


 「や、やめっ」


 「こんな仕事をさせる上司を恨むんだな」


 「あ……っ!? 無理無理無理。お願いしますお願いしますお願いします、なんでもしゃべりますから命だけはぁ!!」


 「なぁに言ってんの。命だけは? オマエの命なんてそのへんの石ころ以下だろうが。石ころを蹴飛ばすよりも気軽に楽しんでやるよ。……まずは目だ」


 「ばっ、あぁ!?」



そしてゆっくりと全ての処刑を済ませる。拷問とは情報を引き出すことと別の用途がある。罪を犯したものへの罰だ。ぐちゃぐちゃの笑みを浮かべながら彼はヒーローの方へと振り返る。



 「コイツの頭ん中の記憶は全部見た。殺すべき相手もわかった……」


 「……私はこれ以上手伝わないぞ。君はすでに私の正義から外れている」


 「あぁ、そう……」


 「夏川……無事だったのか!?」



不意に声が聞こえた。そちらを見てみれば金髪の相棒が焦った顔で走ってきている。



 「東城……お前も生きてたのか」


 「まぁな。それよりも須王さんがヒカリ製薬の暗部組全員にメールを送信してるの見たか!?」


 「まだ、確認してない」


 「そうかよ、じゃあ教えてやる! 須王さん率いる『革命軍』は才能のある奴ら。つまり能力者達を殲滅するらしい。矛盾してるが『カゲナシ』もいやがるし、お前も危ない! 逃げようぜ早く!!」


 「…………そうか……」



武装構成員が持っていた棍棒を手に取る。全長2mほどある細い棒に土管が取り付けられたようなデザインだった。見た目よりも重くない。材質からして『メタルボディ』から作られた武器なのだろう。両手で持ち素振りをする。



 「……で? お前はどこの誰だよ」


 「はぁ!? こんな時に冗談はやめろ、命がかかってんだぞ!」


 「ばぁか。東城は『須王』のことをアザミちゃんって呼ぶんだよ」


 「…………あらぁ?」



数秒の間。


東城の態度が急変し顔の皮を剥ぎ出した。能力なのか、それともそういう技術なのか。中から出てきたのは妙齢の女性でどこか艶っぽい感じを思わせる。



 「須王さんからあなたを襲撃するように言われてたけどこんなにあっさりバレるなんてねぇ。正直、正面で向かい合ったら勝てる自信はないわ」


 「なら……どけ!!」


 「そうはいかないのよ」




三人と死体しかなかったはずなのにいつの間にかヒカリの構成員に取り囲まれていた。全員ニタニタ笑いをしていて非情に気味が悪い。



 「……一体俺になんのようだってんだ。いちいち東城に変装しやがって」


 「あなたのような『才能』を持った子はここで殺さないといけないでしょう? 世界はいつも平等でなくてはならないのだから!!」


 「話が……噛み合わねぇ!!」


 「なっつー、ここは私が引き受けよう。君はユリちゃんを助け出すべきだ。……正直私の正義と反しているがここは君を逃がすのが先決だ」


 「あららぁ? 最近噂の『ヒーロー』さんじゃありませんか。どこに所属しているのかもわからない。『クロネコ』や『正義の味方』といったレベルの都市伝説にここで会えるなんて……感激」


 「マダム、うっとりしてるとこ悪いが道を開けてもらおうか」


 「うふふ。この人数を相手にするというの? 無理に決まって――」



女が言い終わる直前。ユリを助け出すために走りだした彼を止めるために、足止めする構成員らを爆風が襲った。構成員らは吹き飛ばされ寮の外へとゴミのように落ちていく。ヒーローは『素振りした拳』を収める。



 「道を、開けろといっている」 



ヒーローはもう一度拳を振るう。爆音が響く中、ユリ救出のために走っていく。






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