夏川ツバキ④
よくわからない能力者とやらを捕獲するため、とあるビルにやってきた。辺りは真っ暗。大人でも寝てるような時間だ。
夏川は腰につけた拳銃と他の凶器を入れたバッグを邪魔そうに歩いている。
「真正面からはいっていっちゃっていいんですか?」
「敬語禁止」
「あ」
東城はまたもケラケラと笑いながら
「多分大丈夫だろ。ちっちゃい組織だし、拳銃持ってるかどうかも怪しいな」
東城はガラス貼りの扉に手をつけてニヤリと笑う。
「そんじゃ行きますか」
「え?ちょ、何する――」
ゴッシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!っと扉が左手から勢いよく噴出された海水に押されて折曲っていく。
「これ……弁償どうすんですか?」
「……弁償なんてするわけねぇだろ。今から不法侵入するんだから」
二人の価値観がすれ違うまま、ビルの中へと進む。
パパパパン!!と廊下角から発砲音が聞こえた。
「オイオイオイ!?普通に拳銃持ってんじゃないですかぁ!?」
「文句言ってないで隠れろよ!バカ!!」
東城は夏川を突き飛ばして角に隠れる。左手から武器を取り出すとそれを発砲音がする方へヒョイっと投げた。
「えっ!?今のって……」
「爆弾」
なっ……という夏川の声は当然かき消された。
真っ赤な炎が廊下を席巻する。何人いるのかもわからない敵達を問答無用になぎ倒していった。
当の二人は既に全力疾走で逃げていた。
「……ッ!?」
「殺す気できてんだから殺されても文句は言えないでしょ」
夏川は改めて実感する。
ここは普通じゃない。
そんな時だった。唐突に東城のケータイがなった。東城は慌ててポケットからそれを取り出すと、通話相手を見てげんなりする。
「うげ……アザミちゃん……」
夏川はそんな顔を無視して走り続ける。東城は嫌な顔をしながらもケータイを耳に当てた。その間も夏川の心臓は張り切れそうにバクバクしている。
「ど、どうされました?」
『お前らは何やってんだ!?』
「何って……かく乱ですけど」
『バ・カ・ヤ・ロ・ウ!お前らがやってるのはかく乱じゃなくて強襲だ!!』
もう一度東城がうんざりとした、その時だった。
ミシィ!!!と壁が歪み、敗れたのだ。原因はスキンヘッドの男。壁の反対側から突進してきたのか。夏川が唖然としている隙に、東城がその男のタックルに吹き飛ばされた。
すっかり瓦礫と山となった壁のゴミから、そのスキンヘッドの男は態勢を立て直し、首をコキリと鳴らした。
「あー……なんだ。抵抗すんのは無駄だから」
夏川は震える手で腰に取り付けている拳銃を取り出し、容赦なく発砲する。
「なんだなんだ?見たところ素人っぽいのに……容赦ないな」
無傷。傷一つない。そして夏川は思い出した。東城が口走っていた能力者という存在を。
(拳銃が効かないって……どういうことだ!?)
夏川はひとまず逃げることにした。この男は能力自体が凶器だ。それなら恐らく拳銃などのありふれた凶器は持っていないのだろうと考えたのだ。
それよりも夏川には考えるべきことがある。それはこのスキンヘッドの能力だ。夏川は今まで一人しか能力者を見たことがない。だから、能力にはどんな種類があるのかわからないのだ。逆に言ってしまえば、能力のネタが解かれば突破できる可能性もある。
ここが生死の境界線。
夏川の脳が生き延びるために、フル回転していく。