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ヒカリ製薬①



 「やぁ、夏川君。調子はどうだい?」


 「良くも悪くもないですよ」



キャンピングカーが都会特有の混雑した道路を進む。ヒカリに雇われた運転手は親戚とでも喋るように口を開く。誰にでもこの調子だ。烏川や鈴科といった規格外とでも同じ態度をとるのだろう。それが運転手のスタンスだった。


レポートを読み終えた彼は寮を出て、運転手に接触していた。あるところへ行って欲しいと。



 「それにしてもヒカリの本社に行きたいだなんてもの好きだねぇ。ま、確かに上層階では東城がいつも使ってるような『試作品』が作られてるみたいだし、興味を持つのも無理はないか。君は頭も相当いいだろうしちょーっとだけ勉強すれば、作成チームに入れてもらえるかもね」


 「そうなんです。俺って結構爆薬とか色々使うから手になじむものが欲しくて」



などと口では言っておく。本当の目的は、自分がヒカリの病院に入院している間、何があったのか。それを解明したいだけだ。もしかしたら何もないかもしれない。杞憂で終わるかもしれない。それならそれでいい。これはいわば確認作業みたいなものなのだ。



 「そういえば夏川君、妹さんいたよね?」


 「えぇ、はい」


 「可愛い娘だったねぇ。大事にしなよ? あんな可愛い娘、いつ誘拐されるかわかったもんじゃない」


 「……させませんよ。したやつがいたら、そうですね。生きたまま全裸で大気圏突入ぐらいやってもらいましょうか」


 「はは。……それ冗談だよね?」



何も言わずニッコリスマイルで返してみればもう、運転手の口を開くことはなかった。



 ◇


 ◇


 ◇



ギラギラと輝く太陽を覆い隠すビル郡の中で、凛と立つのはヒカリ本社のビル。キャンピングカーから降りた彼は周りに馴染むようにスーツを着ている。運転手の男が缶コーヒーを片手にビルを指指す。



 「あれがヒカリの本社だ。当然『こっち側』じゃないやつもいるから、っていうかそっちの方が多いから気をつけろよ。はい、これ。社員証」


 「ども。……あと、このこと内緒にしてもらっていいですか。アザミさんには知られたくないんで」


 「どうしてだい?」


 「……色々あるんですよ、こっちにも」



頭を掻きながら苦笑いする彼を見て、運転手は人差し指を立てた。



 「貸一。今度飯でもおごってくれや」


 「回転寿司にでも行きます?」


 「できれば回らない寿司がいいなぁ、なんて」


 「おぉ……そもそも俺寿司食ったことないんでよくわかんないです」


 「じゃ、なおさらだな。あー、ユリちゃんも連れて来てもいいぞ」


 「ありがとうございます」



それじゃ、と静かにキャンピングカーは都会の車道へと紛れていく。愛想笑いしなくてもいいぐらいの知り合いが増えてよかった。もらった社員証を手で弄びながら周囲を見渡す。平日の昼前だというのに忙しなく蠢く人の群れは、働きアリにしか見えなかった。土の上でせっせと働くアリ達。その地中深くで彼は、自分へと何があったのかを確かめるためにヒカリ本社ビルへと侵入する。




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