生還②
何かがおかしい。能力のことも、右腕のことも。そう考えはしたものの一度自部屋へと帰宅した。ユリにまた心配をかけてしまった。薄暗いリビングでうとうとと眠気と奮闘しているユリがいた。現在の時間はまだ老人達も起きてないような早朝だ。ユリは待ってくれたのだ。自分の帰りを。
「おにいちゃん……おかえり……」
「遅くなってゴメンな。ご飯足りたか?」
「うん。大丈夫……」
今にも眠ってしまいそうな妹の姿に心が洗われる。優しく、ぎゅっと、抱き寄せる。
「どうしたの?」
「ユリ、お前はお兄ちゃんが絶対守るからな。安心して眠っていいんだぞ」
ぎゅっと、優しく。
手放すことのないように。
◇
◇
◇
ユリを布団へと連れて寝しつけたあと、簡単に朝食と夕食を作る。ユリが小学校に行くようになってから給食になったのでだいぶ家事は楽になった。
エプロンを外し、ラップを貼った皿の上に『朝食』とメモ用紙を置いておく。そしてソファに身を投げ出した。
(ヒカリ製薬御用達の病院ってすごいなー……すぐ退院できたのはラッキーだけど……
右腕があるのは説明つかない。傷一つないし、そもそも銃創も……)
右腕を摩りながら須王からもらったレポートを手に取る。
夏川ツバキの発現した能力について。
能力には様々な発現方法が挙げられる。鈴科ランや黒崎ケイトウのような生まれつきある『才能型』。東城ラリアのような人体改造による『強制発現型』。他にも『後天的才能型』があるが、夏川ツバキはこれには当てはまらないと思われる。(コードネームリストに登録されている人物達の発現方法については別記事参照)
火事場の馬鹿力のような、限界に達した環境を突破するために発現したものと思われる。言うならば、一世代の進化といったところか。生物が環境に合わせて長い年月をかけて遂げた進化を極めて簡易的に『夏川ツバキ』という個体のみで行っていると思われる。(『進化』の仕組みについては別記事参照)
「東城何やってんだよ……」
相棒の金髪を思いだし項垂れつつもレポートからは目を背けない。興味もある。まぁ、自分のこれからの人生に嫌でも食い込んでくる、ということもあるのだが。
ページをめくり恐ろしいほどのスピードで読破していく。極めて簡易的で、しかし普通ではありえない進化。『デパートの倒壊』という状況下で生み出された『デパートの倒壊』を逃れるための進化。それが夏川ツバキの能力、ということだった。
しかし、再度こう思う。感覚の共有なんて能力でデパートの倒壊を逃れられるのか?
「何か、ある」
レポートを第三者に見られぬように棚からシュレッダーを取り出し、切り刻んでいく。
「俺の知らない何かがある」
彼はほぼ無意識のうちに外へのドアを開けていた。また、ユリを置いて。




