VSテロリスト③
途中で何人ものテロリストに遭遇した。しかし、ものをいうのは実力と経験の差か。難なく4階へと到達していた。
その時だった。ひゅぅぅぅん……と花火を打ち上げたときにする音が聞こえた。
一瞬の出来事。
二人の目の前に赤い何かが着弾した。
ゴッ――!!と着地した衝撃で辺りのものは次々に蹴散らされていく。二人も床にしがみつくのが精一杯だった。
窓を割り外から侵入してきた『そいつ』は砂煙に隠れて見えない。
「天下の往来でテロなど、この俺が黙ってられると思ったか?」
聞き覚えのない声。妙に芝居がかった口調で喋る。
警察か?テロリストの仲間か?
そう考える夏川の視界がようやく晴れてきた。砂煙に徐々に切れ目が入っていく。
「……あ?」
間抜けな声を上げてしまった。あまりにありえない光景に呆然としてしまった。
襲撃者がとてつもない凶器を持っていたとか、バカみたいな体をしていたわけではない。
あまりにも状況とミスマッチ。
なぜならその男はヒーローショーで見るような安っぽい色の赤いヒーロースーツを来ていたのだから。
「ふざけてんのか、オマエ……」
「フハハ! 俺がふざけてるだって?そんな意見は馬鹿げてる。なぜなら俺はヒーローだからさっ」
ヒーロースーツのマスクのせいで顔は見えないし、表情も読み取れないが直感でわかる。相当頭が悪そうだ。正直相手にしたくない。だが、自称ヒーローはやるき満々だ。
「ヒーローさんよぉ、俺達の邪魔するってなら……覚悟しろよ」
夏川がそう言い切らないうちに東城が近づき空気を放つ。キュガッと放出された空気圧は、安っぽいヒーロースーツなどしわくちゃに
などしなかった。
無傷。
身じろぎすらしない。
「まぁ、さっきのはちょっと言いすぎたかな? でも、俺は本気でヒーローになりたいんだよ。昔からの夢だからね」
自称ヒーローは何事もなかったように話し出す。真意が読めない。
人差し指と親指を伸ばし銃の形にするとばぁんと口で言って夏川らにジェスチャーしてみせた。
「……とまぁ、ヒーローはヒーローらしく頑張っちゃうことにするから」
突如。自称ヒーローの姿がブレた。また、目眩かと思ったがそうではない。視界から赤が消えたかと思うと『真正面』から拳が飛んできた。
ギリギリのところで地面を蹴り床を転がる。その間に『散弾銃』を用意する。まだ、爆破はできない。接近戦でこんなものを使えばどうなるかなんて考えたくもない。今、使うべきはこれだ。
試作品の拳銃を懐から素早くだし、トリガーを引く。発砲音に備え神経を尖らせていた。自称ヒーローは身構えるような姿勢は見せないが多少動きが止まる。そこで夏川は気づいた。
弾が出ない。
――失敗作か!?
喉の奥が干上がっていく。体全体が緊急信号を発する。
まずい。
その言葉が脳を侵食していく。
カチッと、言う音が聞こえた。歯車が噛み合い、回転するような。
気づいたときには、もう、手遅れ。
それは拳銃のものというよりも大砲に近い。そう感じさせる爆音だった。
反動で夏川の体はひっくり帰り、転がっていく。舌を噛みそうになるのをなんとかこらえた。
「やったか……?」
手と耳のしびれる感覚を押さえ込みながら立ち上がる。そしてまた、彼は驚くことになる。
まったくの無傷。
それどころか自称ヒーローはまたも身じろぎ一つしない。まるで何事もなかったかのように君臨している。
まるで、それが自分の正義だというように。
自分のは信念はここまであるのだと、言い聞かせるように。
「……っ」
ギリギリ……っと硬いものが擦れる。その音の正体が自分の歯ぎしりだとわかるのには時間がかかった。
この男は自分にはできないことができる。
この男にはヒーローだと、名乗れるだけの何かがある。
それだけでよかった。
嫉妬が殺意に変わるのには。
「夏川! バカ、やめろ!!」
そんな東城の言葉はもう、聞こえなかった。なりふり構っていられない。
この自称ヒーローを殺さないと自分が否定される気がする。
……本当にただの嫉妬だ。自分はユリをこの裏側の世界に入るという『汚い手』で養ってきた。それは決して胸の張れる行為じゃない。頑張って自分に言い聞かせてきた。これは正しい行為だと。仕方ないんだと。
でも、自分がヒーローだったのなら。
もっと、ユリを幸せな世界に投じられたのかもしれないのだから。
「ッ!?」
自称ヒーローがここで始めて後退した。音の攻撃とも言えるものが原因だ。
獣の咆哮よりも勇ましく、獣の断末魔よりも虚しい叫びが耳に突き刺さる。
身を後ろに捻らせて、天を仰ぐ。叫ぶ夏川の全てが嫉妬に飲み込まれていく。
「――っ!! ――ッ!?」
東城の声など聞こえない。そんなことに脳を使うなどもったいない。やるべきはこの『天敵』とも呼べる存在を抹殺すること。
先ほどの試作品の拳銃の引き金を容赦なく引く。歯車の音が鳴り、銃弾が飛び出す、瞬間。夏川の体が横なぎに吹き飛んでいった。
倒れこむ夏川だったが、ダメージはそれほどない。『メタルボディ』のチョッキがあったからだ。しかし、服の上からも分かるほど防弾チョッキの性能は劣化していた。今の一発で硬質化する何かがなくなってしまったのか。
そして夏川を攻撃してきたのは自称ヒーローでもましてや東城でもない。
「その装備……特殊部隊ってやつか!?」
隊列を組み、階段から並んでいるのが見える。全員が藍色の鎧とも呼べそうな服を身にまとい顔をヘルメットで覆ってライフルを構えている。一般的には公表されない『犯人の殺害を目的』とされた部隊。
東城は噂で聞いたことがった。
Dead or alive。生死問わず。
それが由来の非公開の警察組織の中でも極めて異質な部隊。
略して『DOA』の存在を。全員のヘルメットにその文字が書かれている。 一番先頭にいる人物の持つライフルの銃口からゆらゆらと煙が出ていた。
「貴様ら、テロリストに次ぐ。武器を置いて投降しろ。既に人質は開放された。我々の命令に従わない場合は殺害命令が出ている」
「……がって……」
「何?」
「邪魔しやがって……ッ!!」
夏川の銃口がDOAへと向く。コイツらなど眼中にない。羽音のうるさい虫だ。
そんなものなら蹴散らしてやる。
引き金を、引く。
「クソクソクソっ!!」
ガクンっ!と体を後ろに引っ張られ照準が逸れた。歯噛みする夏川を横目に東城が左手から出したスタングレネードが唸りをあげる。
キュガッ――!!と光と音が場を席巻する。逃げるには階段を通る必要がある。DOAのいる階段へと。巻き込まれて目と耳が一時的に潰された夏川の首根っこを掴み金髪を揺らしながら、DOAを蹴散らし階段を降りていく。
半ばゴリ押しに行われた突破作戦。そう簡単に成功するわけなかった。
ひとまず階段を駆け上がりながらDOAへと向けてヒカリ製薬製の極めてスタンダードな爆弾を投げつけておく。




