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夏川ツバキ③


先ほどの騒動が終わった後、夏川は同建物内の『楽屋』と呼ばれる場所に連れてこられた。そこはスポーツジムのような内装だった



 「おや、新入り君かな?」


 「あ、どもっす……」



先客がいた。年は須王と同じぐらいだろうか。逆立つ金髪に染めた髪はどことなくライオンをイメージさせる。顔も同様だ。


それ以上に目に留まるのは体格。



 「……どうした?ホモはお断りなんだけど」


 「い、いえ……」



 (どういうトレーニングをしたらこんな体になるんだ!?アスリートっつぅレベルじゃないぞ!?)



スレンダーに見えて以上なまでの筋肉。ボクサーなどをイメージすればよいだろうか?


夏川の考えが視線から分かったのかその男はニヤリと笑い



 「ここの『会社』じゃこんくらい普通だと思うぜ?ここで鍛えたりちょろっとクスリ入れたりさ」


 「普通……?何ですか?っていうかこの『会社』って何するところなんですか?」


 「オイオイ……仕事内容も聞かずに入社したのかよ。もしかして金目当てか?」


 

はは……と夏川は頭を掻く。やれやれといった様子でその男は手を振ると



 「俗に言う、社会じゃ犯罪と呼ばれることかな?」


 「……は?」


 「簡単に言えば……」




 「殺し、とかかな?」






 「こ、殺し……?」


 「うん、よく周り見ろよ」



そう言われて当たりを見渡せば、凶器、凶器、凶器。口が乾いていく。



 「んな……やれるわけないだろ!」



逃げ出そうとする夏川の手を男は掴む。恐怖に染められた夏川の顔とは対照的に男は極めて爽やかだった。



 「自己紹介がまだだったな。東城ラリア。お前の監視役だ」


 「……っ」



手を振りほどこうとするが東城は微動だにしない。握られている手首が嫌な音をたてる。それに表情を歪ませると東城は適当に謝りながら手を離した。



そして、夏川のケータイを指差す。



 「妹いるんだろ?連絡しとけ」


 「……」


 「大丈夫、大丈夫。運がよければ生き残れるって」


 「ここで……ここで俺が死んだら妹を誰も守れなくなるんだよ!」


 「生き延びれば守れるだろ?」



言葉が出ない。もうどうやったってこの状況はどうにもならない。夏川はクソ!と叫ぶと携帯を取り出した。電話帳にあるバイト先以外の唯一の番号。



しばらく続く電子音を聞きながら気持ちを落ち着かせる。そして電子音が途切れた。



 「もしもし……ユリか?」


 「うん……今日も遅くなりそうだ……」


 「……カレー作ってるから食べててくれ。後、お母さん達が帰ってきたら押入れに隠れること」


 「……そう、うん。ゴメンな。……じゃ後でな」



そこで通話終了ボタンを押す。



それは今までの世界から飛び出るための決意。


覚悟を決めた合図だった。



 「また俺はこの通話ボタンを押す……それまでは死ねない」


 「じゃあ一緒にがんばろーぜ。お兄ちゃん」


 

東城は夏川の手に拳銃を握らせる。それはズシリと重く、冷たかった。



 「……なんだってやってやるよ、クソが」


 「その調子だぜ」



ぺち、と夏川の頭を叩くと東城はたくさんある棚からいくつか凶器を取り出しベンチに座る。



 「一応今回の仕事の確認をする」


 「俺は何をすればいいんですか?」


 「あ、敬語使わなくていいよ」


 「わかり……った」



ケラケラと笑いさらに話を進める。



 「参加メンバーは5人。俺とお前と『天才』くんともう一人新入り」


 「後一人は?」


 「お前殴り倒したホタルちゃん」



……なんだか泣きたくなってきた。



 「あれ、トラウマになるよな。俺もやられたし」


 「……ですよね」


 「すまん、話を戻そう」



東城はまたもやケラケラ笑う。余裕の現れなのだろうが夏川にとってはただのKYである。



 「アザミちゃんによると誰かのデータとりに行くんだとさ」


 「アザミちゃん?」


 「あの黒髪ポニーテール」



今まで世間のことなど気にせず生きてきた夏川にはポニーテールの意味がわからなかったが、とりあえず黒髪の髪の長い方、と思い出す。




 「誰かのデータ?要人とかのですか?」


 「まぁ……なんだその能力者ってやつだ」




夏川は思わず眉をひそめてしまう。というより呆れたような目だ。その目を察したのか、それよりもこの説明自体にもう慣れてしまったのか、なめらかに口が動く。



 「この世界にはいるんだよ、能力者ってやつが」


 「……何言ってるんですか。んなわけないでしょ。俺はそういうのは信じない派です」


 「ざーんねーん。それがいるんだな……」



そう呟くと東城は左手を前に突き出した。何をするのか。それを考える間もなく『それ』は発動した。



ゴトン!と。



 「……は?」



急に拳銃が現れた。それも左手の平から。物理法則とかそういう常識を無視して、水面から出ててくるように波紋を描いていたのも手の平には傷一つないのも全てにおいて理解できない。



 「はぁぁあああ!?」


 「そんな大声出すなって。右手で吸い取った物を左手から出す。それが俺の能力だ」



そういって東城は右手で拳銃を触ると、手の平に波紋を描きながらそのまま吸い込まれていく。夏川は何か仕掛けがあるのかと手を調べるが何もない。再度、東城が拳銃を出すともう一度叫んだ。



それを何度か繰り返し、ようやく夏川は落ち着く。それでも目は見開いたまんまだ。



 「……」


 「驚いたって顔してんな」


 「そ、そりゃあ……」


 「夏川くん、能力のこともそうだが……」



東城はニヒルな笑みを浮かべ夏川を指差す。



 「全てを信じきるな。常識や善意なんて通用する世界じゃないんだよ、ここは」


 「……そう、ですか」



そう呟くがやはり信じられない。そもそも数時間前にこっち側に来たのだ。すぐに適応できるわけがない。しかしそんな夏川にもなんとなく分かることがある。





こんなことで迷っていれば生きていけない。





 「覚悟決めたって顔だな」


 「俺はまだ死んじゃいけないんですよ……」



夏川は気合を入れるために頬をパァンと叩くと



 「また脱線しちゃいましたね。……で、その能力者っていうのは?」


 「さぁ?そこまでは聞かされなかったな」



東城はおどけたように両手を広げ、お手上げといった風にジェスチャーをする。



 「とりあえず、俺らは囮。『本命』が動きやすいようにあちらさんの組織をかく乱しろとさ」





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