デパート②
このデパートはこの辺りでは大きい部類に入ってくる。様々なブランドやメーカーの商品が陳列され、それぞれがしのぎを削る。そんな中のイタリアンを主をする店に入っていった。ワインやピザの匂いがそれっぽさを出していた。
若い店員に一通り注文した後、マニュアル通りに出された氷の入った水をすする。
「そんなに心配しなくてもいいんじゃね?その脅迫犯とやらがどれだけの力を持ってるのは知らんがヒカリ製薬のそれも新人に脅迫する必要なんてねぇだろ」
「じゃあこの写真はなんだ? ロリコン野郎ってんなら計画通りにするぞ」
「落ち着けって。俺もできるだけのことはすっからさ。モチ無報酬でね?っていうかどうせ今回もアザミちゃんがどうにかしてくれるって」
「そっか……助かる」
軽口を叩いている間にピザやらパスタやらが運ばれてきた。しばらく不機嫌な顔だった夏川のくもりがやや晴れた気がする。ここはやはり貧乏時代からの脱却の象徴、豪華なご飯という存在からだろう。
「ユリにも食べさせてやりたかったな……」
「はぁ……お前、二言目にはユリちゃんのことだな。なんでそんな執着してんだよ」
「特にそれといった理由はないな。強いて言うなら使命みたいなもんだ」
「あ、そう。天才の思考回路は分かんねぇわ」
「お前はどうなんだよ」
あ?と東城はピザを食べる手を止める。
「なんで『こっち側』に来たのかって聞いてんの」
「あのなぁ……そういうのは女性に年齢聞くようなもんだぞ。黒崎とかみたいな壮絶な過去なんてないから安心しろ。俺はまぁ……色々あったんだ」
「そう……俺の話だけは聞きまくったくせに」
「うっ、仕方ないな……。あんまり言いたくねぇんだけどな……昔彼女がいたんだけどな」
「えぇ!?」
「どこに驚いてんだオマエ!」
ピザを置いて、重くため息を吐き覚悟を決める。
「その女に騙されてな。借金の肩代わりをさせられたんだ。んで、アザミちゃんに助けてもらったんだ」
「ふぅん、聞いといてあれだけどどうでもいいな。今の話でも出たけどアザミさんて一体何者?」
「一言で言えばサラブレット」
鼻にトマトソースの匂いがつく。それだけ今は余裕のある状況だった。
「あの人は生まれながらの『こっち側』の人間だ。だからあの年であの貫禄なんだよ」
「サラブレッドってことは両親も?」
「だーい正解。俺もよくしらんがね」
ふぅんと、話を聞き流し彼はパスタを口に運んでいく。
自分の時もそうだった。取引なんて言いつつも助けてくれた。何を考えてるのかわからない。ただ、自分やユリの命の恩人だということはわかってる。それだけで今はいいはずだ。
はずだと思っていたい。
鈴科を欲しがっているという点については良く分からないが鈴科に能力のセーブの仕方でも教えたりするんだろうか?などと考えているとレストラン内に筋骨隆々の目出し帽をかぶった男(体格から推測)が入ってきた。
背中にはなにやら不穏なリュック。そして、手には拳銃が握られていた。
周囲の人間が慌てる暇もなく呆然としているとぴーんぽーんと、気の抜けたアナウンスを知らせる音がデパート全体で響いた。デパート内の話し声やざわめきが途端に途切れる。
全員が不安になる中、アナウンスからは加工された音声が出てきた。
『はーい、ここにいる皆さんには我々「クロネコ」の行う国家権力との交渉のため、皆様には生贄となっていただきます』
ぶわっ……と、汗が吹き出した。彼、あるいは彼らはこう言ってるのだ。
お前らは、人質だと。
誰かは叫び声をあげた。
この沈黙を切り裂いたのを皮切りに客、店員の全てが逃げ惑う。
サッカーの試合でシュートが決まった時のような音の波が建物全体を揺らす。が、その音も簡単に収まってしまった。
理由は一斉に響いた銃声。全ての階層で銃声がなっていた。これだけの脅威の前に人々は立ちすくむしかなかった。
そして彼らもケータイ片手に立ちすくむしかなかった。
たった今、彼らはこう言った。
我々『クロネコ』
思わぬところでターゲットは見つかった。




